※ 上の写真はBIM(ビル情報モデリング)データに基づいたビル街区内管制システムの様子(出所:清水建設)


 自動運転のクルマを降りてエントランスを通ると、正面に見えるエレベータの扉がすーっと開く。行き先は指定しない。顔認証により、あらかじめ登録しておいたアポイントのミーティング場所となるフロアまでエレベータが勝手に連れて行ってくれる――。


 「いらっしゃいませ、○○様」。フロアについて、どこからともなく聞こえる音声に案内されるまま会議室まで行くと、音声とともに会議室の扉が勝手に開く。会議室までの途中、人とはほとんどすれ違わない。代わりに、通路には書類をはじめいろいろな物を運ぶ小さなロボットが何台も自律走行している。


 ミーティングを終え、オフィスビルを出るころには、車寄せで自動運転車が自分を待っている。ほぼ待ち時間なくクルマに乗り込むと、先程のミーティングの議事録がメールで送られてくる。関連した話題を報じた記事のリンク付き。メモを見返したりすることもなく報告書類をまとめられる。


 未来のオフィスビルのワンシーンを描くと、こんな感じだろうか。


 自律走行するクルマ、ロボット、映像から個人を識別する認証システム、個人の位置を捉えて追随する指向性マイクによる音声ガイダンス、会議の様子を自動録音し内容を判別してまとめる議事録自動生成……。5年先、10年先を考えると、こうした仕組みの多くは、ごく一般的になっているだろう。当然、オフィス空間やビルの形状や構造、使い方にまで影響は及ぶ。


 企業にとって快適に働ける場は、社員のモチベーションを上げ、業務の生産性を高めるだけでなく、優秀な人材の確保にもつながるため、今後は必須のものとなってくる。そうした視点で、未来のビルの姿を模索する動きが広がり始めている。中でも手がけやすいポジションにいるのが、実際に建物を提案し作る立場にあるゼネコンだ。建物の詳細な図面をもとに、入居する企業に対して効果的な提案を行うことができる。


 その先端をいく企業の1社に清水建設がある。同社の技術研究所・未来創造技術センターに属する「デジタルXグループ」では、「ビルや街区」という大きな空間から「未来のオフィス」を俯瞰し、建築分野における新たな価値創造に向けたデジタル技術の研究に取り組んでいる。


 建設分野で使うデジタル技術としては、建設現場で活躍するロボットやドローンがすぐに思い浮かぶだろう。ただ、「10年後を準備する」という技術研究所のスローガンが示すように、デジタルXグループが取り組んでいる研究開発テーマは、現場からはやや距離がある。どちらかといえば自社のビジネスのあり方までも変革するデジタルトランスフォーメーションの領域に近いといえるだろう。

清水建設 技術研究所 未来創造技術センター 所長の本多 眞氏

ゼネコンの強みを生かしてIoTに取り組む

 デジタルXグループが注目しているデジタル技術はいくつかあるが、中でも「未来のオフィスビル」づくりに欠かせない技術と考えているのがIoTである。といっても、ターゲットは、ビル内に設置した各種センサーからデータを収集し、空調や照明を効率的に管理するといった取り組みではない。それよりも一歩先、ビルや街区の利用者に新たな価値を届けたり、新たなサービスビジネスを創出したりするといった領域に踏み込もうとしている。


 「デジタルXグループの”X”には、”モビリティ”や”エネルギー”といったさまざまなテーマを代入して研究開発を進めていくという意味が込められています」(本多)。


 「建設会社にとって、IoTには大きく2つの活用法があります」。白石氏はこう話す。一つは、新たにビルの設計データとともに、使われ方のデータを蓄積すること。そのデータを分析すれば、設計にフィードバックできる。ビルの改修や模様替えの際にも、データに基づいた説得力のある提案が可能になる。もう一つの使い方は、データからの新たなサービス創出。例えば、トイレ個室の利用状況の見える化。リアルタイムに状況を把握できる。こうしてオフィスビルの使われ方のデータを集めれば、新たなサービスの可能性が広がる。


 ゼネコンは、建物の図面そのものや、BIM(Building Information Modeling)などの情報を豊富に持ち、多くのビルの建設や改修を手掛けてきた経験もある。このため、ビルごとに異なる最適なIoTソリューションを提供しやすい立場にある。


 建設会社、特にゼネコンは、多くの会社や関係者を束ねて建設プロジェクトを成功に導くことにも長けている。そのノウハウやスキルは、センサーやネットワーク、設備管理など、さまざまな技術を持つ企業をまとめあげてIoTソリューションを開発し、実際にビルに設置する際に生きることになる。

デジタルXグループ グループ長の白石 理人氏

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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