「はやぶさ」は宇宙探査におけるコペルニクス的転回

「はやぶさ」のミッション成功が意味することを教えてください。


國中 それまでの宇宙科学は、望遠鏡で覗くか、宇宙でも使えるようにチューニングした観測装置を送り、その場で測定してデータだけを地球に送るしか研究方法がありませんでした。目的地にあるものについて、仮説を立て、そのための実験装置を送ることになるわけです。もし、目的地に何かあったとしても、送り込んだ実験装置で調べるしかない。これに比べて、リアルに物質を持って帰ってきて、地球上にあるさまざまな分析装置にかけて調べられるということは、コペルニクス的転回です。手元に目的地から持って帰った物質があるので、仮説を立てながら、いろんな角度で後から調べられる。結果として、宇宙科学以外の研究につながることになります。


 分析科学を宇宙領域に動員できたことも大きな成果です。今までは、いわゆる宇宙科学者や太陽系科学者しか関わってこなかった領域に、地球の岩石を調べる地学の科学者を引っ張り込むことができました。これによって、地球の岩石と小惑星の岩石のリアルな比較もできます。


 生物学に関しても、生物学者に分析を頼めます。もし、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取してきた石の中に水があり、そこに有機物があったとなると世界が変わるでしょう。


 そして、今、太陽系以外の太陽の周りを回っている惑星の観測も始まっています。いよいよ、地球型の惑星が見つかり始めたのです。その惑星に生命が存在するのかどうかについても、宇宙から直接岩石を持ってくれば、検証や仮設立てがしやすくなります。


「はやぶさ」を打ち上げる前から、こうなることは予測していたのでしょうか。


國中 正直、後付けです。様々なところで議論していくうちに、だんだん分かってきました。NASAもサンプルリターンの意味を理解し、自分たちでもサンプルリターンに取り組み始めています。


若田 海外の宇宙関係者と話をしても、「はやぶさ」を知らない人はいません。それほど、「はやぶさ」が果たした役割が重要な意味を持っているのですね。


 有人宇宙活動も、宇宙を探求する中で人間の活動領域を広げていくという、重要な役割を持っています。一方で、米国のロケットがパワフルだったから、逆に「はやぶさ」が生まれたということにも意味があります。全体を見渡した上で、私たちが果たす役割がどこにあるかを見極めることが重要です。


 ターゲットを絞ってきちんとそこに到達するために、國中さんは大きな労力をかけています。その方向性や先見性はやってみないと分からないところがあり、ISASの仕事の進め方をみていると、私たちも勉強すべきことが多いと感じます。

次は火星の衛星からサンプルリターン

國中さんは「はやぶさ」のミッション終了後、「はやぶさ2」のミッションにも関わったのですね。


國中 「はやぶさ2」のミッションを管轄する、月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)という組織が設立され、プログラムディレクターをやることになりました。「はやぶさ2」のミッションもいろいろと組織作りを行い、だんだん組織を大きくしていってプロジェクトマネージャーもやりました。


「はやぶさ2」が戻ってくると、ISASとして次の大きなミッションはなにがあるのでしょうか。


國中 火星衛星探査計画(MMX)という、火星の衛星であるフォボスとダイモスに行って、その一方からサンプルリターンするミッションが進められています。これも実際に衛星に着陸して、サンプルを採集して地球に持って帰ります。


 「はやぶさ2」が着陸したら砂が舞い上がって大変なことになったので、MMXではどうするべきかを考えています。例えば、砂がどんな挙動をするのかを国際宇宙ステーション(ISS)で実験する予定です。ISSにシミュラントという月や火星などの砂を模擬した砂を持って行き、日本にしかない人工重力装置で天体の重力を模擬して、その中で砂の挙動を調べようとしています。


そのプロジェクト自体はいつ探査機を飛ばして、サンプルリターンするのですか。


國中 まだ検討段階ですが、2024年に探査機を打ち上げ、2025年に火星圏に到着し、そのまま火星で3年間活動して、2028年に火星を離れ、2029年に地球に帰ってくることを計画しています。3年間で火星も調査するし、やりたいことがたくさんあります。


若田 今後、有人とロボティクスによる探査の融合が大変重要になると感じています。その実現につながる先端技術の開発を國中さんが率いているので、とても心強いと思っています。


(後編につづく)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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