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Features Business 公開日:2018.05.31

[寺田倉庫]一点もの管理でトランクルーム変革、さらにプラットフォーマーに転身

1991年に第1号の認可を受けてトランクルーム事業を展開してきた寺田倉庫のビジネスががらりと変わった。その代表例が「minikura」と呼ぶクラウド型ストレージ(トランクルーム)事業だ。

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 1000箱、アイテム数にして約2万アイテム。「余白創造のプロフェッショナル」を目指す寺田倉庫のクラウド型ストレージ(トランクルーム)サービス「minikura」では、これだけの”モノ”が毎日運び込まれてくる。顧客から請け負って保管しているアイテムの数は、今では1700万にまで膨らんでいる。このminikuraを立ち上げ、現在も担当しているのが、同社専務執行役員の月森正憲氏だ。
社会のインフラにすることを目指してminikuraを立ち上げた専務執行役員の月森正憲氏。(以下、人物写真は撮影:湯浅 亨)
 minikuraの始まりは6年前に遡る。個人利用者向けのトランクルーム事業をスタートしてから20年あまり。もともと「新しいことをする」という考え方を持つ同社にあって、トランクルーム事業はもはや変化が少ない事業になっていた。

 もちろん、何も手を売ってこなかったわけではない。顧客のニーズに応えるべく、タイヤ、五月人形など、預かるアイテムの幅を広げ、事業を拡大してきた。それでも空きスペースさえあればサービス提供できるトランクルーム事業には、数多くの競合が参入。じわじわとコスト競争に陥った。

価格競争に陥ったトランクルーム事業を抜け出す

 そうした危機感が次第に膨らんできたころ、設立60周年のパーティで、同社オーナーがぼやいた。「最近、おもしろくないな」――。この言葉をきっかけに同社は大きな変革の道をたどる。中野善壽氏が社長に就任し、大奮起。そして月森氏の新事業へのチャレンジが始まった。

 月森氏はプロパーで寺田倉庫に入社し、法人営業部門で働いてきた。モノの扱い方や荷物ごとの適切な保管方法など、いろいろな知識とノウハウを身につけた。その後、8年ほど前に事業開発部門に異動し、個人向けトランクルームの新事業開発に取り組んでいた。法人向けの保管サービスを経験してきた立場からすると、トランクルーム事業のサービス内容はごくごくシンプル。基本はスペース貸しであり、何を預けるのかも顧客の自由である。従来のトランクルーム事業では、月森氏が身につけたノウハウが活きづらい面があった。

 ただ、こうしたモノに関する知識は、寺田倉庫が創業以来培ってきた「強み」にほかならない。モノの特性や扱い方以外に、それを市場に出す際に必要になる流通加工などに関する知識・経験もある。「だったら、この強みをトランクルーム事業にも生かせばいい」。個人がトランクルームにしまうものは、ロットではなく単品。どんなモノが来るか分からないし、それが思い出が詰まった、代えが効かないモノである可能性が高く、預かる側としてはリスクが高い。「でも、だからこそ、モノに合わせて適切に保管するサービスなら、他社に先んじたものにできる」(月森氏)。これが、箱の中にあるアイテム単位で預かるminikuraの基本コンセプトになった。

 とはいえ、最初から自信があったわけではない。サービスの値付けを考えつつ、コストを積み上げて何度もシミュレーションしてみたが、どうしても、当初イメージしていたほどの魅力的な商品を設計できなかった。

 明快なビジネスモデルは見つからないまま。「天王洲の空いているスペース(自社施設)でこじんまりやっていけばいいか」。そんな考えでいると、中野社長から叱咤された。「小さなことを考えないで、やるからには社会のインフラにしていくくらいのつもりでやれ」。加えて、値付けはコスト積み上げから考えるものではないという社長の指摘もあって、月森氏の迷いが吹っ切れた。

 こうしてできあがったのが、倉庫としてのハードウエア設備を持たず、アイテム1点から預かれるminikuraである。メニューは2種類。同社の専用ボックス1箱月額200円で預けられる「minikura HAKO」と、預けた物を1点ずつ写真ギャラリーで管理できる1箱月額250円の「minikura MONO」である。

 minikuraで特徴的なのは、他の倉庫会社を提携パートナーとし、そこでアイテムを預かる仕組みにしたこと。こうすると、自前の設備を持たずにサービスを提供できる。一方、パートナーにとっては、寺田倉庫が実施するminikuraのWebマーケティングが、そのまま自分たちのマーケティングになる。「特に地方の倉庫会社は、スペースを埋め切るのに苦戦をしている。スペースを空けておくくらいなら、我々と連携してアイテムを収容したほうが効率的だ」(月森氏)。

 考えを切り替えると、発想はさらに広がる。倉庫業者以外にも、Webマーケティングに相乗りできる事業者は考えられる。例えば配送業者や、アイテムのクリーニングなど活用サービスの事業者である。こうしてパートナーの輪を広げ、オプションサービスを増やせば、コストを抑制しつつ、効率的に売り上げを上げられるというわけだ。こうして、同社の専用ボックス1箱分で月額200円の「minikura HAKO」、月額250円で室内の状態が安定している写真ギャラリーに保管する「minikura MONO」というサービスが出来上がった。

