「だからこそのスマート水門だ」と下村氏は強調する。既に前モデルの「paditch gate 02」については2018年度中に約100台のデバイスを出荷しており、面積にして33~34ヘクタール程度(東京ドーム6個分強)の水田の水管理に利用されている。「何よりものメリットは、田んぼに足を運ばなくても済むこと。導入農家にはそのメリットを実感していただいている」と下村氏は反響を語る。


 2018年11月にはイベントの「paditch summit 2018」を開催。導入ユーザーを含めて約50人が来場し、笑農和に対するフィードバックが多数寄せられたほか、来場者同士における情報交換がなされたという。


 2019年度にリリースした第2弾の「paditch gate 02+」では、先行ユーザーのフィードバックを受けて機能を強化した。最大の強化ポイントは管理精度の向上だ。アラート機能を強化して水門の状態をよりきめ細かに把握できるようにしたほか、センサーの感度を調整して実際の現場で適用しやすい仕様にした。


 「屋外は環境条件が多様なので、設置状況によってはセンサーの感度が良すぎて余計なアラートが出たり、逆に鈍くて反応しなかったりといった状況があった。こうした声を踏まえて、より適切な管理ができるように工夫した」(下村氏)。

将来は水管理の自動化を目指す

 現状の基本機能は水門の遠隔操作だが、将来は水管理の自動化を目指す。水温や水かさなどの条件を考慮しながら水門をインテリジェントに制御し、理想的なコメが育つような水管理をpaditchが肩代わりするというものだ。


 これまでの取り組みで水管理に関するデータも蓄積されてきた。ただ、試行期間を含めた2年分のデータを取得して分かったのは、意外にノイズが多いという事実だった。「水田は風が吹くと水かさが瞬間的に大きく増える。この瞬間とセンサーによるデータの取得タイミングが重なると、データとしては有効ではないノイズばかりが増えることが分かった」(下村氏)。こうした要素を取り除きながら、篤農家が備える水管理の技をデータとして蓄積していきたいと下村氏はいう。


 さらなる将来像として下村氏が描くのは、地域の水田に設置された複数のスマート水門が協調動作し、水管理が複数の水田で最適化されている姿だ。


 稲作では多くの場合、用水路を複数の農家がシェアする形になっている。そのため一部の農家が水管理でミスをし、その影響が積み重なると「農家のコミュニティで不和を招くことがある」(下村氏)という。


 例えば用水路の上流に位置する水田の農家が水門を閉め忘れて、下流の水田に水が流れ込んでこないというケース。下流の農家が上流の農家の水門を閉めに行くこともあるが、こうした水門管理の不手際が重なって農家同士のケンカに発展することもある。なお、paditchシリーズの水門デバイスは、遠隔操作に不具合が起きた場合を想定して手動による開け閉めが可能になっている。


 用水路に隣接する農家すべてにスマート水門を導入し、用水路に流れている水量と各水田の水量を見ながら最適になるよう協調動作させられれば、こうした揉め事を減らせる可能性がある。「もちろん導入条件など様々な課題はあるが、これがpaditchで描いている理想形の一つだ」と下村氏は語る。


 日本人の米の消費量は減りつつあるが、それでも日本文化と米は切っても切れない関係がある。また国内の人口減を踏まえて、米の海外輸出への期待が高まっている。一方で、先にも触れたような人手不足と異常気象によって、美味しい米の総量が減ってきているとも言われている。下村氏は「水管理の自動化と最適化により、将来も変わらず美味しいと言われる日本の米づくりに貢献したい」と語る。2020年春には、パイプラインで水を供給する水田に向けた、バルブ型のデバイスも提供する計画だ。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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