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Business 公開日: 2018.11.01

スポーツファンを国をまたいでつなげたい——DAZN Japan 開発部長 Ladislav Bartos氏

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スポーツファンを増やすためにDAZNが試みるテクノロジー活用法とは。

 英国Perform Groupが運営するスポーツ配信サービス「DAZN」(ダゾーン)。2016年8月に日本でのサービスを開始し、わずか1年間で100万を超えるユーザーを獲得した。2018年9月に2周年を迎え、グローバル・アンバサダーとしてクリスティアーノ・ロナウド選手を採用。さらに音楽ストリーミングサービス大手の「Spotify」と提携して、ユーザー層の拡大を図ろうとしている。急成長を果たしたDAZNは、今後どこを目指すのか、またそのためにテクノロジーをどのように活用していくのか。DAZN Japanで開発部長を務めるLadislav Bartos氏に聞いた。
DAZNのストリーミングサービスは2周年を迎えた 写真は9月に開催された2周年記念のメディア向けイベント。サガン鳥栖に移籍した元スペイン代表FWのフェルナンド・トーレス選手、前WBA世界ミドル級王者の村田諒太選手が登壇した。
DAZNを運営する英Perform Investmentのプロダクトマネージャー、Ladislav Bartos氏

DAZNは単なるスポーツ配信ではない

DAZNのサービスは、テクノロジーによってスポーツの視聴体験を変えましたが、どのような変化を社会にもたらしたいと考えていますか。

 DAZNの使命は、単にスポーツコンテンツを配信することではありません。スポーツへの関心を高め、スポーツを好きな人を増やすことが重要だと考えています。日本のスポーツ観戦人口は、年々減少しています。ネックになっているのは「時間」と「費用」です。DAZNは「マルチデバイスによるストリーミング」というテクノロジーを活用することで、そのハードルを乗り越えようとしています。

 これまで、スポーツ観戦の主な手段と言えばテレビでした。しかし、現代人は忙しくて、ゆっくりテレビを観る時間がありません。DAZNなら、対応デバイスさえあれば、「いつでも」「どこでも」スポーツを観戦できます。通勤電車の中ならスマートフォン、自宅ではテレビ、というように、視聴環境を使い分けられるわけです。

 若い世代にはテレビを観ない人も増えてきました。お金や設置スペースがなくて、家にテレビを置かず、何でもスマホで済ませてしまいます。DAZNなら、そのような人たちにも、スポーツ観戦を楽しんでもらえます。

 さまざまなジャンルのスポーツ、例えば野球もボクシングも、DAZNの定額サービスだけで楽しめますから、他のスポーツ配信サービスに加入して料金を払う必要はありません。

 国内スポーツへの関心を、もっと高めていくこともDAZNの使命の一つです。私が日本に来たとき、ちょうどFIFAワールドカップのロシア大会が開催されていて、日本中のみなさんが熱烈に日本代表を応援していました。これはとても素晴らしいことです。ところが、Jリーグに対しては、それほどの熱気を感じません。柔道やフィギュアスケートにも同じことが言えます。日本人は、もともとスポーツが好きな国民です。その思いを、テクノロジーを活用して国内スポーツへも向けていきたいと考えています。

自宅でもスタジアム観戦の雰囲気を提供したい

基幹技術である「マルチデバイスによるストリーミング」のほかには、どのようなテクノロジーが活用されていますか。

 スポーツを観る楽しみの一つに「大勢での観戦」があります。スポーツは、みんなで応援しながら観たいという人も少なくありません。現在、DAZNではスタジアムと同じ臨場感を味わえるアプリを開発しています。そのアプリを使えば、どこにいてもスタジアムで友だちなどと一緒に応援している気分になれるのです。

 スタジアムのスクリーンで観戦するパブリックビューイングと似ていますが、これはあくまでも遠方で行われる試合を観戦する手段で、スタジアムに行く必要があります。つまり、時間的・距離的な制約を乗り越えなければいけません。スタジアムの定員も関係してきます。また、複数のパブリックビューイングに同時に参加することは不可能です。

