原田:実証を通じて互いの姿勢に気づけましたよね。その実証を経て、初台の老人ホームで入居者はどういう靴下を履いていて、どういう課題があるかを一から見直しました。弊社では「自発支援」という言葉をよく使っているんですが、「自立支援」ではなく、自分から行動するということを支援します。


 例えば認知症になられた方が料理好きだった場合、ご家族は危ないからと包丁を取り上げて料理をさせないことも多い、。ですが当人にとっては非常にストレスになるので、弊社では安心して料理を作れる環境を提供します。初台のホームでもそのような取り組みをしています。


プロダクトを作る以上の価値を知るリビングラボ

ヒアリングされてみてどうでしたか?


原田:ホーム長や理学療法士らと一緒に、自ら履きたくなるような靴下を作れないかと入居者にヒアリングしました。見ると、入居者の靴下が結構ボロボロなことも多かった。入居者の靴下は、ご家族が購入しているものも多く、入居者の要望に沿っているかは分からない状況でした。


 試作品作りは2カ月おきで進めました。プロトタイプができそうなタイミングで入居者を呼んでヒアリング。この取り組みが、リビングラボ、ユーザー共創型の座談会を始めるきっかけになりました。


白倉:我々は転倒予防にフォーカスしていましたが、ヒアリングしていくと、実際には靴下の機能として転倒予防だけだと困ると分かってきました。試作品には紐を付けたんですが、これは自分で履く動作がしんどい方もいるので引っ張りやすくしてみたんです。


入居者の声を聞きながら試行錯誤を続けた

 あとは私たちの思い込みですね。例えば、高齢の女性向け靴下と言うと、典型的に冷え性やむくみがあるので分厚い靴下をつくる。でも、生活シーンを伺うと要望が違うと気づくんです。初台の施設は暖かいので、厚いと歩きにくくて危ない。生地から考え直す必要がありました。


原田:リビングラボや実証も、どうしても企業側が聞きたいこと、やりたい企画を押し通すケースも多いと聞きますが、都度改良版をユーザーに持ってきてくれる山忠さんの対応で、入居者にとっては靴下を作ることが生きがいになっているようでした。


 老人ホームは社会との接点がなくどうしても閉鎖的になりがちです。第一線で働いてきた人からすれば、プロジェクトを通じた新たな社会との繋がりや自分の役割があれば、生きがいに繋がると感じました。白倉さんはご入居者と手紙の交換までされていて、最初は全然喋らなかった人の表情もどんどん変わっていきました。


 今回のプロジェクトは、事業開発で商品を作ること以上に、新しい老人ホームの過ごし方として大きな意義があったと思っています。