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Business 公開日: 2019.03.12

2022年には1万店舗を”チェックアウト・フリー”(レジ無し)に――米Zippin

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10年後にすべての店舗がチェックアウト・フリーになればいい。そんな野望を持つレジ無し店舗ソリューションのスタートアップが想いを語る。

 以前は市内でも危険だとされていた地区が、この10年ほどの間にすっかり様変わりした。米国サンフランシスコの南側、SoMa(South of Market)と呼ばれる地区だ。そこにはSalesforce.comの巨大なビルがそびえ立ち、その脇にはSalesforceの名前を関したバスターミナル兼商用施設が出来上がりつつある。サンフランシスコ市内でも最も都会的な場所になろうとしているのかもしれない。少し見る方角を変えると、やや緑がかったガラス張りのビルには、大きくSlackの文字。ロゴこそ見えないが、すぐ近くにはFiNCもオフィスを構えている。

 そんなサンフランシスコSoMa地区で、ひっそりとレジ無し店舗を設けている企業がある。「チェックアウト・フリー」(またはチェックアウトレス)のための仕組みを開発しているスタートアップ企業のZippinだ。
実はこの地域、レジ無し店舗をはじめとする新たな顧客体験を武器にした店舗の集積地のような状態になっている。急な坂道と一緒にサンフランシスコの名物になっているケーブルカーの始発駅、エンバーカデロ駅の近隣には、Zippinのほか、Amazon Go、そして無人レストランのeatsaなどがある。少し離れるもののSoMa地区には、同じくチェックアウトレスのシステムを開発するスタートアップのStandard Cognitionも直営店を構えている。

 観光、ビジネスを問わず人が数多く集まる街。数多くのスタートアップ企業が活躍する街。新しいものに対する受容性が高い街。そんな土地柄だからだろうか。とにかくサンフランシスコには、レジ無し店舗などの新しい取り組みを引き寄せる力があるようだ。

 日本の読者には、レジ無し店舗を体験したことがある方はまだまだ少ないのではなかろうか。店舗での体験は、具体的にはこうだ。まず店舗に入る前に、自分のスマートフォンに専用アプリをダウンロードして、自分のアカウントを登録しておく。最終的には、ここで登録したクレジットカード情報を使って、ネット決済で支払うことになる。

 専用アプリを立ち上げ、登録したアカウントでログインすると、アプリにQRコードが表示される。ここまでで、店舗に入るための準備は完了である。
 店舗に入る際には、まず入り口のフラッパーゲートに搭載されているQRコードリーダーに、専用アプリのQRコードをかざす。手続きはこれだけで、あとは店内を自由に歩き回り、欲しい商品を手にとって、そのままカバンや手持ちの袋に入れて持ち歩けばいい。

 買い物を終えたら、そのままフラッパーゲートに近づけば、自動的にゲートが開いて退出できる。通り抜けるだけだから、待つ必要はない。ゲートを通り抜けると、それを合図に、店舗側は、登録済みの情報に基づいて決済処理を進める。購入したモノの履歴などは、このタイミングで同時に送られてくるレシートに記載があり、いつ、何と何を購入したかはわかるようになっている。

 自分が何をどのくらい買ったかを、システムはどのように把握するのか。ここではZippinの場合を例に紹介しよう。

 ゲートを通過する際、ゲートの真上の天井に設置されたカメラで人を捉え、入店と同時刻にチェックインしたQRコードをひも付ける。個人を認証するのではなく、あくまでも入店のタイミングでひも付けるだけだ。カメラは手のひらサイズの小さなものを、天井のあちらこちらに配置してある。
 以降、天井に多数配備したカメラが店内をマス目状に分けて捉え、マス目をまたがって移動した利用者を、同一利用者として捉え続ける。カメラが、画面中の位置情報から同一人物であるかどうかを判定し、顧客が移動したら別のカメラに引き継いでトラッキングし続ける。このため、例えば店舗内で着替えるなど見た目が変わっても、同一人物として補足できる。これを、顧客がゲートを通って外に出るまで続けることで、決済までつなぐ仕組みである。

 何を購入したかは、カメラの映像と、商品を配置するトレイに埋め込まれた重量センサーのデータから判別する。商品を置いてある位置、包装などから見えるブランドから商品を把握し、重量センサーのデータの変化から商品を取ったのか戻したのかを捉える。これを顧客とひも付けることで、請求先がわかるわけだ。あとは、顧客は商品を持ったまま店舗を出るだけ。店舗を出た直後に、アプリにレシートが送られてくる。もちろん、この時点で決済は完了している。

