MaaSの認知は、成功事例を見てもらうことから

「MaaS構築のアーリーステージともいえる現在の一番の課題は、交通事業者や行政、ユーザーのどこにも、まだMaaSへのモチベーションがないこと。そもそも日本では、MaaSの概念自体が定まっていない。MaaS構築が始まったばかりだから当たり前だが、実際に体験してみないことには、みな想像がつかない。現在行われている実証実験を通じてMaaSシステムのなんらかの成功例を見せることで、MaaSのメリットや仕組みを少しずつ理解してもらえるようになっていくと考えている」


 言葉で聞くのと、実際に利用してみるのとでは理解度や説得力は全く異なる。実際、2018年9月の実証実験第1弾では乗り気でない交通事業者が多かったが、終わったあとはかなり能動的になったという。


 ITと運輸の思考の隔たりも、こうした成功例によって少しずる埋まっていくはずだ。実証実験の第2弾では、第1弾の終了後にユーザーから集めた要望を反映してフリーパスの日数を3日に増やしたり、ユーザーが多く利用する時間帯の本数を限定的に充実させるなどの改善を加えていく。

成功の鍵は事業者が自社収益に固執しないこと

 実証実験ではまだMaaSのシステムは利用されていないが、実際には人工知能(AI)によるMaaSオペレーターが必要になる。鉄道、バス、タクシーなどMaaSに関わる乗り物ごと、収益が少ない路線・エリアと多い路線・エリアごとで、全体の収益を分配していく必要があるからだ。


 またAIによるデータ分析で乗車率を上げていくための分析も繰り返していく。こうしてまずは、いまある交通資源を最大限に効率化していく。


 自治体とMaaSのあり方も問われている。欧米では自治体が交通インフラを所有しているため自治体や政府が主導しやすいが、日本は状況が違う。民間の運行会社がインフラを所有しているため、政府自治体主導で進めることが難しいのだ。


 ではどういった関わり方をするべきか。それは民間企業がMaaSを構築していく上で、行政上の規制緩和や特区の認可など、特にアーリーステージにおけるビジネスチャレンジの環境づくりを支援してもらうことだ。


「一番大切なのは、地域住民の考え、自治体の考え。そして外から訪れる観光客のニーズを加えていく。自治体の考えにまったく沿っていないようでは、無駄も多くなってしまう。MaaSはあらゆる者に対して敵を作らず、すべてを吸収していく魔法のようなシステムと考えている。行政、ユーザー、事業者の三者が一緒になって作り上げ、利用していくシステム」

「交通+サービス=街づくり」という概念

 MaaSは、交通の需要を増やすことが目的ではない。交通事業者に加えて小売業や宿泊業などあらゆる消費業も連携しながら、街づくりを行っていくための手段なのだ。


 自分の店にくるための交通手段がないといった地方の小売業が抱える悩みも解消できる。また、データが蓄積されていけば、たとえば時間帯によって朝は学生が多い、昼はインバウンドが多いといったユーザーの傾向が見えてきて、店舗ではその情報をもとに販売する商品を変えることもできる。また、通りごとにターゲットを決めて、店舗どうしでアプリから発信して活性化させ、通りや街全体の価値を高めていくこともできるのだ。


「非常に難易度が高い話だが、MaaSは本来都市計画からスタートするものだと考えている。これまで街づくりは行政の仕事だったが、これからはMaaSを基盤に街の人々が自分たちで街づくりを行って、街ごとの特徴を作り出していく時代になっていく」


 WILLERは、2019年の7月の実証実験で実際にMaaSのシステムを導入することも目指している。目標はユーザーがまだ体験したことのないようなアプリを目指すことだ。WILLERの挑戦は続く。