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Business 公開日: 2018.08.07

社会の状況・変化を読み取る武器に、投資家も欲しがる衛星観測データ

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宇宙関連ビジネスの中でも活発な動きがある観測データ解析。注目分野は?

前回のインタビュー記事「なぜ今「宇宙ビジネス」か――世界中で注目される理由」はこちらから

 「世界最大の宇宙大国である米国で、20年前ぐらいから商業化のトレンドが強くなり、日本でも2008年の宇宙基本法制定以降、産業やビジネスとしての宇宙に対する取り組みが加速、直近5年は特に期待が高まっている」

 日本で民間初の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2018」を立ち上げたA.T.カーニー プリンシパルの石田真康氏は、前回のインタビューで、宇宙ビジネスが加速している背景をこう説明した。加えて、「デジタル技術の広がりが、宇宙産業のものづくりや宇宙のデータ解析の仕方を変える“アウト・インの変化”と、人工衛星からのデータを地上の多種多様な企業が自社の事業のデジタル化に使う“イン・アウトの流れ”の両方で、デジタルという大きな潮流と宇宙がクロスし始めている」という。

今回は、石田氏が宇宙ビジネスで注目する分野や、宇宙ビジネスにかかわることになったきっかけなどを聞く。

人工衛星の観測データ解析で注目の分野はありますか。

石田氏 海洋分野では様々な事例や可能性があります。観測衛星を使った海の状況確認、不審船の監視、赤潮の分布状況把握や発生予測などです。可視光だけではなくて、夜間や雲でも見られるレーダー衛星、あるいは船が発信するAISという信号をモニタリングする衛星など様々なアプローチがあります。海周りは日本との関係性が高いですよね、EEZ(排他的経済水域)の面積では世界第6位ですから。日本の安全・安心という意味でも、海関係は、テーマとしては非常に面白いとは思います。

 海と同様に、地上にセンサーがないところは衛星の優位性があります。米国のベンチャー企業、オービタル・インサイトは世界銀行と組んで、統計データが存在しない新興国の貧困度を推計するモデリングを検討しています。世銀の持っている貧困度の指標と、衛星写真から見える家や車の量、ビルの高さや農地面積などと相関モデルを作り、それを世銀がデータを持っていない国に適用することで衛星画像から貧困度をはじき出すトライアルをしています。地上のデータを明らかに収集できない地域の状況を見える化するために、ほかの国で作った相関モデルを使うわけです。

 また同社はスーパーマーケットなどの駐車場に止まるクルマの数をカウントしたりします。これは企業動向を見守る投資家などにとって重要なデータであり、最近ブルームバーグが取り入れて注目を集めています。こうした物体を認識・計測して、何かの変化を抽出するサービスが注目されています。ただし大事なのは、そのサービスが、結果として利用者の何かの意思決定が変わる、何かのコストが下がる、売り上げが上がるといったアウトカムにつながることです。結果に結びつかないものは、おもしろい取り組みでもビジネスとして浸透しません。これは、衛星産業に限ったことではなく、IoT産業などでも同じことが言えます。100件の新サービスがあっても、それが利用者の売り上げ増につながるのは数個、あとは面白いねで終わってしまいます。ですから、注目すべきは、お客さんときちんと組んで、最終顧客の目に見える成果につながる取り組みです。

小型ランチャーが注目分野

観測衛星以外では、宇宙産業のどの分野に注目していますか。

石田氏 やはりランチャー(ロケットなどの打ち上げ手段)に注目しています。ランチャーがうまくいかないと、ほかの宇宙産業全体が影響を受けるからです。小型ランチャーを作る企業は世界的に増えていて、中国では2015年ころから増えて4~5社あります。最近はスペインにも、オーストラリアにも、ニュージーランドにもあります。英国でも2社ぐらい、すごく力を入れている人たちが出てきています。当然、米国にもそうした企業はあります。実際どこまで各社に技術があるのか、資金的に走り切れるかはバラバラですが、ランチャーは宇宙ビジネスの1丁目1番地みたいなもの。打ち上げコストを下げ、頻度を上げない限り、宇宙にものを運べません。そこがボトルネックですので、とても注目しています。