 デジタル技術を活用することで生まれる、こうした新しい顧客体験は、このままかどうかは別として、徐々に広がっていくものと考えられる。そこで考えられている価値は、どのようなものか。

 ZippinのCEO & Co-founderであるKrishna Motukuri氏は、3月14、15日に開催される「Sansan Innovation Project 2019」のセッションに登壇する(本誌DIGITALISTが同セッションの企画を担当)。そこで今回、講演に先立って現地に赴き、インタビューと、デモ店舗の撮影を敢行。その想いを聞いた。

 (以下、Krishna氏のインタビュー)

アイデアは2014年、Amazon Goに先を越され悔しい思い

“チェックアウト・フリー”というアイデアは、いつ思いついたのでしょうか。

 思いついたのは、2014年、前職でケープタウンからサンフランシスコに戻ってきた頃。平日の夕方、子供のミルクが欲しくて、帰りがけに食料品店(グローサリーストア)で買い物をしようとしたときのことです。

 レジ前には人の列ができていて、たった一つ、オーガニックのミルクを買いたいだけなのに、どう見ても5分は待たされる状況でした。わずかなことですが、これは結構なストレス。結局、そのときは、すぐにオーガニックは諦めて店を出て、コンビニエンスストアで買って帰りました。

 その時に考えたのは、そこに大きなムダが生じているということです。調べてみると、米国では食料品店のレジはだいたい4〜8分ほど待つのが普通らしく、累計では1年で370億時間を列に並んでムダに過ごしていることがわかりました。

 このムダをなくし、消費者や店舗のストレスをなくしたい。だったらレジ待ちをなくせばいい。それから、具体的にどうすれば実現できるか、チェックアウト・フリーの仕組みについて考え始めました。

最初から、今のチェックアウト・フリーをイメージしたのでしょうか。

 いいえ。今のビジネスを始める前、私は15年ほど、Eコマースのビジネスを手がけていました。ですから、まず最初に考えたのは、グローサリーストアに行かずに済ませることでした。

 それで考えたのが冷蔵庫の中にカメラを置くことです。そうすることで、突然何かの食材が足りないことに気づいて買い物に行くといったシーンをなくせると考えたからです。ただ、これはコスト的な問題などからビジネスとしてはうまくいきそうもありませんでした。それよりは、店舗そのものを変えるほうがビジネスチャンスとしては大きいと判断して、チェックアウト・フリーをイメージするようになりました。

 リアル店舗について考えると、店舗設計、販売管理・分析など、いろいろな仕組みが必要になります。それらを合わせて提供することで、小売店のニーズに応えられます。問題は、それらを実現するためのハードウエアのコストです。店舗にとってはこの支出が高いハードルになります。裏を返せば、そのハードウエアの支出を抑えられるソリューションなら、マーケットに合うわけです。そこにビジネスチャンスがあると考えました。

それで、チェックアウト・フリーを実現すれば、消費者のストレスも減らせると。

 そうです。店舗からすると、レジ待ちを嫌う消費者の機会損失を減らすと同時に、店舗運営を効率化する仕組みを低コストで手に入れられます。

 消費者のストレスをなくすことを考えるなら、例えば店舗のレジの数を増やして決済の処理能力を高める手もあります。ただ、これは店舗にとっては大きな負担です。商品を置くスペースは同じでも、レジ待ちをなくすためだけに広いスペースを確保しなければなりません。しかも、それぞれのレジには人を割り当てなければならず、そのための人件費もかかります。チェックアウト・フリーにすれば、そういった小売店の悩みは激減します。

アマゾン・ドットコムが2016年に「Amazon Go」として、やはりレジ無しの店舗を公開しましたね。今では10店舗ほどに増えていますが。

 そうですね。私たちがチェックアウト・フリーの開発を始めたのは2014年ですから、当時はAmazon Goについては知りませんでした。ですから、2016年に彼らが公開したAmazon Goのビデオを見たときには、正直、先を越されたことにがっかりしました。ただ、その一方で、大手が乗り出してきていることで、確かにそこに市場があるのだという感触を得られ、興奮もしました。

アマゾンだけでなく、Standard Cognitionなどの競合も出てきています。

 確かに、競合はいます。ただ、私たちは彼らとはいくつかの点でアプローチが違います。まず、私たちはアマゾンとは違って、店舗運営には興味はありません。あくまでもソリューションを提供する立場です。

