資源を保護し、サステナブルな社会を作る――。


 社会システムでのIT活用が浸透する中で、資源保護を目的にブロックチェーンを活用する例がある。具体的には資源のトレーサビリティー管理だ。どこで、誰が、どんな手段で得た資源が、どのように流通してきたのかを管理することで、資源の使いすぎや違法採集、偏りなどをなくすとともに、情報を開示することで企業の透明性を高める取り組みである。


 例えばドイツのSAPは、米国の食品会社 Bumble Bee Foods(以下、Bumble Bee)とともに、ブロックチェーンを活用したマグロのトレーサビリティー管理の仕組みを立ちあげた。Bumble BeeがSAPのBaaS(Blockchain-as-a-Service)である「Cloud Platform Blockchain」を使って、インド洋産のキハダマグロが家庭の食卓に届くまでのプロセスを追跡する。


 食品のトレーサビリティーを管理する目的の一つは、食の安全確保である。食材の出所や流通過程での状態をはっきりさせることで、消費者が安心して購入できるようにする。多くの事業者が商品の信頼性をアピールする付加価値として、生産者情報などを積極的に公開している。加えて、2018年6月には、「食品衛生法等の一部を改正する法律」により、食品関連事業者は、生物的(病原微生物など)、化学的(残留農薬、抗生物質、洗浄剤・消毒剤など)、物理的(金属片、ガラス片など)な観点から、製造から加工の各工程についての履歴を管理するよう定められるなど、法令面でも食品に関するトレーサビリティー管理を求められるようになっている。


 ただ水産物のトレーサビリティー管理の目的には、食の安全確保だけでなく、水産資源の保護や持続可能な漁業の推進といったこともある。世界的に水産物の需要が高まり続ける中で、過剰漁獲やIUU(違法・無報告・無規制)漁業の蔓延が以前にも増して大きな問題になっているためだ。世界全体の漁獲量のうち13~31%をIUU漁業が占めており、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)適用水域におけるメバチマグロでは総推計漁獲量のうち35%をIUU漁業が占めると推計したレポートもある(2017年 国際シンポジウム「水産物の透明性と持続可能性」配布資料より)。こうした破壊的な活動が続けば、さまざまな保全対策も効果が薄れてしまう。海洋資源の減少を食い止めるには、科学的な根拠に基づいた資源管理が欠かせない。


 今回ブロックチェーンで管理する「Bumble Bee Foods’ Natural Blue by Anova yellowfin tuna」のトレーサビリティー情報には、マグロのサイズや捕獲ポイント、捕獲した漁業チームなど、マグロが市場に届くまでのプロセスに関する情報が含まれる。加えて、真正性や新鮮さ、安全性、公正な漁業取引の証明なども得られるという。これらの情報を把握すれば、環境保護を考慮した捕獲や取引を実現しやすい。


 Bumble Beeの最高情報責任者(CIO)であるTony Costa氏は、「SAPのシステムでマグロを捕獲したその瞬間から世界中の目的地に届けられるまでを追跡できるようになった。マグロ1匹ずつの来歴がわかるだけでなく、生態系のずっと先につながっている人々の暮らしにまで良い影響を与えられる。ブロックチェーン技術を導入したことで、Bumble Beeとしても、トレーサビリティー管理の透明性を高めることができた。顧客に提供する魚は新鮮さを保ち、International Seafood Sustainability Foundation(ISSF、マグロ資源の保全に取り組む国際基金)への誓約どおり、公正に供給されることを保証できる」とコメントしている。


【左】世界の水産物生産量、【右】世界の水産資源の動向。国連食糧農業機関(FAO)によると、1974年は10%だった過剰漁獲が2015年には33.1%まで増加している(出所:日本生活協同組合連合会)

 食品としての分野は異なるが、コーヒーやカカオなどのフェアトレードに関しても、ブロックチェーンを活用する動きがある。これらの取り組みは、以前から世界的に行われてきた。ただ、その実態について信頼性や確実性を疑問視する声は根強い。そこで、情報を改ざんしにくいブロックチェーンを取り入れている。例えば米スターバックスは、「Bean to Cup」と呼ぶ取り組みを通じて、コーヒー豆の持続可能な調達や、生産農家の労働環境および収益の改善に努めている。このBean to Cupを、より透明性の高い活動にするため、コスタリカ、コロンビア、ルワンダの契約農家とともに2018年からブロックチェーンを使ったトレーサビリティー管理を試験導入している。このほかにも、欧米や南アフリカなど、複数のコーヒーショップが同様の取り組みを行っている。


自動車とともに市場拡大する天然ゴム

 食品ではなく資源についても、安定供給を目指してブロックチェーンを活用し、トレーサビリティー管理を実現している例がある。例えば伊藤忠商事が、天然ゴムのトレーサビリティー管理にブロックチェーンを導入しようと動いている。天然ゴムは主にタイやインドネシアなどの東南アジアで生産され、その約7割が自動車などのタイヤに利用されている。世界的に自動車市場が拡大していることもあり、天然ゴムの需要は今後も伸びていくといわれる。一方で、天然ゴムには森林の減少や地域住民の権利侵害といった課題があり、環境や人権に配慮した事業活動の推進が求められている。


 伊藤忠商事は2018年10月、持続可能な天然ゴムの新たなグローバルプラットフォーム「Global Platform for Sustainable Natural Rubber(GPSNR)」に設立メンバーとして参画。2019年2月からは、インドネシアで天然ゴム原料を調達するサプライチェーンにおいて、ブロックチェーンを用いたトレーサビリティー管理システムの実証実験を進めている。


天然ゴムのサプライチェーンと実証実験のイメージ(出所:伊藤忠商事)

 実証実験では、伊藤忠商事の現地子会社である天然ゴム加工会社のサプライチェーンにおいて、伊藤忠テクノソリューションズが開発したシステムを用いる。スマートフォン用アプリケーションで原料の生産者から天然ゴムの加工業者に渡るまでの取引内容を相互認証し、日時・位置情報などと合わせてブロックチェーン上に記録する。


 2019年3月には、持続可能な天然ゴム取引のためのマーケット・プラットフォームを運営するシンガポールのHEVEACONNECT PTEの第三者割当増資を引き受け、資本提携に合意している。HEVEACONNECTのプラットフォームで売買される天然ゴムは、、HEVEAPROと呼ぶ独自認証を取得した加工工場で製造されたものに限定されている。今後、HEVEACONNECTとトレーサビリティーシステムの連携も視野に入れて、持続可能な天然ゴムの調達と販売を目指すとしている。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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