 DAZNでの観戦なら、パブリックビューイングとは異なり、「いつでも」「どこでも」試合を観られるうえ、ほかの競技場で行われている複数の試合を同時に観戦することも可能です。海外の試合も観戦可能なので、サッカーの欧州リーグの試合を、日本にいる人とヨーロッパにいる人が一緒に観たり、逆にヨーロッパにいる人と一緒にJリーグを応援したりもできます。DAZNは、スポーツを通じて、国を超えて多くの人をつないでいきたいと考えています。

膨大な量のストリーミングをどう処理するかが課題

サービスを提供していくなかで、技術的に難しい点はどんなことでしょうか。また、それはどのように乗り越えたのでしょう?

 DAZNのサービスを提供するうえで最も難しいポイントはライブ中継の品質を維持することです。ライブですから、品質が低下しても、その部分をすぐに見直すということができません。

 しかも視聴者は世界中にいます。例えばある試合の映像を配信するとき、日本でもアメリカでもドイツでも、同じ時刻に視聴し始めます。すると、試合開始まではゼロだったストリーミングが、試合開始と同時に1000万、1億と発生するわけです。そんなときでも、世界のどこでも映像が途切れることなく視聴できるようにしなければなりません。この制御が、技術的にとても難しいのです。

 ストリーミングの視聴環境を改善する方法を言葉で説明するのは難しいのですが、例えば車の走行速度を高めるには、エンジンだけを見ていてもダメですよね。吸気系や燃料の改善、車体の軽量化など、さまざまな要素があります。ストリーミングもそれと同じで、まずは全体を細かい要素ごとに分けて考えて、それぞれを最適化したうえで、再度統合するという手法を採ります。

ポーツ観戦では最近、マルチカメラ/マルチアングルやバーチャルリアリティ(VR)を使って、新しい体験を提供する動きも活発です。DAZNとして、こうした新しい技術の導入については、どのように考えていますか。

 マルチカメラやVRといったテクノロジーがあることはもちろん知っています。そういったテクノロジーも活用できる可能性は十分ありますから、実験や開発も行っています。ただ現時点で、DAZNにとって最も重要なのは、ストリーミング映像のクオリティです。ここがDAZNの根幹にあたります。この根幹となる部分のテクノロジーを強固なものにすることを重視しています。高層ビルなら、基礎をしっかり作る前に上の階を作ってしまえば、必ず倒壊してしまいますからね。

 品質に加えて、見逃し配信やデータセーバー(通信データ量を抑える技術)といった、使い勝手に関わる部分も重要です。そういったところを、きちんとクリアしてから、VRをはじめとする新しいテクノロジーの活用に向かおうと考えています。

自分の仕事で多くの人にインパクトを与えたい

最後にBartosさん個人についてお聞かせください。

 これまでは、英国でスタートアップ企業を立ち上げたり、eBayやO2(英国の通信事業者Telefonica UK のブランド)、Sky(英国の放送事業者)などで仕事をしていました。私の一番好きなことは、直面した問題を解決することです。問題が大きくなればなるほど、モチベーションが湧いてきます。もともとプログラマーだったのですが、もっと大きな問題を解決したかったので、プロダクトマネージャーになりました。

 DAZNの国際プロダクトマネージャーの職に就いたことで、本当にいろいろな種類の問題に直面することになりました。国が違えば、文化も言語もマーケットの性質も異なり、それぞれの国に最適なサービスを提供するのは非常に複雑な作業です。難しい作業ですが、強く興味を引かれるところでもあります。

 私は、自分のやる仕事で多くの人にインパクトを与えたいと思っています。世界中の何億という人々にインパクトを与えるDAZNは、私にはピッタリなのです。さまざまな問題を解決し、それによってお客様に「良くなった」「やりやすくなった」と言っていただけるのが、私にとって一番嬉しいことです。


湯浅 顕人=テクニカルライター
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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