商品開発が入居者の方との関係性も変えていったんですね。


白倉:はい。介護だけではないですが「介入」という言葉の意味を作り手側がもっと考えていかないといけないと思いました。メーカー側からすると、介入して単にデータを取るだけみたいなこともあるが、そうじゃない。本来は、その方たちの色々なニーズを拾えるかどうかです。


 今回ホームの方々と意見交換会を何度か行いましたが、最初に「私、こういう靴下が欲しい」とメモを持ってこられた方がいました。やり取りを繰り返していくと、聞けば聞くほど、単に自分の要望を叶えてほしいだけじゃなく、誰かの役に立ちたいと考えられていた。「私の言うことで何かが上手くいくようであれば、いくらでもやります」とおっしゃる。


 先ほどの話にもありましたが、入居するまでは社会との接点を持ち、誰かのお世話をしていた人も、老人ホームでは常にされる側になる。だから、誰かに何かをしてあげたいという気持ちもあるんです。私たちメーカー側は介入をしているんですが、気づけば向こうも介入している関係になっていました。


自ら動くからこそ、押し切れる

ただ、ヒアリングした要望を全て反映するのは難しかったのでは?


白倉:そうなんです。ユーザーの声だけを拾っていくと、仕様だけが増えて出口が見えない開発になる。しかし今回は、エンドユーザーだけでなく、彼らの生活と寄り添っている専門家の声も同時に聞けたのでありがたかったです。「この要望は、1人しか言っていないけれど実はいっぱいいるので取り入れましょう」という意見ももらえました。


 靴下は日用品なので洗濯や生活様式で扱われ方が違います。歩行器を使う方もいれば、車椅子の方もいる。だから現場の方に、どういう使い方ができるか、危ないところはないかを見てもらいました。専門職の視点で基準を超えられれば、それはどの施設でも通じます。


そしてようやく商品が完成したんですね。


白倉:完成品は、ホーム内の誰の靴下かが分かるように名札をつけ、つま先部分の滑り止めの幅を改良したり、むくみ対策でメッシュに近い構造にもしています。先ほどの紐の部分は見た目を考慮して、折り目部分に指を引っ掛けられるように改良しました。


ベネッセスタイルケアとしては初の共同開発。今回、プロダクト開発にまで至った要因は何だと思いますか?


原田:全面的な共同開発は初めてですね。ベネッセスタイルケアとしても本当に画期的な一歩です。2016年に初めてお話をさせていただいてから3年の時間がかかりました。企業アライアンスは一気にビジネス展開することも多いですが、今回は関係を少しずつ作ったため時間はかかりましたが居住者も含めて太い絆がつくれたと思っています。


 それに普段ご提案をしていただくことも多いので受け身でいるパターンも多いんです。でも今回は自ら情報を取りに行き自ら提案した。基本的なことですが、自分で動かないと実際に開発まで持っていく、押し切る力が伴わないのかもしれません。