 それと、衛星通信分野も注目しています。まず、投資額のけたが違う。数百機から数千機の通信衛星コンステレーションを本当に実現しようとする人たちは、1000億円とか数千億円のお金を落とそうとしている。宇宙ビジネスというよりは通信インフラビジネスです。1回作ったらずっと維持・更新が必要ですし、いわゆるリクープ(費用の回収)する、あるいは売り上げが上がるまで時間もかかる。そうした中で、日本ならソフトバンクがやっているし、(イーロン・マスク氏のロケット打ち上げサービスの)スペースXも計画を持っています。投資額的に、それほど多くのプレーヤーがチャレンジできる領域ではありません。過去にイリジウムなど頓挫した取り組みもありますし、決して簡単に参入できる領域ではなさそうです。ただ、そういった取り組みの先にどういうコネクテッドサービスが待っているのか。どういうふうに世界が変わっていくのかは非常に面白いです。日本では投資規模の割にあまり取り上げられませんが、ものすごい変化が起きると思います。

日本で衛星による通信が注目されないのはなぜでしょうか。

石田氏 日本では無線通信など高品質な地上の通信インフラが既に整っていることはあるかもしれません。ただ、東日本大震災のときに地上の通信網がダメージを受ける中、衛星通信の利用に注目が集まりました。次世代光ファイバーと5Gと次世代の衛星通信は競合するところもあるし、補完するところもある中で、どういうふうに次のインターネットインフラが構築されていくのか、世界的には様々な議論がされています。

 ほかに、有人関連も注目の分野ですね。ジェフ・ベゾス氏やリチャード・ブランソン氏のように宇宙旅行を派手に掲げる企業が日本にはないこともあって、遠く感じてしまうところがありますが・・・。米国では過去10年間ぐらい、「来年には始まりそう」と言いながら、都度延期されるということが繰り返されてきましたが、ベゾス氏もそろそろ(試験飛行の宇宙船に)プロの宇宙飛行士を載せるかもしれないと言っていますし、実際に近づいてきた感じがします。有人のテストフライトが始まったらすごい進展だと思います。

スペースXがNASAと取り組んでいる宇宙飛行士を国際宇宙ステーションまで商業輸送するプロジェクトも、少しずつ進んでいます。ついこの間、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が発表したJ-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)でも、低軌道での有人活動というキーワードで新しいビジネスができるかがテーマになっています。10~20年後を考えると、限られた宇宙飛行士だけでなく、一般の人々が宇宙に行ける時代がやってくるでしょうから、どういう事業が生まれていくのかは非常に期待感があります。例えば、宇宙空間で生活する際の飲み物や服の確保、衛生の維持、宇宙空間での健康維持といった産業が求められると思います。現在は宇宙飛行士およびサポート体制も含めてプロのみですが、一般の人が行ける時代にはいろいろなものの変化が起きると思います。

ギリシャ神話を読んで宇宙に関心

石田さんが、そもそも宇宙に関心を持ったきっかけは何ですか。

石田氏 小学生の時に天文クラブで星座を見ていましたし、ギリシャ神話を読んで宇宙に自然と興味を持ったのが原点です。銀河系には星が数千億個あり、その中に太陽系があり、その中に地球があると思うと、地上のあらゆることが小さく感じますよね。その壮大なスケールに何となく畏敬の念や、フロンティアっぽさを、10歳ぐらいのときにピュアに感じました。当時、関東地方から出たことがなく、日本という存在さえよく分かっていない中で、日本とかアメリカなどの国以前に銀河系を知りました。感受性がすごく高い時期なので、価値観が非常に大きく変わったのが原体験としてあります。

