原田:最初にお会いしたのはカンブリアナイトでした。日経BP主催の「デジタルヘルスDAYS」で、カンブリアナイトの主催者である新城健一さんの講演を聞き、カンブリアナイトの存在を知りました。その直後の会で山忠の白倉さんの発表があることを知り、一番前に陣取って話をうかがい、真っ先に名刺交換したというのが最初のコンタクトです。


カンブリアナイトで出会い、「はつだいの靴下」を発売するまではスムーズに?


原田:そもそも私たち研究所の事業開発テーマの1つに転倒予防があったんです。老人ホームでも転倒事故が問題になっていて、転倒防止靴下を手掛けていた山忠さんには私自身興味を持っていました。それで、イベントでお会いした後に打ち合わせをして、「何がお客様の本当に役に立てるか」という企業理念を聞いて、私は山忠さんをより好きになった。弊社の理念にも非常に近かったんです。でも社内に山忠さんを理解してもらうのが難しかった。


白倉:最大の壁でしたよね。


原田:それで第1フェーズの関係づくりとして、2016年に弊社の老人ホームで、山忠さんから住民向けに、足に関する健康セミナーをしていただきました。そのセミナーが入居者の方にすごく好評で、それから第2フェーズとして、2017年に、山忠さんから老人ホームで転倒予防靴下の実証をしたいという話をいただきました。他の企業からも実証のお話をいただきますが、実験だけでなく開発研究に結びつける必要がある。でも山忠さんとならそこも含めてできると考えて進めました。


どのような形でスタートしたんですか?


原田:最初は、ホームの居住者からの「丈が短い」「滑り止めが効きすぎる」など、いろいろな要望に対して、都度改良版をお持ちいただきました。入居者の中には、自分が伝えたことが反映された商品を見て、「こんな嬉しいことはない」と涙ぐむ方もいました。認知症の方もいらっしゃるので、自分の発言も忘れてしまうこともある中、自分が言ったことが反映されて嬉しいと感動している姿がすごく印象的で。その状況を見て、ようやく社内も山忠さんをいい会社だと理解してくれました。


山忠の白倉重樹氏

脱メーカー思考。完成品は全然完成品ではなかった。

都度改良というのは、メーカーとしてはかなり難しい部分もあるのでは?


白倉:実証を通じて、ベネッセさんの会社理念である、ちゃんとお客さんに寄り添えているかという部分を非常に勉強させられたんです。実は、当初、私の中では転倒予防靴下は完成していたと思っていたんです。


 機械検証で効果も出ているし画期的な商品だと確信していた。だから早く売りたい気持ちもありました。でも、ベネッセさんから介護ビジネスにはもっと配慮すべきところがあると言われました。


 老人ホームで働く人たちは人の命に関わっていて、施設での転倒が命に関わることもある。だからこそ、「これを履くと転倒しない」とは軽々しくは言えません。滑り止めが効きすぎて転倒になった時は責任問題になるかもしれない。


 私たちは研究データで数値を出せば、これだけ効くんだから使ってよと言いたくなる。でも、使うシーンや、その方の状況を把握せずに手渡すのは乱暴すぎるんだと。それがエンドユーザーに深く寄り添うという考え方なんだと知り、自分はメーカーの思考に寄りすぎたと気づかされました。


 だから、僕らが完成だと思っていたものは全然完成品ではない。だからこそ、何度もサンプルを作ったんです。