VRグラスをかけているのは3次元化を担当する3Dモデラー

 フォルクスワーゲンが、デジタルツールを駆使した車両デザインに取り組んでいる。メリットは短時間でデザインが完成すること。過去数年にわたって開発してきたアプリケーションを使って仕上げたのが、新型ゴルフだ。


 これを教えてくれたのは、フォルクスワーゲングループのデザインを統括するヘッドオブデザインのクラウス・ビショフ氏。さきごろ、フォルクスワーゲンが開催したSkype for Businessを使った、世界中のジャーナリスト向けのプレゼンテーションの場でだ。


 「フォルクスワーゲングループでは新たにデジタルによるデザインツールを開発。新型コロナウイルス感染症のため開催中止となった3月のジュネーブ自動車ショーでお披露目予定だった新型ゴルフGTIや、BEV(バッテリー駆動EV)のID.シリーズで本格的に活用しています」


Head of Volkswagen Group Designの肩書を持つクラウス・ビショフ氏
Head of Volkswagen Group Designの肩書を持つクラウス・ビショフ氏

 このシステムのメリットは、デザイン作業のスピードアップが一つ。デザイナーがコンピューター上でデザインした2Dのデータを、3Dモデラーが3D(3次元的)に見える画像データとして形作る。それが迅速に行えるのだ。


 例としてビショフ氏があげたのが、フロントのアンダーグリル。従来なら比率の異なるハニカムのパターンをボディーの曲面に合わせて立体的に作り込む。これまでの手順だとコンピューターでも時間のかかる作業だったという。それが新しいアプリケーションなら数秒から数分で処理できるそうだ。


ゴルフGTIのアンダーグリルもアプリケーションで簡単に3次元化できる
ゴルフGTIのアンダーグリルもアプリケーションで簡単に3次元化できる

 「運転支援システムや衝突安全など設計の要件がますます複雑化する一方、開発時間の短縮や人件費の節約などが、企業の生き残りとして重要となってきていますから、新しいデザインツールは合目的的なものなのです」


 シャシーや車体の衝突安全性については各マーケットの規制値を入力しておけば良いし、ドライブトレインや足まわり、ダクティングなど、デザインの前提条件とも言える各要素も、デザインに当たっては先にクリアできるという。


 空気抵抗などを測定する風洞にモデルを持ち込まなくても、空力の計測はかなり正確にシミュレーションが可能になった。さらに、複雑なディテールも、その時間内で処理できる。ビショフ氏によると、このデザインツールを使えば、一つのデザインが完成するのに要する時間は、約1年半で済むそうだ。従来は数年かかっていたので、驚異的な短時間だ。


 スカイプの画面上で、このアプリケーションで実際にデザイン作業が進んでいく様子を見せてくれた。確かに早そうだ。立体的なグリルに複雑なパターンを採用する作業も、2Dでパターンを作れば、後はクリックで、コンピューターが計算して3Dにしてくれる。


2Dから3Dのデータを組み立てていく様子
2Dから3Dのデータを組み立てていく様子

 「このデザインツールは、ゴルフ6や7から部分的に使ってきたもので、ゴルフ8でかなり進みました。ここにきて開発の速度を速めたのは、新型コロナウイルス感染症で、ドイツやアメリカ、中国といったデザインセンターの人的交流に制限が出てきたことが大きな理由です」


 ビショフ氏の言葉にある通り、物理的な往来が厳しく制限された中で、オンラインで情報共有を簡単にできるのが、このデジタルツールのもう一つのメリットなのだ。


 フォルクスワーゲングループは、世界数カ所に自社のデザインスタジオを持ち、加えて、提携しているデザイン会社がある。これまでは、担当者が現地に足を運び、人的交流を持ちながら、デザイン作業を進めてきた。


 今回のアプリケーションによって、ブガッティだろうとポルシェだろうとベントレーだろうとアウディだろうとランボルギーニだろうと、フォルクスワーゲングループ傘下の企業のデザイナーは、オンラインでデザイン作業を進めることが可能になった。


 しかも先に触れたように、車両を立体的に見せるために3Dモデラーが大きく関わっているため、リアルな雰囲気はより一層強まった。VRグラスを組み合わせることで、目の前に実車があるのと同じぐらいの精度で、デザインチェックができる。


3D化している途中
3D化している途中
データでもドアの開閉が可能
データでもドアの開閉が可能

 「さらにもう一つのメリットは、デザイン開発における省力化です」。ビショフ氏は言う。


 現在、フォルクスワーゲンのスタジオでは400人を超えるデザイナーと、1万人のエンジニアが働いているそうだ。このデザインツールによって、人数の削減も可能になってくる。


 別の言い方をすると、新しいプロジェクトごとに、働く人の数を調整する必要がうんと少なくなる。


 「フォルクスワーゲン車を例に取ると、今はSUVがブームですが、燃費などの面で、EVへの急速なシフトが起こることだってありえます。市場の変化はさまざまな面で起きると思います」


 市場の変化に迅速に対応する。これこそ自動車メーカーにとっての大きな課題なのだ。2019年に顕著化した中国市場の失速と、続く米中貿易摩擦では、多くの自動車メーカーが販売不振に陥るなど、強く影響を受けた。


 これは一つの例で、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大のように、考えもしなかった災害が起こる可能性もある。従来のように、多くの従業員を抱え、じっくり時間をかけながら新型車を開発するような旧態依然とした体質では、企業の生存が危うくなる。フォルクスワーゲンではそう見ているのだ。


ID.3のシャシーを使ったID.BUZZなど、さまざまなボディーバリエーションも短時間で作れる例(左がビショフ氏、右はVWグループのディースCEO)
ID.3のシャシーを使ったID.BUZZなど、さまざまなボディーバリエーションも短時間で作れる例(左がビショフ氏、右はVWグループのディースCEO)