日本版MaaSでは自治体主導が理想

 MaaSを機能させる上で重要なのは、あらゆる交通手段をシームレスに利用できるようにすることである。事業者間の競争などで特定の路線や交通モードが利用できなければ、MaaSの優位性は概ね損なわれてしまう。


 既に様々な地域で民間の主導により実証実験が行われているが、誰かがまとめていかなければバラバラにシステムが構築されてしまうかもしれない。理想は自治体主導だ。日本各地で生じている競合他社による利用者の争奪戦やサービスやインフラの重複も本来なら自治体がまとめていくべきだろう。


 ただ現状では、自治体主導はハードルが高い。「これまで自治体は地元の交通にほとんど関わってこなかったこともあって、事情が十分にわかっていない」(中村氏)からだ。そんな状況で、地方予算も乏しい自治体が民間事業者のMaaS構築に対して口を挟むのは難しい。こうした既存の課題もMaaSを機能させるために解消していく必要がある。


 ドイツでは交通産業の無駄な競争を防いで、公共交通の魅力を高めるため、ほとんどの中規模都市から大都市で、運輸連合という仕掛けが機能している。これはバスや鉄道の複数の事業者間からなる協働組織で、料金や時刻表、外装まですべて統一し、利用者の争奪戦やサービスやインフラの重複を解消する目的で生まれた。MaaSでは、こうした事業者間の競争を避け、情報やインフラもオープンな状態にする必要があり、ドイツでは運輸連合のおかげで導入の素地ができていたといえる。


 ドイツでは交通資本に多額の税金が投入されており、事業者の収益で運営されている日本の交通とは事情が異なる。このため、ドイツの運輸連合の機能をそのまま日本に持ってくればいいとはいえない。それでも、交通各社をまとめていくための工夫は必要だろう。中村教授はそこに尽力していく意向だ。


「簡単なことではないが、今後MaaSの認識が社会に浸透していくなかで、地域の交通政策にMaaSが機能すると認識してもらえる日がきたら自治体主導が実現する可能性もある。もちろん資金面も含めて民間事業者の協力は必須。こちらからもJCoMaaSを通じて、自治体に働きかけていきたい」


 一方で、民間の動きが自然とまとまっていく可能性もある。民間も事業者間の垣根を取り払わなければ、便利で優れたシステムを作ることはできない。優れていなければ結局消費者に見捨てられ、淘汰されていく。例えば、ある地域で1社だけが限られた交通手段で囲い込みをしても、どこかのベンチャーが気付いて、よりシームレスで使い勝手のよいMaaSを提示するようになるだろう。

MaaSで都市のあり方が変わる

 今後、自動運転車やシェアリングサービスが本格的に機能し、都市の機能やあり方が変わってくると、MaaSのサービスも考え方が変わっていく可能性がある。


「日本社会に自動運転車が普及すれば、車の形が大きく変わるかもしれない。運転席や助手席などの区別がなくなれば、車内を室内空間として使えるようになり、会議室にもなり得る。すると、建物の形や使い方も変わってくる。シェアリングが普及すれば自家用車が不要になり、家の駐車場もなくなって庭が出来たり、街中の駐車場の形も変わる。


 そうなると街の形が変わり、道路のあり方も変わってくる。例えば横浜市では現在、市内の12%を道路が占めていて、道路の90%以上が車で埋まっている。その割合が変われば道路を減らして、街に公園を作れるかもしれない。そうなれば人が暮らす空間も変わっていくのかもしれない」(中村氏)