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Business 公開日: 2019.04.22

遠隔運転+自動隊列走行が物流を変える、5G実用化で現実味

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5Gの実用化とともに、クルマを遠隔操作する遠隔運転が脚光を浴びつつある。自動隊列走行と合わせて、物流革新のきっかけになるかもしれない。

※ 上の写真はMWCで展示されていた遠隔運転のデモの様子(撮影:筆者)。
 自動運転、特に、インフラ側を変更することなく走行する種類の自動運転は、実現までに、まだ多くの技術開発が必要とみられている。ただ、遠隔地から人間がクルマを操作する遠隔運転は、もっと実用化への道は近そうで、5Gの実用化とともに脚光を浴びつつある。これに自動隊列走行を組み合わせることで、物流を革新できると期待されている。

開発に時間を要する自動運転

 自動運転に元気がない。昨年までの高揚感は消え去り、落ち着いた取り組みになっている。1月に開催された民生技術の総合展示会CES2019(ラスベガス)でも、自動運転は以前よりグッと小さな扱いになっていた。

 自動運転車は、昼夜を問わず、あらかじめ指示された場所までは走れるようになった。20年前から見れば大きな進歩である。

 期待も大きい。自動運転車を持ってくれば、道路があればどこにでも連れて行ってくれる、と期待が生まれる。また「死亡事故の90%以上が人間によるミスが原因」との統計に基づいて、「事故ゼロ、死者ゼロ」を標榜する自動車メーカーもある。

 とはいえ、現在の自動運転技術は、まだ人間が行って来た運転レベルには達していない。例えば初めて訪れた、何も情報がない場所は走れない。走行する場所の詳細な「地図」を事前に用意する必要がある。ここでいう地図は、道路のつながりだけではなく、道幅、車線の数、標識の位置など、多くの情報を統合した、自動運転車用の地図で、事前に用意して地図として与えておかなければならない。海外で、自動運転車両によるタクシーサービスが行われている事例もあるが、ほんの十数km四方の範囲内である。これは、自動運転可能な地図を作れたのが、それだけの範囲に過ぎないからだ。

 ラスベガスでは現在も、配車サービス事業者Lyftと自動車部品大手のAptivが共同で自動運転の実証を続けている。Aptivに限らず、ティア1(Tier1)と呼ばれる大手部品メーカーは、中小の自動車メーカー向けに「自動運転パッケージ」を販売すべく以前から開発を行っており、ハイレベルの技術を持つ。
ラスベガス・コンベンションセンターに設けられた自動運転専用レーンにやってきたLyft/Aptivの自動運転車。自動運転を示すナンバープレートがつけられている
 このような、そのようなハイレベルの企業が開発中の車両であっても、車両にはドライバーとコンピュータ担当者が座り、あらゆる事態に備えている。もちろん、ラスベガス市があるネバダ州の交通法規では、私有地内での自動走行ができないため、ホテルなどに出向いたときには敷地内で手動運転しなければならないことも理由になってはいる。加えて、コンピュータ担当者まで必要というのは、まだまだ大変な状況であることを示している。

 実際、2019年4月に入って、米フォード・モーターのジェームス・ハケットCEOも「完全自律運転の実現は思ったより早くない」との意味の発言をしている。

5Gの実用化でにわかに脚光浴びる「遠隔運転」

 自動運転が、その難しさに苦しんでいる一方、急速に脚光を浴びてきたのが遠隔運転である。ラジコンよろしく、運転者は車両に搭乗せず、離れた場所から運転する。ただし、外から機体を見ながら操縦するラジコンとは違う。遠隔運転の場合、運転者は対象車両の疑似運転席に座り、そこで眼前のスクリーンに映し出される景色を見ながら操作する。

 これまで、遠隔操縦は専用の無線周波数を確保し、車両と操縦者を直接結ぶしか方法がないと思われてきた。そのためには周波数確保が必要で、電波資源が逼迫する中では事実上実現は難しい。

 国から専用の周波数の割り当てを受けられない状況で、一般の利用者が通信を行うとすると無線LANか携帯電話網を使うことになる。ただ、これまではいずれの方式も遅延が大きく、運転といった俊敏性が求められる用途には向かなかった。

 この状況を変えるのが5Gだ。無線区間の遅延は1ミリ秒、地上区間を含めても10ミリ秒程度の遅延での通信を実現できると期待されている。

 5Gを使った遠隔運転は、かなり前からMWCでデモ展示されている。2015年にはEricssonが建機を操作してみせた。操縦者はHMD(ヘッドマウント・ディスプレイ)を装着し、建機の視点からの視界を確保している。建機はほとんど移動せず、腕を動かしたり、腕の先のバケットを操作していた。操作対象までの距離は約2500kmである。
2015年のMobile World Congress(MWC)でEricssonが行った建機の遠隔操縦デモ。当時規格化中の5Gを使い無線区間の遅延時間を抑えている
実験に使われた建機は、バルセロナ(スペイン)から約2500km離れたエスキルストゥーナ(スウェーデン)に置かれていた 写真3:MWC017では、Ericsson
 2017年のEricssonのデモでは、ゴーカートの運転となり、ハンドルさばきを体感できた。50km(直線距離)離れたサーキットに置かれたゴーカートが、展示ブースの運転席の操作で動く。速度は、最高で時速約10km程度であった。実際に試してみたが、違和感なく運転できた。
MWC017では、Ericssonのデモはゴーカート運転となった。5G(規格化中)を使い、50km離れたサーキットに置かれた車両を運転する
 同じ年、Nokiaはブース内で5Gを使ったラジコンの操縦をデモした。こちらは、4Gと5Gを切り替えて運転できる。ブース内であっても、4Gでは無線部分の遅延が大きく影響してくる。運転を試した人達は、ラジコンカーをよく壁に衝突させていた。
MWC2017で、Nokiaは4G/5G切替により遅延の影響を体感できるデモを行った。5Gモードではスイスイ走れても、4Gでは途端に壁への衝突が続出した