 その後宇宙と関わりはなかったのですが、再び関わるきっかけとなったのは、2012年に、(日本の民間発の月面探査チーム)「HAKUTO」のボランティアを始めたことです。別に意図したわけではなく、(米グーグルがスポンサーとなり、Xプライズ財団が運営する月面探査レース)「グーグル・ルナ・Xプライズ」という民間主導の取り組みから入ったので、世界中には無数の宇宙ベンチャーがいるとか、グーグルが投資する時代なのだとか、色々な変化を肌身で感じることができました。ある意味で最もエッジなところから宇宙業界に入ったと後になって気づくわけですが、純粋に面白いから続けてきました。

 2000年頃から、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏をはじめ、世界中でたくさんの人が宇宙ビジネスを起業しています。私見ですが、宇宙ビジネスを手がけるパターンは3つあります。一つは、宇宙に限らず変化点が好きな人です。AIも好きだし、バイオも好きだし、とにかく変化が好きで、ディスラプティブという言葉を聞くと燃えちゃうみたいな人。投資家にも結構多いです。もう一つは人類課題に興味がある人。国の課題を越えて、人類の生存とか持続可能性とかより広範な課題に興味がある人です。そしてもう一つは、純粋に宇宙が好きという人です。

 これらの要素が多くの人には必ずあって、その比率が人によって違います。マスク氏は最初の2つの比率が高いと思います。宇宙好きではないのかなと。単純に人類課題のようなスケール的なものに興味があると思います。(EVの)テスラを手掛けるのも車が好きなわけではなく、エネルギー革命のためだと思います。ベゾス氏はよく分かりませんね。宇宙そのものも好きなのかもしれませんが。それ以上に新しい時代を自分が作りたいと思っているのではないでしょうか。

これまで宇宙に関連した仕事をしてきた人は、宇宙が好きな人が多いのではと思います。多くの人がやりたくても携われない仕事をしているわけですし。あるいは従来の宇宙開発は国が主体であることを考えると、国を背負うというか、大きな共同体に対する責任感、ある種の公的な意識がある方も多いのではと思います。話を元に戻すと、そうしたいろいろな起業家に出会う中で、本当に多種多様な人が宇宙に関わり始めているなと感じた一方で、交通整理が必要な気もしました。

交通整理?

石田氏 これまでは閉じた世界だったので、参加する人も限られていた。それがオープンになっていく中、いろいろな人が入ってきて、コミュニケーションがうまくできないわけです。従来から宇宙分野の研究を引っぱってきた方もいるし、これまで宇宙に関わっていなかった人もいる。ベンチャーもいるし、投資家もいるし大企業もいる。それぞれの業界の言語が飛び交い合いますし、他方で相手の業界のことがよくわからないので、コミュニケーションは必ずしもうまく回りません。いろいろ飛び交っている言葉をきちんとレイヤーを分けて議論できるようにする交通整理的な機能が役にたつかなと思ったのです。僕はこういう仕事をしているので交通整理とか触媒機能は得意で、自然とそういうことを続けてやっていたら今に至るという感じです。

今年3月に、安倍首相が5年間で官民合わせて1000憶円のリスクマネーを供給すると発表しましたが、国内に投資先はありますか。

石田氏 スタートアップも含めてプレーヤーの数が増えることが重要です。アメリカには1000ぐらいありますが、日本はまだ20~30しかない。国のポテンシャルを考えればもっと増えてもおかしくない。アメリカとの違いを考えると、日本にはまだ一般の広く知れ渡る、わかりやすい宇宙ビジネスのヒーローがいないと思います。日本で宇宙のヒーローというと宇宙飛行士です。アメリカでも同じですが、それと並ぶくらいイーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏は人気が高いです。要するにアイコンですかね。

 ただ、スペースXも3回連続でロケットの打ち上げに失敗して相当たたかれました。100人いたら99人が成功するわけがないと言う中で、4回目に成功したらみんなが「イーロン・マスク氏は神だ」みたいになって。失敗してもやり続ける人をどんどん応援して、その人が成功してヒーローが生まれることで、次の人、次の世代に伝播していく気がしますね。


神保重紀=日経BP総研
(撮影・湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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