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Business 公開日: 2019.03.28

新たな顧客体験を提供する次世代型店舗の中心にある「進化した鏡」

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オンラインとオフラインを融合させ新たな顧客体験を提供する次世代型店舗の中心でスマートミラーの存在感が高まっている。

ジャパンディスプレイが神谷コーポレーション湘南と共同開発した、コンシェルジュ機能付きミラーで全面を覆ったドア。(ジャパンディスプレイのニュースリリースより)
 調査会社のMarketsandMarketsによると、世界のスマートミラー市場は2018年時点で約28億2000万ドル(約3100億円)。市場としてはまだ小さいが、注目すべきはその成長性。5年後の2023年には、1.5倍以上の44億2000万ドル(約4860億円)にまで拡大するという。この成長の裏には、スマートミラーの進化がある。

 少し前のスマートミラーといえば録画機能やネット接続機能を備え、タッチパネル操作で情報端末としても活用できるといったことが特長だった。それが今では、AI(人工知能)やAR(拡張現実)機能を搭載し、小売業が目指す「次世代型店舗」の中心に位置するキーアイテムへと進化している。

 例えば、メガネショップのジンズが2019年1月、東京・上野のJR上野駅構内にオープンした次世代型新店舗「JINS BRAIN Lab.(ジンズ・ブレイン・ラボ)エキュート上野店」にも、スマートミラーが採用されている。「JINS BRAIN Lab.エキュート上野店」は、リアルとオンラインの利便性を融合させた「購入受付専門」の店舗。顧客が店内に設置されたスマートミラーに向かってメガネをかけると、「似合うか似合わないか」をAI(人工知能)が判定して、似合うメガネをリコメンドしてくれるというサービスを提供している。

 このユニークな顧客体験を実現するAIを活用した仕組みを、ジンズは独自開発している。約3000人のJINSスタッフが、膨大な情報から「メガネが似合うか似合わないか」を手作業で評価し、約30万件のデータとして蓄積。独自開発のAI「JINS BRAIN」に学習させた。そして、「JINS BRAIN」をスマートミラーに組み込んでいるのだ。

 AIが男性店員と女性店員の役割をし、顧客がメガネをかけて、スマートミラーに向かうと、その場で男性目線と女性目線のそれぞれで「似合い度○○%」というように判定する。スマホアプリと連動して似合ったメガネをそのままオンラインショップで、キャッシュレスで購入までできてしまう。

 来店し、メガネを選んでスマートミラーに向かうと、「似合い度」がわかる。新たな顧客体験にとどまらず、スマートミラーが起点となって、試着から意志決定、そして購入(決裁)までをサポートしている次世代型店舗といえる。

3Dアバターとスマートミラーでバーチャルフィッティング

 また、アパレル店舗向けのスマートミラーもテクノロジーでさらに進化している。顧客のアバターを作成し、実際には着替えなくても試着できるといったバーチャルフィッティングミラーが普及しつつあることからもわかる。既にメイキップが、AR・VR技術を専門としている韓国のスタートアップ企業FXGearと販売代理店契約を締結。同社のバーチャルフィッティングミラー「FXMIRROR」を、2018年9月から販売している。

 このスマートミラーを設置した店舗では、来店した顧客が鏡の前に立つだけで身体のサイズを測定し、3Dアバターをその場で作成できる。あとは、そのアバターに好きな洋服を選んできせていくだけ。試着した画像がミラーに映し出される仕組みだ。
FXMIRRORの紹介動画
 アバターには、顔の表情や身体の動作もリアルタイムで反映されるため、生身の人間が試着しているのと変わらない自然なバーチャル試着が可能となっている。ヘアスタイルを変えることもできるほか、商品に添付されたQRコードをミラーでスキャンするとアイテムの詳細情報をミラー上で確認でき、購入ページへアクセスすることもできる。

 店舗に在庫がない商品や、ネット限定商品などの試着も可能なので、試着できないことによる販売機会の損失を減らせる可能性が高まる。FXGearは、中国のEC大手であるJDグループ(京東集団)とも連携しながら、2020年5月までに5万台の供給を目指しているという。

一般家庭にも普及し始めたスマートミラー

 一方、家庭で使うコンシューマー向けでも、AR機能を活用したスマートミラーが登場している。ベンチャー企業のNoveraが2019年内に発売予定の「novera」がそれ。これは、利用者の肌や健康、ストレスなどの状態を分析し、記録・管理する機能を備えているスマートミラーだ。
noveraの紹介動画
 ほかに、AR機能を利用してスキンケアやメイクのシミュレーションまでできるという。発売前で、しかも予定価格が5万9800円(税別)だというのに、予約が好調とのことだ。

 ジャパンディスプレイは、コンシェルジュ機能付きミラーを開発。通常は普通の鏡だが、音声操作により瞬時にディスプレイに変化し、スケジュールや天気予報などの情報を表示するというものだ。鏡を見て身支度しながら必要な情報を確認するといった使い方が可能で、例えば朝の忙しい時間帯などに、時間を節約できる。
ジャパンディスプレイのコンシェルジュ機能付きミラー(出典:同社ニュースリリース)
 ユニークなのは「遅れ鏡」機能だ。内蔵カメラで鏡に映った画像を撮影し、数秒遅れで再生する。この機能により、確認しづらい後ろ姿のスタイリングをチェックできるという。内蔵カメラで撮影した画像は、スマートフォンなどへ転送することも可能。身支度やスケジュールチェックなどを効率的に行い、慌ただしい朝にゆとりをもたらす次世代の鏡といえる。

 ジャパンディスプレイはこのコンシェルジュ機能付きミラーを、一般顧客向けに販売するほか、小売店鋪の販促ツールとして活用することも視野に入れている。また、室内ドアの専門メーカー神谷コーポレーション湘南と、コンシェルジュ機能付きミラーで全面を覆ったドアを共同開発。2019年度中の一般販売を予定している。

 従来から使われている「鏡」というツールに、AIやAR、アバターなどのデジタル技術や機能を組み込むことで、これまでにない新しい体験を生み出し、利用者や顧客により満足してもらえるようなサービスを提供することが可能になる。スマートミラーの活用の幅は確実に広がっている。今後、百貨店やアパレル、美容院、さらにはコンシューマーにまで利用シーンが広がっていくと、スマートミラー自体もさらなる進化を遂げていくかもしれない。


林 渉和子=タンクフル


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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