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Features Business 公開日:2019.04.23

センサーは現代の「眼」、カンブリア紀にならいサービス大爆発時代へ

価値を共創できるパートナーとは、どうすれば出会えるのか。様々な領域の人たちが気軽に出会える場が、サービスが爆発的に増えるサイクルを生み出せる。

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 デジタルの時代、IoT(Internet of Things)の時代と言われる今、私たちの身の回りには多様なサービスが数多く生まれ始めている。一方で、技術はあるがサービス化できない、サービス化してもユーザーまで届かない。ユーザーには届くがその効果が分析できていない――。そんな悩みを抱えている人たちもいる。

 「自分ができないなら誰かと組む。能力に限界があるなら道具を使えばいい」。そう語るのは、センサーメーカー、データサイエンティスト、サービス事業者といった「人を測る(ヒューマンセンシング)」に関する様々な領域の人たちが集まり交流する場所、「カンブリアナイト(ヒューマンセンシングビジネス研究会)」を日経BP総研と共に主催する、HORBAL(ホオバル)取締役の新城健一氏だ。

 新城氏が狙うのは、ヒューマンセンシング領域の人たちが気軽に出会える場の提供。そのような場が、サービスが爆発的に増えるサイクルを生み出せるとする。新城氏にその背景や時代感などを聞いた。

組み手を変えれば、新たな価値が生まれる

2016年の秋から開催されている「カンブリアナイト」。これは、どのような取り組みなのでしょうか?
新城:カンブリアナイトの名称は約5億5000万年前、生物の多様性が一気に増えたと言われてるカンブリア紀からつけています。そのころに動物は「眼」を手に入れ、進化が後押しされたと言われています。

 動物が眼を手に入れた過程は、植物が効率よく光合成をするための光受容の遺伝子が、クラゲの仲間に入り、初めて動物が光を捉えられるようになったと言われています。つまり、植物と動物という違う領域の存在が交わることで新しい時代を迎えたんです。

 そして、現代もカンブリア紀と同じ出来事が起こっています。今、私たちの周りには数多くのセンサーが生み出されています。これらはテクノロジーが生み出した新しい眼です。
センサーという眼を手に入れたことで私たちの生活にも変化が起きていると。
新城:はい。視覚情報だけでなく、センサーでいろいろなものがデータ化され見えるようになります。

 そして、専門家が解釈し、情報化します。それを教師データとして機械学習させれば、さらに様々なことが分かるようになる。それをもとに私たちの生活に介入できるようになれば人々の生活が変わっていきます。

 私たちは、この「みえる」「わかる」「できる」「かわる」の循環をカンブリアサイクルと呼んでいます。
 しかし、私たちの生活上の課題は多様なので、1つのサービスで全てを解決するのは難しい。だから、多様な課題に対して多様なサービスが生まれてくる必要があります。

 カンブリア紀に生物の多様性が爆発的に増えたように、我々もセンサーという眼を手に入れたことで、課題解決のための多様なサービスが爆発的に生まれてくる時期を迎えられるんじゃないかと思っています。
確かに、サービスの多様性はここ数年で格段に増えているように感じます。今後もテクノロジーの進化がサービスを爆発的に増やしていくということなんでしょうか。
新城:そうですね。ただ、課題を解決するにはテクノロジーだけでは難しい部分があります。ヒューマンセンシングという領域の場合、「みえる」「わかる」を担うセンサーと解析部分はテクノロジーの会社がほとんどです。

 「できる」の領域は、食、医療、教育、スポーツなどの領域で、実際には調理人、医師、介護士、保育士、教師、スポーツトレーナーなどヒューマンタッチの部分に優れた能力を持つ人たちです。しかし、専門領域以外のテクノロジーに疎かったり、そもそもアナログ系の人がとても多い。サービス対象者と直接関わるため、介入できる力は非常に高いですが、先進テクノロジーから遠く、お互いの領域がうまく結びつかない。

 テクノロジー会社の作り出すサービスについて、よくある話に次のようなものがあります。センサーを活用し体の状態が見えるようになる。けれど、その結果だけを直接ユーザーに戻してしまうため、ユーザーはデータで具合が悪いのは分かったものの、どうすればいいかが分からない。そうすると、私たちの生活は変わらないんです。
体を測定するウエアラブルデバイスもそのような状況が起こっていますよね。
新城:はい。なので、この「みえる」「わかる」の領域と「できる」の領域を結び付けて「かわる」まで持っていきたいんです。

 例えば、基礎体温計。基礎体温の変動が見えるようになって排卵のタイミングが分かれば、妊活や避妊のタイミングが示唆できるようになるため、自分の生活をハンドリングできるように変わる。これは基礎体温計の基本的な使われ方です。

 しかし、同じデータでも基礎体温とホルモンバランス、ホルモンバランスと代謝の相関が分かってくると、今度はダイエットタイミングがコントロールできるようになり、ダイエットの効率化ができる生活に変わる。こうなると基礎体温計というセンサーを用いた、ダイエット市場における新しいサービスを生みだせる可能性が出てきますよね。