ソリューション提供という点では、Standard Cognitionなどは似た立場かと思います。

 そうです。そこはシステムの仕組みの違いがあります。カメラ映像だけで実現しようとすると、商品を棚から取ったのか、いったん手にした商品を棚に戻したのか、判別できない場合があります。商品棚に仕込んだ重量センサーを使うことで、商品そのものがどう動いたかがわかります。

 私たちは、そういったセンサーフュージョンを生かした仕組みを提供していくつもりです。今はカメラと重量センサーの組み合わせですが、将来的には、目的やシーンに合わせて別のセンサーを組み合わせたソリューションにしていくこともあり得ます。

目指すは2022年に1万店、10年後には全店がチェックアウト・フリーに

ソリューションというと、カメラやセンサーといったハードウエアと、映像を解析するソフトウエアを提供するということですね。

 カメラや画像解析のコンピュータなどは、コモディティ化が進んでいますから、その販売ビジネスは考えてはいません。それは他のパートナーなどから購入してもらえばいい。やりたいのはSaaS(Software as a Service)です。画像データや重量センサーのデータをクラウドに集めて、商品の売れ方を管理し、いつ、どのくらい補充が必要になるかなどの情報を提供することがビジネスの中核になります。

 小さな小売店舗にとっては、こうした仕組みを整えることはビジネス上のハードルになります。レジを設けることで、人手も必要になるし、その分のスペースも必要になります。チェックアウトレスにすれば、人手もスペースも抑制できて、そのうえ商品の売れ具合をリアルタイムに把握できます。

 商品がどの棚に配置されているかを常に管理できる点もメリットです。多くの店舗では、顧客が正しく商品を戻さないことなどから、25%ほどの商品が正しい位置に置かれていません。カメラで様子を捉えるチェックアウト・フリー・システムを使っていれば、位置の誤りをいち早く見つけて修正できます。

とすると、単純に自動化する仕組みを導入するだけではなく、バックヤードで映像をチェックしたりするスタッフは必要なわけですね。

 そうです。これは、カメラの映像から商品を判別するという仕組み上、どうしても生じる制約への対応のためでもあります。

 制約が出るのは、例えば商品にロゴが入っておらず、映像だけでは商品の判別が難しい場合。あるいはガムのように小さいもの、紙袋などのように何枚か重なっていると判別しにくいものなど、どうしてもカメラで撮影した映像を識別するだけでは扱いづらいものがあります。

 形がよく似た商品を、誰かが場所を入れ替えてしまうこともあるかもしれません。その場合も、ロゴなどからはっきり区別できればいいのですが、そうでない場合は、いろいろな条件から人がデータを確認して、正解と思われる結果をコンピュータに教える必要があります。

 そのためにはバックヤードに映像を見ているオペレーターが必要です。これも私たちのサービスとして提供できると考えています。こうした仕組みを、月額課金モデルで初期投資を抑えて使えるようにすることで、これからもっと多くの事業者が店舗を構えられるようになるはずです。アマゾンのように1つのブランドではなく、多様なブランドの店舗が広がっていく環境を整えたいと思っています。

チェックアウト・フリーの仕組みは、店舗の中での人やモノの動きをトラッキングする点がポイントですね。だとすると、食料品店のほかでも使える場面がありそうに思えます。

 はい。もちろん、食料品などの小売り以外でも使えます。例えば近い業種でいうと、レストランのようなところでも使えるはずです。顧客が、決まった場所に設置した料理をとって、自分が確保した席に持っていって食べるといったシーンでも、ほぼ同じ仕組みを使ってチェックアウト・フリーを実現できます。

 ほかに、工場の生産ラインとか、病院の中とか、何人もの人が動いていて、その動きに合わせて何らかのサポートをしたり、何かを受け渡したりするようなところでも、この仕組みを応用して、作業を効率化できると思っています。

今後、小売店舗向けのソリューションをどのように展開していきますか。

 まず、技術面の改善を進めます。映像の認識に関して、システムにもっと学習させ、精度を高めていきます。同時に、店舗の展開も進めます。過去12カ月での動きを見ると、いくつもの小売業者がチェックアウト・フリーに興味を持ち、そこへの投資も考えるようになってきています。

 もちろん、店舗展開を進めるうえでは、周辺システムを提供するパートナーや、システムを構築するパートナーなどのエコシステムが必要です。チェックアウト・フリーを的確に導入していくために、店舗をデザインするパートナーも必要です。

 こうしたエコシステムを広げつつ、店舗を展開していきます。まだはっきりとは言えませんが、2022年に1万店舗くらいまで広げたい。10年後には、すべての店舗がチェックアウト・フリーになっていたらいいですね。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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