※ 上記写真は、IGTVを発表するInstagram 共同創業者 兼 CEOのケビン・シストロム(出所:Instagram

 Instagramは6月20日(米国時間)、動画専用の新アプリ「IGTV」をリリースした。Instagramの動画は60秒の時間制限が設けられていたが、IGTVでは10分もしくは1時間までのビデオを投稿できるようになる。スマートフォンでの視聴を前提にしているため、縦長の動画を標準としている点が特徴だ。


 ビデオの世界的なプラットホームの代表格には、デスクトップWebでもモバイルWebでもGoogle傘下のYouTubeが挙げられる。「YouTuber」という言葉が誕生して数年がたった今、動画投稿で生計を立てる人々が日本の小学生から憧れられるようにもなった。


 YouTubeはオンラインビデオの「カルチャー」と「ビジネスモデル」の両方を作り出したサービスだ。そんな動画の世界で、InstagramはどうやってYouTubeに対抗していくのか。また、IGTVに勝算はあるのだろうか。


インスタのソーシャルグラフを最大限に生かす

 前述したとおり、IGTVはInstagramとは別のアプリとして提供されている。しかし、ダウンロードして初めてアプリを開くと、既存のInstagramアカウントと連携するよう促されるため、面倒な登録作業をすることなく使い始めることができる。


 アプリを開くと、すぐにビデオの再生が始まる。というのも、自分がInstagramでフォローしている人たちが投稿した動画が、次々に再生されていくからだ。Instagramで既にできあがっているコミュニケーションとソーシャルグラフを十分に生かしており、ユーザーはすぐにアプリの魅力を存分に体験できることになる。


 動画を投稿する場合は、IGTVでチャンネル開設の手順を踏めばいい。ただし、今のところIGTVには広告の仕組みは用意されていない。実際、Instagramをマーケティングに活用してきた企業は手持ちのビデオを投稿しており、企業アカウントを多くフォローしているユーザーは以前観た動画をもう一度視聴しているというケースも多いだろう。


 Instagarmは「クリエイターは収益を得るべきだ」と考えているため、同社はIGTVのビジネスモデルとクリエイターの収益化を一体化した取り組みを今後発表することになるはずだ。

InstagramとIGTVが別々に提供される背景

 実は、IGTVに投稿された動画はInstagramからも視聴できる。それでも両者を分けたのは、いったいなぜなのだろうか?


 理由の一つは、Instagramというプラットホームに新たな役割を持つユーザーが現れ始めていることだ。


 現在のInstagramのユーザーは、シンプルに分けると「一般ユーザー」と「広告主になり得るビジネスユーザー」の2種類しかいない。他方のIGTVではクリエイターの収益化を支援する取り組みが示唆されている。これらを合わせて考えると、Instagramに新たな役割として「クリエイター」が追加されるということがわかるだろう。


 Instagramは画像のソーシャルメディアとしてシンプルに進化させ、ビデオクリエイターの管理を避けるのであれば、新たな役割を持つアプリの開発に至るのは妥当だ。


 IGTVのビジネスモデルの種類にもよるが、後述する理由から筆者は、「InstagramはIGTVを、クリエイターと広告主をマッチングさせる場を持たせる場にしようとしている」と考えている。つまり、ビデオを制作してほしい既存のInstagramの広告主と、ビデオクリエイターをIGTV上でマッチングさせて、手数料を得ていこうというアイディアだ。


 もう一つ、IGTVを別アプリとして立ち上げた背景にあるのは、2018年のシリコンバレーのトレンド「スマホ中毒の防止」に関係しているのではないだろうか。


 GoogleとAppleは相次いでスマートフォンの使用時間、とりわけ中毒性が高くて長い時間を過ごすアプリに制限をかける機能を導入しようとしている。Appleに至っては、6月に開催した開発者会議「WWDC 2018」の基調講演で、Instagramに1日1時間の制限をかけるデモを見せ、制限時間に到達してブロックされている画面までも紹介したのだ。


 ただでさえ使用時間が長いInstagramに動画視聴機能まで盛り込んだら、アプリ使用時間がこれまで以上に延びるようになる。そうすると、Instagramがスマホ中毒を助長しているという批判も高まりやすくなる。


 ユーザーが自主的に特定アプリの使用時間を制限した場合、Instagram内でビデオ視聴に時間を取られ過ぎれば、Instagramの既存広告主の不利益につながることもあり得る。そうした広告ビジネスの側面から見ても、IGTVの別アプリ化は賢明だったといえよう。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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