 さらに、基礎体温とホルモンバランス、ホルモンバランスとパフォーマンスや集中の度合いが分かってくれば、今度は学習タイミングのコントロールができるようになり、初潮を迎えた女子中高生の学習市場に対して価値を生み出せるかもしれません。

 つまり、組み手を変えれば同じセンサーでも全く違う価値提供ができる。それを生み出すために異なる領域の人との出会いをどんどん生み出していきたいんです。そうすることで世界が変わる可能性がすごい勢いで増えていくと思っています。

名刺の肩書きを気にする日本人の心の壁を取り除く

すでにカンブリアナイトは20回以上開催されています。異業種の交流となると、共通言語が異なる可能性もあります。うまく交流できるものなのでしょうか?
新城:確かに「交流してください」と言われても、日本人は真面目でシャイな人が多く、会議室で紹介すると、すぐに名刺交換をして、相手の会社や肩書きを考えてしまう。肩書きなんて役割でしかないのに遠慮して、通り一遍の話だけで終わせてしまったりします。もっと本質的な話をすればいいのに…って思うことが多いです。だから、カンブリアナイトでは最初から来場者にお酒を飲ませています(笑)。

 イベントでは、いろいろな領域の人にプレゼンテーターとして登壇してもらいますが、参加者は飲みながら、聞きたい話を聞く。それを基にディスカッションをする。

 でも、そもそも目指してる未来が違う人同士が「こんなことやれるかもね」となっても、目指す未来が違うので共に歩み続けられない。食の趣味が全く違う人同士が「今度飯食い行きましょう」と口約束したのと同じで、行かずに終わるんです。

 だから、一番大事なのは世界観や価値基準を握り合う事です。それを共有できた人同士なら5年後、10年後の目指す社会を話し合える。価値基準が同じなら、関心領域が違っても、様々な未来を一緒に考えられる。こういう未来を作りたい。こういうことが大切だと思う。なんだか青臭いことのように思えるかもしれませんが、そういったことを恥ずかしげもなく話せる環境って、これからの時代においてとても大切だと思うんです。

 この価値基準のすり合わせができて初めて、具体的に実現するための施策について話せると思うので、カンブリアナイトでは、どうせ酔っ払っているので、その根っこの話をしたほうがいいんです。
お酒も入って覚えてないですしね。
新城:そう、覚えてない(笑)。ここで契約の話しても仕方がないので、酔った勢いで青臭い話をしてほしい。同じ未来を描く人と出会えたらいいじゃないですか。その未来の妄想を現実にするのが実事業なので、続きを会議室で話せばいい。でも最初は、未来を一緒に思い描くことが大事だと思っています。

自分で世界を変える時代。カンブリア時代の到来

そもそもカンブリアナイトを作ったきっかけはなんだったのですか?
新城:個人的な話になるんですが、昔、離婚したことがあるんです。そこに至るまでに、ものすごい閉塞感を感じていました。閉塞感って本当に最悪で、今日できていることもいずれできなくなるんだろうなとか、今日できないことはもう一生できないんだと思えてきて、未来が全然面白くなくなる。あの閉塞感を二度と味わいたくないと思ったんです。

 それで、どうすればいいんだろうと思って考えてみると、自分一人でできなければ誰かと手を組めばいいし、自分の能力に限界があるなら道具を使えばいいと気づいたんです。もちろん、道具を使いこなしたり、自分にできないことができる人と組むためには、自分自身が学び続ける必要もある。

 そう考えていくと、今日できないこともいずれできるようになると信じられるようになり本当にワクワクしてきて、未来に希望が持てたんです。
その気づきはどこから得れたんですか?
新城:何か1つの大きな出来事があったわけではなく、10年前くらいに全部がガラッと変わったんです。離婚をきっかけに、住む場所や、趣味や個人的な活動も、人との付き合いも、それまでの生活を全部かえたんです。働き方も当時は、ライターやプロデューサーとしてコンテンツを作る仕事をしていましたが、それも変えていきました。

 当時MOVIDA JAPANの代表だった孫泰蔵さん(現・Mistletoe ファウンダー)と出会い、初めて事業を作るという動きをしました。でも、これが全然分からなかった。それまでは仕事を作るというのは、営業をして仕事をもらってくることだと思っていたので、事業を作る、社会に新しい価値を創出するための座組みを考えるということが理解できていなかった。

 正直なところ、従来のものを全て絶ち、やり方を変える脱皮はすごく辛かったですよ。でも環境が劇的に変化することで自分自身も変化しました。自身の本質は変わっていないんですが、組む人や環境が変わると全てが変わるというのを実感しました。だから、カンブリアナイトも、来場者が一歩踏み出すきっかけになればと思っています。
カンブリアナイトが、人と人、人と道具を掛け合わせる場所になると。
新城:そう。今日できないことができる明日が来る、と信じられないと生きていて辛い。僕自身この考えを実践できるようになったら、もっと楽しくなると思っています。それに、この考えって結局、アライアンスとテクノロジーの活用とも言い換えられますよね。ミクロもマクロも、個人も企業でも同じなんですよ。

