「激減し続ける就業者人口に対処するため」「世界市場で競争力を持つ新たな輸出品を育成するため」「食料の自給率を高めるため」……。日本の農業に関わる様々な課題を解決すべく、データをフル活用したスマート農業を実践する取り組みが活発化している。既に、ドローンなどを使った上空からの圃場監視やピンポイントでの農薬散布、耕地に設置したIoTデバイスから収集したデータを分析して最適な農作業の指針を提示する農業クラウドなど、スマート農業を支援するサービスを提供するIT企業やベンチャー企業が数多く登場している。


 農業は、農家の地道な努力と献身によって支える産業から、培った知恵と技をシステム化して最大の効果を追求する産業へと変貌しつつある。目指すのは、魅力的な農業、儲かる農業、競争力を継続できる農業である。最新のデジタル技術を利用し、農業の営みに関連したデータをフル活用する農業、すなわちスマート農業を実践していくことで、その価値の源泉をデータの連携・共有・提供を通じて価値を最大化し、広く活用していく。


 日本政府も、これを後押しする。2018年11月8日の衆議院 農林水産委員会で行われた農林水産大臣所信表明演説の中で、吉川貴盛農林水産大臣は「世界トップレベルのスマート農業を実現するため、新技術の開発や実証・実装を強力に推進していく」と語った。国民の衣食住の一角を支える農業の大変革は国の一大事であり、産業振興の側面からも重要だ。やり方次第では、日本が農業大国になることさえ夢ではない。

農業ほど多様な情報が絡む産業は少ない

 勘と経験を生かし、自然と向き合い、手塩にかけて動植物を育てる農業。こうした点からは、およそデジタル化とは無縁な産業に見える。しかし実際には、気候、水やり、肥料、農薬など多様な要素が複雑に絡み合って成果が決まる農業こそ、デジタル技術を駆使して解析・制御すべき領域といえる。生産性や作物の品質を高めるためには、作物の品種ごとの特性、土壌の質や耕地がある場所の特徴、気象、さらには市場のデータなど様々な要素を勘案する必要がある。これまでは、考えるべきことがあまりにも複雑だったため、コンピュータで処理することが困難で、農家の熟練した勘と経験に頼らざるを得なかったのだ。


 今は、IoTにより比較的容易にデータを収集できるし、ビッグデータ解析や人工知能(AI)により複雑な要因の中から取るべき施策を導き出すことも可能になった。データを駆使した農業の実践に必要な要素技術がそろいつつある。「日本の農家には高品質な作物を作る知恵と技があります。こうした強みをシステム化し、広く、恒久的に展開できるようにすることで、日本の農業の競争力は飛躍的に高まるでしょう」と慶応義塾大学 環境情報学部 教授の神成淳司氏はいう。


 ただし、スマート農業を実践するには、まだ大切な要素が足りなかった。スマート農業で扱う多様なデータを相互に連携させられないことだ。例えば異なるメーカー製の農機から取得したデータは、それぞれ独自の形式で蓄積されるため、統合して扱えない。また、気象や土壌データといった、公的機関が保有しているデータも、その所在が国の関連官庁や都道府県、市町村、研究機関などに散在し、組織の枠を超えた一元活用ができない。そもそも参照したいデータがどこにあるかするか定かではない。たとえデータをたくさん保有していたとしても、生かし切れない状況だったのである。


スマート農業に向けたデータの扱いに関わる課題
(左)多様なデータ間での連携が取れなかった、(右)必要なデータが散財していて一元活用が困難っだった(出所:農林水産省の資料「農業データ連携基盤の構築について」)

スマート農業の肝は、関連情報の円滑なやり取り

 スマート農業では、複雑に絡み合う多様なデータの間での相関を俯瞰し、これまで勘や経験に頼って判断していたことに明確な指針を示すところが重要になる。さらに、個々の農家が取得したデータにとどまらず、各農家の情報を統合した方が、解析精度は高まるだろう。このため、農業の生産性を高めるには、データを連携・共有・活用できるデータプラットフォームの構築が欠かせない。


 日本政府は、「農林水産業・地域活力創造プラン」の中で、2025年までにほぼ全ての農業の担い手が、データを活用した農業を実践できるようにするという目標を掲げている。そして、2018年6月に閣議決定した「未来都市戦略2018」において、農業関連情報を連携・共有・提供するための大動脈となるWAGRIを2019年4月から本格稼働させ、関連業界の企業の幅広い参画を推し進めていくことを決めた。農研機構が運営主体となって、予定通り運用を開始する。


WAGRIの構造
(出所:農林水産省の資料「農業データ連携基盤の構築について」)

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.