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Business 公開日: 2019.03.19

【若田光一が対談、宇宙利活用の旅】きぼう利用とコホート研究がもたらす人生100年健康長寿時代(前編)

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東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 機構長山本雅之氏と対談。宇宙における加齢研究の取り組みときぼう利用の有効性とは?

地球近傍軌道(地球低軌道)を民間企業や、研究機関が使うことで、何ができるのか。どのようなイノベーションにつながるのか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事・有人宇宙技術部門長で、宇宙飛行士の若田光一氏が、外部識者たちとの対談で探る。

 今回はその第3弾。ストレス応答研究の第一人者であり、JAXAが開発した小動物飼育装置(MHU)を利用した宇宙実験「MHU-3」の代表研究者でもある東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の山本雅之・機構長と、宇宙を活用した加齢研究の最前線について議論した。

若田 この度JAXAはToMMoと、健康長寿社会の実現を目指した基本協定を締結しました。今後、両者は、微小重力環境を利用したマウス飼育ミッションなどで得られたデータや、コホート研究(特定の人々を一定期間追跡し、環境や遺伝的な要因と疾病の関係を解明する研究)の結果を活用し、個別化予防、先制医療などの次世代医療研究の推進と、加齢メカニズムの解明を目指します。

 この取り組みでは、JAXAが提供する「きぼう」の研究開発基盤とToMMoの最先端研究を組み合わせ、創薬や産業利用など幅広いニーズへの適応を目指しますが、山本先生はこの組み合わせによって、どのような可能性が広がっていくとお考えでしょうか。

山本 ToMMoのコホート研究では、15万人の健常者の方々に参加していただきました。参加した当時は健康でも、長く追跡していると徐々に病気にかかる方も出てきます。研究の開始当初、参加者の平均年齢が60歳くらいになりました。そして、研究開始から5年たった今、参加者の様子を見ると、加齢が強く影響を及ぼしていると感じます。超高齢社会がさらに進むという印象です。

 MHU-3のミッションでは、ストレスに弱い遺伝子を持つ遺伝子組み換えマウス(ノックアウトマウス)を、世界で初めて宇宙旅行させました。そこから得られたデータを使って、日本が抱える超高齢社会問題をいかに賢く乗り切っていくかのヒントを得たいと考えています。

 これらの成果が宇宙旅行に役立つ薬を生み出し、それが転じて高齢者の健康を守る薬の研究開発につながればと期待しています。

若田 今日、ToMMoの施設を見学させていただき、コホート研究の15万人のデータの一部を見せていただきました。とても壮大な研究ですね。医学上、非常に重要な意味を持ちますし、健康長寿社会を実現するために不可欠なものであると実感しました。

 JAXAにも、「きぼう」を使った、健康長寿社会を実現するためのさまざまな実験や研究があります。例えば、地上での研究症例が多いマウスの長期飼育を通じた加齢研究や、タンパク質結晶による新薬設計のための実験などです。そして、その成果を実際にどのようなアプローチで活用していくかについて、いろいろと検討しています。その中で、宇宙で得られたデータを地上の医療につなげていくという視点から、ToMMoが持っているデータベースやノウハウが非常に重要で不可欠なものだと感じ、今回の連携となりました。

 努力の成果を、ToMMoが持つ15万人分のビッグデータと有機的に統合し、健康長寿社会の実現に寄与できることに期待しています。

小動物飼育ミッションで世界をリード

若田 今回、MHUの3回目となるミッションとして山本先生に代表研究者を務めていただき、「きぼう」を活用したノックアウトマウスによる世界初の取り組みに挑戦していただきました。

山本 ノックアウトマウスはフロリダのケネディ宇宙センターから12匹宇宙に送り、「きぼう」に着くまで2日かかりました。私はその打ち上げを見送ってすぐに飛行機に乗って日本に戻り、金井宣茂宇宙飛行士がマウスたちを「きぼう」で受け取ってくれるのを、筑波宇宙センターの管制室でリアルタイムに見ました。

 今回送ったのは環境ストレスに弱いマウスだったので、打ち上げのショックや宇宙旅行のストレスで死んでしまうのではないかと心配していたんです。ですから、金井さんがマウスを収納していた装置を開けてマウスがひゅっと出てくるのを見て、うれしくて大きな声で叫んでしまいました。打ち上げの振動に耐え、ちゃんと宇宙に届いていたのが本当にうれしかったのです。

 実際この12匹中6匹のマウスは、酸化ストレスなどから細胞を保護する「Nrf2」という制御因子を遺伝子操作によって失わせていました。最初は、逆に環境ストレスに強いマウスを送ろうかと思ったのですが、やはり人類の知見に役立てるにはストレスに弱いマウスを宇宙に送り、さらにストレスについて深く研究したいと思いました。

 私たちが1997年に作出したこの遺伝子組換えマウスは、日本を代表する病態モデルマウスで、世界中の何百という研究室に送られています。世界中で病態解明のための研究に使われている日本発のマウスが宇宙旅行をしたということで、ビッグニュースになりました。

若田 JAXAとしては社会実装に結びつける成果も重要ですが、同時に日本の科学技術の発展に努めたいという気持ちもあります。今回の山本先生の取り組みは非常にチャレンジングで、今後世界をリードする研究ですよね。

山本 宇宙開発に関してはNASAの貢献が大きいのですが、ある側面ではJAXAが超えたところもあると感じています。今回のミッションでは、JAXAが世界をリードしたと思っています。

 私は日頃から、21世紀において日本は、知的存在感がある科学技術創造立国を目指すべきであると考えています。JAXAと手を携え、そこに向かっていけることがとてもうれしいです。

若田 山本先生の研究は世界をリードしていますが、そのミッションを支えているJAXAの遠心加速器を使った小動物飼育装置(MHU)も、国際宇宙ステーション(ISS)の中では日本にしかない技術です。私たちは実験装置の面からも世界をリードしていると感じており、ToMMoとの協働によって新たな価値が生まれてくると思います。

山本 宇宙で小動物飼育ミッションを始めたからには、イメージング装置を宇宙で利用するなど新機軸をどんどん取り入れ、10回くらいは続けてほしいと思っています。マウスが生きたまま、遺伝子の動きが見えるライブイメージング装置を宇宙で活用できれば、さらに世界の研究を大きくリードすることになるでしょう。

若田 JAXAでは実際に、イメージング装置の開発を進めています。山本先生がおっしゃったように、宇宙に行く人のためだけの研究ではなく、地上の医療に役に立つ研究の両方を進めていかなければなりません。


後編につづく)


元田光一=テクニカルライター
(撮影:阿部勝弥)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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