 メーカー企業だって、テクノロジーだけではなく、サービス化していくことの重要性も感じている。けれど自社だけじゃユーザーに届く最後の部分まで作るのが難しいこともある。サービスを作りっぱなしじゃなく、ユーザーの元に届いてから、どう活用され、どう影響を及ぼすか。その結果を基に次はどうお客さんにどう届けるか。

 それを「できる」領域の人たちと手を組んだり、カンブリアサイクルを使うことで可視化できれば、ユーザーの課題を解決するサービスになっていくんじゃないかなと思っています。

「大人はすげえ楽しいよ!」好きを基準に次の世代へ背中を見せる

実際に参加された方同士のコラボレーションも生まれていますか?
新城:まだ公表はされていませんが、各所でコラボレーションが生まれ始めています。ただ、僕たちの課題でもあるんですが、60人、80人で飲みながらのディスカッションなので、どこで何が起こっているかを把握しきれていないんです。

 もちろん、参加者同士でどんどん勝手にやっていただきたい。けれど、もしかしたら自分たちが少し介入すれば、もっと前進するプロジェクトもあるかもしれない。僕らが取りこぼすことで、プロジェクトがフワっと消えているならもったいないので、最後のトンっていう一押しをしていきたいと思っています。

 カンブリアナイトは、足りないものを持ち寄る場所です。楽しさだけじゃなく、ここで人が繋がりあうことでサービスがどんどん増えていってほしいし、後押しになるなら、僕らのネットワークも活用してもらいたい。

 これからは、カンブリアナイト自体を実験場として、未来の萌芽が芽生える瞬間を見える化し、ちゃんと種火まで燃やせるような仕組みを考えていきたいと思っています。
各所で様々なサービスが生まれていくといいですよね。
新城:そうですね。そういう意味では、カンブリアナイトのオープンソース化も考えています。カンブリアナイトは、2カ月に一度東京で開催しています。去年からは3カ月に一度、関西でも開催しています。今後は、「みえる・わかる・できる・かわる」のフレームワークを活用して色んな人たちが、自分企画の「俺カンブリアナイト」を好きな場所で開催してくれるようになったら面白いと思うんです。

 そのため、カンブリアサイクル自体も、クリエイティブコモンズで自由に改変できるライセンスにしています。

 僕たちは、ヒューマンセンシングを軸に「みえる・わかる・できる・かわる」のカンブリアサイクルを回していますが、このフレームワークは中心を差し替えれば他でも使えます。飲食店経営や建築領域でやってみてもいい。自分が好きなもの、関心があるものを種に、そこから周りの人たちを巻き込んでいくことができるのだと思うのです。

ジャンルを問わず俺カンブリアナイト。

新城:これからの時代は、自律分散型で、みんなが自分の好きをきっかけに、社会にコミットする時代を迎えていくと信じています。ですので、自分の世界を変える第一歩を生み出す、人と共にそれを進められるようになることが大切なんじゃないでしょうか。

 自分でプロジェクトを立ち上げ、仕事自体を作ることもそう。副業が解禁されても、頼まれた仕事をハイパフォーマンスでできる人と、ゼロから自分で仕事を作れる人とでは、その動きが全然違うものになると思います。

 このカンブリアサイクルは自分でプロジェクトを起こしてみるツールとしても使ってほしいです。自分の関心がある分野をサイクルの真ん中に置き、どういう形でプロジェクト化するか、どう社会に影響を与えるチームを作るかを可視化して考えられる。このサイクルが活用されれば、社会も僕らも想像できないような、多様な動きが生まれるんじゃないかなと期待しています。
好きをきっかけに、仕事もサービスも広がる時代。ワクワクしますね。
新城:そう、そのワクワク感が大事なんですよ。僕たち大人のワクワク感は、次の世代、子供たちが見ています。上の娘が大学生のころ様々な社会活動をしていたんですが、共通の知人から「娘さんが色々な活動をしているのは、お父さんの仕事の仕方が面白そうだと思ったからだ、と言っていましたよ」と言われて大号泣したことがありました。子供たちは何も言わなくても、僕たち大人のことをちゃんと見ています。

 僕たちは、大人はすげえ楽しいよ!というのを次の世代に見せていかないといけない。彼ら、彼女らの生き方自体もそうあって欲しいなら、なおさら見せていく必要がある。

 だから、カンブリアナイトで、アホみたいにお酒を飲んで、青臭い話をして、自分の好きを軸に未来を変えていく活動をワクワクしながら試してみる。そして、その思い描いた未来を現実の形にしていく。それってとても大切なことだと思うんです。


西本 美沙=ランドリーボックス
(撮影:菊池 くらげ)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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