トラックによる配送も遠隔で無人化

 MWC Barcelona 19では、Ericssonがトラックの遠隔運転をデモしていた。こちらは、スウェーデンの遠隔運転・自動運転技術開発企業Einride、通信事業者Teliaなどと共同で開発しているものだ。Eindideは無人の実験用電動トラックT-Podを開発しており、これを用いた実証実験を実施している。この電動トラックをスウェーデンのサーキットに置き、バルセロナから操縦した。
MWC Barcelona19でEricssonが行ったデモでは、2500km離れたサーキットに置かれたトラックを5G経由で運転できた。
 画面写真下部に示された速度表示のとおり、トラックの移動速度は時速5kmと極めてゆっくりしたものだが、2500km彼方から問題なく運転できたことは意義深い。Ericssonなどの3社は、ドイツの大手運送事業者DB Schenkerがスウェーデン内に持つ施設で自動運転や遠隔運転を実験中という。

 トラックを遠隔運転できるようになれば、運送効率を大幅に高められる。遠隔運転のドライバーさえ交代すれば、それぞれのドライバーは休憩を取ることができ、その間もトラックを走り続けさせることができるからだ。

 ターミナルに入った後も、ドライバーは荷物の積み降ろしなどの作業から開放され、次のトラック運転にとりかかることができる。すべては、「ドライバーが運転席に座る」という制約を取り外したことから可能になる。

 将来、遠隔運転が実用化されれば、ドライバーは運送会社の「運転センター」に出勤し、ここで「遠隔運転席」に座って、トラックを運転するようになるだろう。ドライバー自身がセンターから離れることはなくなる。

 より野心的な運用も考えられる。例えばコンピュータの世界で言う「ホット・スワップ(動作中の交代・交換)」を適用すれば、休憩のためのドライバーの交代も走行中に行える。休憩時間になる少し前から、交代するドライバーを同じトラックに「接続」し、交通状況に慣れさせて、タイミングを見て操作を「引き渡す」といったイメージである。航空機では、コックピットに2人の操縦士がいて片方から他方に操縦を引き渡す、ということは頻繁に行われる。遠隔運転のトラックでも同じことが可能なはずだ。現在は、一定時間ごとにサービスエリアに寄り、休憩しなければならないが、ドライバーのホットスワップを実現できれば、一秒たりともトラックを停止させずに済む。

運転代行サービスも遠隔運転でビジネス拡大か

 対象となる車両に乗り込まずに運転する、ということは「運転代行業」もこの方法で実現できる。現在は、運転代行を依頼すると最低2人の担当者が車に乗ってやってくる。そして、1人が預かった車を運転し、もう1人は乗ってきた車で後を追う。1台の車を動かすために2人の人間と1台の車が必要で、依頼主の移動時間に加えて、ドライバー自身の移動時間がかかる。もちろん、自身の移動時間の間、ドライバーは他の業務は行えない。

 運転代行業が、遠隔運転を元にしたものになれば、利用者は依頼する代行業者の「運転センター」と自車を接続すればよい。行き先、支払いなどの情報を提供し、先方が了承すればすぐに移動開始となる。目的地に着いたら、代行業者は接続を切り、すぐに次の顧客のために運転を始められる。移動時間もなければ、もう1人やもう1台は不要となる。大幅な効率アップだ。

 都市部での自動運転が今後10年は望めないとしても、遠隔代行は比較的早期に実現できるかもしれない。自動車が十分な周辺情報(映像・音響)を伝送できるようになれば、認可される可能性はある。自動運転のように、地図の完備を待つ必要はない。こう考えると、自動運転モードを持つ車よりも、遠隔運転対応の乗用車の方が廉価かつ迅速に広がっていくというシナリオは十分かんがえられそうだ。

 話をトラックに戻そう。高速道路のトラック運用の効率化としては、自動運転の隊列走行が試されている。米国では、連邦政府管理の高速道路(インターステート・フリーウェイ)で、通過する各州の州法が認めれば隊列走行が可能となった。ただし、米国の場合は、後続のトラックにもドライバーが搭乗し、ハンドル操作を行うことが求められる。アクセル・ブレーキの操作のみ自動化が認められている。欧州では、後続車両の完全自動化を目指して実験が続けられている。累計3万kmの走行実験がDB Schenkerから発表されている。
CEBIT2018では、DB Schenkerがドイツ国内で実施中の隊列走行(後続車自動)の実験を説明した。ドイツ国内では2台だが、北欧では3台の隊列も実験するという
 隊列走行は、人間が運転する先行車両があるだけに、隊列の後続車では、単独での自動運転ほどの高い制御機能は必要なさそうだ。

 自動隊列運転が可能になれば、次は先頭車両の運転を遠隔化することになるだろう。先頭車両の自動運転はまだ先でも、複数車両からなる隊列を1人で遠隔運転できれば効率向上は著しい。

 後続車が完全自動化された自動隊列走行と遠隔運転は、ともに近い時期に実用化されそうな状況にある。ならば、両方式を融合するのは自然な流れ。5Gで通信しながら遠隔に運転される隊列が高速道路を走るようになるだろう。そして、その隊列には誰も搭乗していない。世界各地で、高度な効率化を追求した物流網が動き出すかもしれない。


杉沼 浩司


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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