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Features Business 公開日:2019.02.25

目標は2020年、日本でも動き出すMaaS──国土交通省に聞く

社会実装に向けて動き出した、日本版MaaS。政府が描くMaaS実現への道のりとは。

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 世界を席巻するMaaS(Mobility as a Service)。フィンランドのMaaS Globalが提供するモビリティサービスアプリ「Whim」に端を発し、ドイツやイギリス、アメリカなど欧米でも続々と構築が始まっている。日本でも2017年から民間主導で次々に実証実験が立ち上がり、政府もMaaSの社会実装に向けて産官学を交えて基盤構築に乗り出した。

 これから日本のMaaSはどのように立ち上がり、進化していくのか。それによって交通インフラ、さらに私たちの生活はどう変わるのか。日本版MaaSの姿を探る本特集、第1弾の本稿では国の動きに目を向けてみる。

 国土交通省は「都市と地方の新たなモビリティーサービス懇談会」を立ち上げ。JR東日本、東急電鉄、小田急電鉄、みちのりホールディングス、ジャパンタクシー、ジョルダンなど複数の民間事業者へのヒアリングを踏まえた上で、有識者と都市局や道路局、鉄道局、自動車局など官学の関係者が集まり、日本版MaaSの概念構築からデータ・システム連携、運賃・料金施策、まちづくり・インフラ整備まで、環境整備に向けた議論を進めている。

 国土交通省総合政策局の小川洋輔課長補佐は「MaaS GlobalのWhimをそのまま日本に持ってくればいいというものではない。懇談会では、日本で機能するMaaSとはどうあるべきか、2018年から国土交通省をはじめとした複数の省庁でゼロから検討している」と語る。
 MaaSは、自動運転やAI、オープンデータなどを掛け合わせ、従来型の交通・移動手段にシェアリングの考え方や、他のサービスとの連携機能を持ち込んだものといわれている。交通が単なる移動手段から、包括的なサービスとして変化したものだ。

「鉄道やバスなどの公共交通だけでなく、タクシーやシェアリングサービスなど、自家用車以外の複数の交通を一元化し、アプリ一つで検索・予約・決済まで行える上、小売りや宿泊といった移動以外のサービスまでもつながったものを考えている。日本版では、地域横断的な取り組みだけでなく、都市、地方、観光地という地域別の課題と解決手法を組み込んでいく必要がある」(小川課長補佐)

都市、地方、観光という地域特性を踏まえたMaaSを検討

 日本の都市部と地方部では、人口や高齢化の状況、暮らしぶり、そして交通事情が大きく異なる。当然、課題もそれぞれだ。都市部では、過密や混雑が慢性化しており、朝や帰宅時のラッシュも激しい。タクシーなどのドライバー不足も課題だ。MaaSには、これら交通モードの選択肢を多様に提示し、人の流れを分散させる狙いがある。

 一方、地方部では交通サービスの縮小化が深刻だ。バスやタクシードライバーの高齢化、減少、そして需要の低下により、乗り合いバスの廃止が進んでいる。地域の鉄道輸送人員も減少を続け、路線自体も廃止に追い込まれているのだ。こうした交通サービスの縮小も受け、地域の大半が自家用車を使っているが、ドライバーも高齢化で免許返納せざるをえず、移動手段を確保できなくなる人が増加している。その解決策となり得るのが、シェアタクシーや自動運転などである。

 さらに、地方では外国人観光客の増加が新たな需要につながると期待されている。ここ数年で訪日外国人は爆発的に増加しており、2018年には3000万人を突破した。初訪では東京や京都など有名観光地へ行く人が大半だが、2回目以降は地方の様々なエリアへ行く傾向があり、交通の活性化も見込まれている。このため、より快適に旅をしてもらうために、観光におけるMaaSも需要が見込まれている。

「例えばMaaSのアプリで秋葉原の『ふくろうカフェ』を検索すると、ホテルからカフェまでラストワンマイルも含めて、公共交通とシェアサイクルを利用する行き方など、最短かつ最適の行き方で予約・決済が可能になる。さらにふくろうカフェのクーポン券や秋葉原の店舗の割引券なども提供。これらを各種の用途で利用できるようになれば、さらなる観光活性化にもつながる」

 既存のサービスでも、車とバスを組み合わせた検索やラストワンマイルの検索、小売店のサービスを利用できるアプリなどが存在しているが、どれもバラバラの状態。これらを統合して予約決済できるシステムを目指す。「将来的には、観光客に対してだけでなく、高齢者が利用する病院案内など、国民のサービスに活用できると考えている」

データ連携を促し、海外に負けないMaaSを目指す

 2018年10月にスタートした「都市と地方の新たなモビリティーサービス懇談会」では、大きく3つの柱について話し合ってきたという。

「まずは、オープンデータ化について。MaaSでは時刻表などの必要データを一元管理する必要があるが、各社が所有する貴重なデータを無条件で提供してもらうことが難しい場合もある。そうした事業者間のデータ連携の促進を図るための仕組みづくりについて議論を行っている。

 2つめは、柔軟な運賃・料金の実現について。「Whim」は、499ユーロで複数の移動モードが乗り放題(条件あり)になるパッケージ運賃制を選択できる。Whimの特徴はまさにこの包括的なサービスにあるが、乗り放題を実現するには料金の柔軟性が必要になる。あらかじめ事業者間で配分を決めておくのか、飛行機のようにダイナミックプライシングにするのかなど、議論が必要だ」

 3つめが、都市計画とインフラ整備についてだ。「アプリ上でいくら快適になっても、現実空間が伴っていなければ意味がない。例えば駅からバスに乗り換える道筋で階段をたくさん上る必要があることなど、細かい部分まで計算に入れていく必要がある」

 新たなモビリティに対応した走行空間なども確保が必要だ。これについては公共交通政策部に加えて、都市局や道路局と一緒に事務局を担当しており、連携しながら必要に応じて議論していくという。

「MaaSアプリでは、鉄道、自動車、徒歩など各交通手段の利用の割合や組み合わせ方が、最新の状態で正確にわかるようになる。そのデータの集計は、まちづくりに生かせると考えている。ただし、短時間でできるアプリの更新と時間を要するハード面の更新の時間差について、考慮していくことも重要だろう」。

各地域の成功モデルを一元化していく

 国土交通省では、民間主導で様々な実証実験が行われていることを受け、2019年4月から2020年3月の期間で行われる実証実験に対して支援を行なう。「多様な地域において、多様な主体が参加するMaaSの実証実験を支援する」という目的を持った、新モビリティ推進サービス事業だ。

「政府としては、民間企業や自治体がそれぞれに構築するMaaSがバラバラなってしまわないように、最終的にまとめていく役割があると考えている。特定の町、特定の交通、特定の会社にサービスがとどまるのではなく、一元的につなげていくことが大切」。小川課長補佐は、こう説明する。

 政府が描くMaaSの社会実装は、オリンピックが開催され、大きなインバウンド需要が見込まれる2020年を一旦の目処にする。各地の実証実験で地域別の課題や条件を見出し、都度対応を図りながら先行的なMaaSモデルを実現。その成功モデルを別の都市部や地方部、観光地に拡大していくことで、実装に近づけていく計画だ。


井上 真規子=verb


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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