地球近傍軌道(地球低軌道)を民間企業や、研究機関が使うことで、何ができるのか。どのようなイノベーションにつながるのか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事・有人宇宙技術部門長で、宇宙飛行士の若田光一氏が、外部識者たちとの対談で探る。


 今回はその第4弾。創薬企業として世界から注目されているペプチドリームの副社長である舛屋圭一氏と、国際宇宙ステーションの「きぼう」を活用した高品質タンパク質結晶生成実験について議論した。

人間の生命活動を支えるタンパク質

若田 ペプチドリームが現在取り組んでいる事業について教えてください。


舛屋 私たちは創薬系バイオベンチャー企業ですが、一般的な製薬会社ではなく創薬のためのリサーチに特化しています。


 通常、製薬会社といえば薬を作るだけでなく、臨床試験なども自前で行います。その後、新薬の承認申請から製造にまで関わり、さらにはマーケティング、MR(メディカル・レプリゼンタティブ:営業担当者)による病院への売り込みまで、薬品の開発・製造・販売のすべてを手がけています。


 これに対して、ペプチドリームは医薬品の候補化合物を作る以外の機能は持っていません。企業や研究機関・アカデミアと共同で医薬品等の研究開発を行っています。


若田 そもそも、タンパク質は医薬品にどのように関係してくるのでしょうか。


舛屋 タンパク質は私たちの生命活動を支える重要な分子です。遺伝子の複製や免疫システム、酸素の運搬、食べ物の消化・吸収、体の働きを調整するホルモンなど、生きていく上で必要な活動のほとんどがタンパク質によってなされています。


 タンパク質の形(構造)と働き(機能)には密接な関係があります。タンパク質の構造が詳しく分かれば機能を推測でき、その機能の働きを促進させたり阻害したりする化合物を設計することが可能になります。医薬品の多くは、こうしたタンパク質の機能を調整して効果を発揮させます。そのため、病気の原因となるタンパク質の構造を調べることは、新しい薬を作り出す上で欠かせない作業といえます。


 医薬品は、分子量の大きさによってカテゴリーが分かれます。分子量の小さい低分子医薬品は飲み薬など、分子量の大きい高分子医薬品は免疫システムのようなバイオ医薬品などに使われてきました。それぞれに長所短所があるのですが、私たちはその中間のカテゴリーに位置するペプチドという物質をベースに、「薬の種」になる物質を創り出し、それを薬に仕上げて臨床試験を実施する事業者に渡します。


 ペプチドはアミノ酸がつながって構成されている物質ですが、つながっているアミノ酸の数が増え、ある長さを超えるとタンパク質と呼ばれます。すなわち、ペプチドとタンパク質は分子量がちがうだけで、基本的には同じ物質であるといえます。


若田 ペプチドリームのようなビジネスモデルは、世界的に見ても特殊なのですか。


舛屋 創薬ベンチャーの場合、大抵は1、2個の種から薬を仕上げたり、大きな製薬企業とパートナーシップを組んで臨床試験まで実施するようなビジネスモデルになっています。


 これに対して、ペプチドリームは薬の種を見つける独自の技術を持っていて、100種類近い創薬のプロジェクトが並行して走っているようなビジネスモデルになっています。


 このように、薬の種を一から見つけられる仕組みを持っている企業は少ないと思います。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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