今後の宇宙技術開発、民間でできることは民間に

今、宇宙ビジネスが盛り上がっていますが、そこに民間企業が取り組むのはなかなか難しいでしょう。結局、いつ儲かるか分からないことにお金を出すわけですから。


國中 たしかに、民間企業が宇宙で直接利益を上げるのはなかなか難しいでしょう。宇宙開発に向けて技術開発を始めたいけど、ハードルが高くて自社だけでは背負えない。でも、民間で人工衛星を作るところまではきているのです。JAXAだけでなく、企業が責任を持って人工衛星を作れるような体制ができつつあります。


 JAXAとしても、仕様書があれば作れる人工衛星は、民間企業にそのまま作ってもらいたいと思っています。とはいえ、JAXAでの内製を止めるのではなく、最先端の領域、例えばより遠くの宇宙に出かけるとか、見たこともない人工衛星を作ろうとかいう時はJAXAが作ります。


 これまでは、宇宙用のものについては、JAXAが主体的にものを作っていました。JAXAはマニアの集まりなので、どうしても自分たちで作りたくなる。その考え方を変え、民間企業が主体的にものづくりをできるような環境に移行しましょうとしています。そして、民間企業だと採算が合わないイオンエンジンのような、最先端技術はJAXAがチャレンジする。


 そのように、作業分担を明確に分けてものづくりを進めようというのが、昨今のやり方です。そうすれば、民間企業にも実力がつき、JAXAからの受託だけでなく一般企業からの受託も増えるでしょう。


若田 JAXAは昨年から、宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)を開始しました。こちらは、宇宙探査イノベーションハブとは違い、民間企業側からの事業提案に対してJAXAが支援するというものです。例えば、宇宙食をマーケットにするような事業を支援しています。JAXAが持っている技術やノウハウで支援し、一緒に事業を作っていくわけです。すでに150件くらい検討が進んでいて、約20件が実際に進行しています。


 これまで宇宙探査は、JAXAの主導で行われてきたのですが、今後はもっと民間主導による宇宙利用が拡大していくのかなと。そのためには、地球低軌道が経済活動の場になるように支援する必要があります。J-SPARCのような共創の取り組みは、今後各国が進めていくと思うのですが、日本が先駆的に始めました。

日本の宇宙技術開発の4つの柱

宇宙開発における日本の優位性はどこにあるのでしょうか。


若田 日本が宇宙開発で生き残るには、私たちが実現可能な世界最高技術で優位性のある技術を追求したり、波及性が高い技術を中心に活動したりしていく必要があります。


 私は、国際宇宙ステーション(ISS)計画と共に国際宇宙探査も担当していますが、日本が存在感を持って国際宇宙探査に取り組んでいくため、4つの大きな柱となる技術の確立に注力しています。1つめは有人宇宙滞在技術で、二酸化炭素を除去したり、宇宙で水や空気をリサイクルできる再生型環境制御システムの技術です。2つめが深宇宙補給技術で、種子島から年1回程度の頻度でISSに物資補給を行う「こうのとり」の後継の宇宙補給機であるHTV-Xを発展させることによる月周回拠点などへの物資補給を可能にする技術です。3つめが重力天体離着陸技術で、ISASで開発がすすめられている2021年度にピンポイントで月に着陸するSLIM(小型月着陸実証機)を通してその確立を目指します。そして4つめが重力天体表面探査技術で、ローバーなどを使った探査技術です。


これらの技術は、NASAも持っていると思うのですが、JAXAならではの優位性はどこにあるのでしょうか。


若田 例えば、物資輸送に関しては、米国やロシアで打上げロケットにトラブルがあってISSへの物資補給ができなくなった時期がありましたが、「こうのとり」だけが確実に7回連続で補給ミッションを成功させています。物資補給技術においても日本の信頼性が認められ、月などの地球低軌道以遠の活動において、この分野でも日本への国際的な期待が高まっています。


 ピンポイントでの月着陸というのは、アポロの時代に比べるとかなり緻密に目標地点への着陸を行える技術です。2021年に予定されているSLIMミッションに続き、月の極域を探査するミッションをインドとの協力で2023年の実現を目指しており、そこで得られる月極域にある水氷の量や質等のデータはNASAとも共有され、米国が計画している2024年の月面有人着陸時の着陸地点候補を決める際にも寄与できるものです。人類として再度月に降り立つ有人探査への貢献を、日本の無人探査技術が果たすのです。


國中 こうした技術の積み重ねによって、JAXAの宇宙探査への取り組みも太陽系全体に広がりつつあります。意外と知られていないのですが、今後10年以内には、水星から木星までずらっと、日本の探査機が並びます。これらを我々は深宇宙探査船団と呼んでいます。


 昨年は水星に向かっていく「みお」という水星磁気圏探査機を打ち上げました。現在、金星の周りには「あかつき」という探査機が回っていて、月にはSLIMで探査機を着陸させ、2020年代前半に火星の衛星からサンプルリターンを狙う火星衛星探査計画(MMX)というミッションを進めています。2022年に木星に向かうJUICEというミッションもあります。さらに、米国とCAESARという彗星へのサンプルリターンの共同開発を検討しているところです。


 JAXAの深宇宙探査船団計画では、木星まで私たちの探査機を並べた上で、次にどこに行くかを検討しています。

“悔しさ”がモチベーション

当初、宇宙開発では米国に全くかなわないと感じたところから、日本もここまで追いついていきました。そのモチベーションはどのように保たれてきたのでしょうか。


國中 私の場合は、悔しくてしょうがないので、なんとかひっくり返してやろうと気持ちでここまでやってきました。青色発光ダイオードでノーベル賞を受賞した中村修二先生も、自分の研究のモチベーションは怒りだと言っていました。


若田 大きな力にはかなわない、悔しさというものもモチベーションに繋がるのでしょうが、うまくいっていない時に、現状に満足しないことです。例えば、スポーツでも一番自分が苦労して練習するのは、負けた時でしょう。失敗が悔しくて頑張ろうと考えます。


 そのためには、失敗を許容する環境が重要かと思います。個人や組織の成長においても、なにか失敗して、そこから教訓を得て努力する時が最も効率的に成長している時でしょう。失敗で教訓を得て、それを先につなげていくことです。


 宇宙に限らず、まずはやりたいことをきちっと見据える。そして、失敗を経験しても「なにくそ!」という思いを、次につなげていこうという気持ちになれる環境を周りが作ってあげる。それが成長には不可欠だと思います。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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