公共交通が衰退化する伊豆エリアを救う!「観光型MaaS」

 もう一つの「観光型MaaS」の実証実験は、同社グループの伊豆急行が走る伊豆エリアで、JR東日本、楽天トラベルとタッグを組んで実施する。第1弾の開始時期は2019年4月だ。


 東急グループは60年近く伊豆急行を運行しているほか、観光事業でも伊豆に多数の拠点を持ち、地域からの信頼も厚い。さらにJR東日本が4月から開催する「静岡デスティネーションキャンペーン」も大きな期待を集めており、参入しやすいと考えた。


 伊豆エリアを訪れる観光客は、バブル期からは減少しているものの、現在はインバウンド需要や観光列車のロイヤルエクスプレスが運行するなどで注目を集め、観光客の割合は10%まで微増した。今後はさらに増えていくことが予測され、その流れをより盛り上げていきたいという狙いがある。


「バブル期の頃は伊豆に自家用車で訪れる人が多かったが、現在はほとんどの観光客が電車を利用して訪れる。ただ、駅から観光地までの2次交通が弱く、不便さが課題になっている」


 この背景には、地域の高齢化やドライバー不足がある。タクシー会社の廃業なども相次ぎ、2次交通が衰退化の一途をたどっているのだ。今回の実証実験は、観光客に目的地にスムーズに移動できる2次交通を提供することが目的となる。


 この実験では「Izuko」というMaaSアプリを使う。ダイムラーの子会社であるムーベルのシステムノウハウを利用して実験のために作られた。既存の鉄道、バスに加え、2次交通を担うオンデマンド交通、レンタカー、レンタサイクル、さらに観光施設や宿泊施設までの検索・予約・決済を提供する。


 「Izuko」で利用できるデジタルフリーパスは、東伊豆エリアと中伊豆エリアの2種類。東伊豆では、デジタルフリーパスの「Izukoイースト」、中伊豆ではデジタルフリーパスの「Izukoワイド」が利用可能だ。


 修善寺駅・三島駅間、伊東駅・伊豆高原駅間、伊豆急下田駅・河津駅間の3箇所では路線バスを乗り放題にし、駅周辺に路地の多い下田エリアではオンデマンドバスを運行。2次交通の空白地帯をカバーする狙いである。


「実際に駅の観光案内所に立って需要を調べてみると、観光客だけでなく、病院や郵便局、スーパーなどがある駅から離れて住む高齢市民の日常生活の足としてもMaaSが役に立つと実感した」


 デジタルリテラシーが弱い日本の高齢者に、どうやってアプリを普及させていくのかという課題はあるが、フィンランドでは高齢者にスマホやインターネットの利用を促し、5年で統一化したという。


 「コールセンターを設けてしまうと収拾がつかなくなるため、まず、スマホを持っている人を対象にする。ただし実証実験で要望があれば、下田市の補助金でタブレットを支給するなどの方法もあるかもしれない。使い方講習会も需要があればいつでもやりたい。たまプラーザに住む60~70代の女性は知的好奇心も高く、スマホを使いこなしている人も多い。時間がかかってもフィンランドを目指すのも夢じゃない」(森田氏)

東急が感じたMaaSの構築の難しさ

 今回の実証実験では、東急電鉄、JR東日本のほか、伊豆急行、東海自動車、伊豆箱根鉄道、伊豆箱根バスなど、伊豆に根付く複数の交通事業者にも協力を依頼した。


「地方の交通事業者や地自体に対して、MaaS概念の普及や参入への説得で苦労が多かった。乗り放題バスの交渉は何度も現地に足を運んで粘り強く行った。今回のMaaSは、実行委員会形式で議論を進めており、これまでの交通や社会のシステムそのものを改革していくようなことで難しい事も多い。長期的に見て地域の利益を、と訴えてもそれは難しいこと。MaaS構築は、そういった泥臭いこととの戦い」。森田氏はこう話す。


 今後東急は、2019年の実証実験を皮切りに2~3年は腰を据えて、実際に利用できる交通システムとしての運用を目指す。今回の東伊豆と中伊豆に加え、西伊豆にも広げていく予定だ。


 4月からは静岡空港の運営を開始するため、空港を含めた交通ネットワークを作って活性化していくという。さらに、伊豆で成功すれば東急が拠点を持つ東北、北海道への展開も視野に入れる。日本に優れたMaaSが実装されるためには、こうした民間企業の果敢な挑戦あってこそである。