格納場所、アイテム、顧客のIDをひも付け「一点もの」を管理

 minikuraでは、顧客自身が所定の箱にアイテムを入れ、寺田倉庫に発送する(送料は無料)。こうして顧客からアイテムが届くと、寺田倉庫では、まず開梱してアイテムごとの写真を撮影する(minikura MONOの場合)。写真を撮影するのは、アイテムが顧客の申告どおりにそろっているかを確認しつつ、預かった時点での状態を記録するため。アイテムを受け取る際には必ず発生する作業である。そこで、写真撮影でアイテムを確認する際に、アイテムを識別するIDを対応付けるようにした。
(写真提供:寺田倉庫)
 同時に、倉庫の空きスペースを自動的に見つけて、倉庫・倉庫内の区画・棚・棚の段を識別できるロケーションIDを割り当て、これらのID情報をバーコード化して印刷シールを作る。これを、アイテムを戻し入れた箱に張り付けて準備は完了。最後は割り当てた倉庫にアイテムの箱を発送する。

 minikuraのキモは、この、アイテムと収納するロケーション、そして顧客をひも付ける情報の管理にある。根本的な考え方はアイテム単位での管理だ。「トランクルームに預けられるアイテムの大半は、この世に2つとないもの。たとえ品目が同じでも、顧客が異なれば、それぞれに込められた想い、思い出も異なる。個々のアイテムをきちんと区別し、管理する仕組みが、minikuraの心臓部なのである。

 実はこの「アイテムごとの管理」という発想が、トランクルーム事業の幅を広げる、「プラットフォーム化」という考え方に結びつく。物理的なモノを扱う事業の多くで、事業用のシステムと倉庫がつながっていないからだ。

API提供とデータ活用で、新市場をつくる

 もともとminikuraのために作った仕組みだが、「アイテムごとの管理」は、モノの出入りを伴う様々なビジネスに応用できる。ここに目を付けた寺田倉庫は、他社にシステムのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を提供することを考えた。さらに、新規ビジネスに乗り出すパートナーの事業支援も手掛けるようになった。

 好例がエアークローゼットの「airCloset」である(※)。airClosetは、スタイリストが顧客一人ひとりのために個別に提案するコーディネートを届ける月額課金制の女性向けファッションレンタルサービスである。ネットの向こうにある架空(エア)のクローゼットに収められた洋服の中からプロのスタイリストが自分に似合うものを選んでくれ、普段着として借りられるスタイルだ。

  ※現在、寺田倉庫によるエアークローゼットへの事業支援は終了している。

 airClosetの物流では、当然、日常的に服の出入りがある。サービスを実現するには貸し出す服と同時に、それを保管しておく場所、そして服の状態や貸出状況を管理するシステムが欠かせなかった。そこで、保管場所として、そして貸し出しアイテム管理の仕組みとしてminikuraを採用することになった。

 取り扱う服によっては、最初に同じアイテムをロットで仕入れることもある。ただ、誰に貸したかという貸出履歴や、貸し出しているうちに生地に生まれる使用感などに違いが出てくる。そのため、「アイテム1点ごとの管理にが必要だった。」(月森氏)minikuraのプラットフォームなら、1着ごとにIDを割り当て、生地の状態などと併せて個別アイテムとして管理できる。

 ほかにもワイン、絵画など、アイテムごとに価値が異なるものはいくつもある。「minikuraの仕組みを活用すれば、物流の制約を超えられる」。寺田倉庫は、各種のアイテムを管理するサービス、あるいはアイテムを出し入れするサービスを、minikura上に数多く展開していこうと考えている。

プラットフォーム化で変わるビジネスの重要ファクター

 トランクルーム事業の場合、顧客の基本的な発想は、「大切に保管したい」「生活空間に“余白”を作りたい」といったこと。だから預けた荷物は、あまり頻繁に出入りしない。預かってすぐに返却するアイテムが増えると、管理の効率が下がり、料金をもらえない空白の時間が増えることになる。月額固定の料金は、できるだけ長期間預ける気にさせるためのものといえる。

 一方、プラットフォーム事業の場合は、物流の制約を超えることを目的とするため、トランクルームに比べると、アイテムの動きが激しくなる。例えば預けたアイテムのヤフーオークションへの代理出品から発送までを請け負うヤフオク!サービスでは、アイテムごとに料金が発生するため、扱うアイテム数(トランザクション)が増えるほど収入が増える。トランクルームとは異なるビジネスモデルだ。

 プラットフォーム上のサービスがairClosetのようなものなら、扱うアイテムの数や、airClosetを継続利用するユーザーの数が増えるほど、寺田倉庫の収入が上がることになる。
(写真提供:寺田倉庫)
 こうして各種のアイテムを取り扱うことで、モノが動く様子をデータとして蓄積できる。そのデータを応用すれば、例えばトレーサビリティーを管理するようなサービスも実現できるかもしれない。「既に相当量のデータはたまった。これからは、そのデータをどう活用するかが課題。いろいろなプレーヤーを巻き込んで、アメーバのようにサービスが広がっていけばいい」。月森氏はこう話す。いま、このときが寺田倉庫の本当のデジタル革新の始まり、ということになるのかもしれない。


河井 保博=日経BP総研 クリーンテックラボ


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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