昨今、旅行の宿泊場所を確保するのはかなり楽になった。スマートフォンを使い、いつでもどこでも予約できる。だが、賃貸物件の確保はそうはならず、まだまだ手間と時間がかかる。スマホやパソコンで所望の物件を手軽に見つけられるようになったものの、契約するにはいくつかの書面提出が必要、かつ審査にも日単位で時間がかかるのは20世紀のままだ。だが、賃貸物件でもホテルを予約するかのように、スマホのアプリで契約が結べるときが間もなくやってきそうだ。契約期間も年単位にとどまらず、週単位や日単位でフレキシブルに選べる可能性すらある。実現の鍵を握るのが、ブロックチェーンである。ブロックチェーンを活用する不動産管理システムの2018年導入を予定する積水ハウスにおいて、システムの構築に携わるIT業務部部長の上田和巳氏に、ブロックチェーン活用の利点などを聞いた。

不動産会社に来店なしで手続き可能

ブロックチェーンを活用した不動産情報管理システムを導入する狙いを教えてください。

上田 大きく2つあります。1つは、賃貸契約の簡素化です。現在、物件を見つけてから賃貸契約に至るまで時間と手間がかかります。部屋を借りるとき、お客様はまず希望する物件を見つけると、物件を管理する不動産会社の店舗を訪れると思います。そして、希望の物件を内覧し、気に入れば店舗で賃貸の仮申し込みをして、審査を待ちます。審査が通れば再度店頭に赴き契約書を記入し、やっと本契約が完了するといった手順を踏みます。こうした一連のフローに要する手間や期間を、ブロックチェーンを使って大幅に短縮・簡素化するのが狙いです。最終的には物件情報の入手から賃貸契約までスマートフォンのアプリだけで手続きできるようにしたいと考えています。将来的には、一度も来店せずに賃貸契約するといったことも可能になるでしょう。


 もう1つは、物件に住んでいただいている利用者に向けた、様々な情報提供を行うための基盤としての活用です。ブロックチェーン上には賃貸契約するお客様の情報や物件情報などの情報がたまっていくので、それらを活用してお客様の利便性や満足度の向上を図ります。利用者がブロックチェーン上にある自分自身に関わる情報や物件情報にアクセスできる環境を作っていきます。これまでは社内にあるデータベースを使って、利用者向けの会員サイトを展開してきました。利用者はこのサイトから当社のデータベースにある限られた情報にアクセスが可能でしたが、ブロックチェーンを活用した不動産情報管理システムでは、もっと多くの情報を簡単かつ安全に利用できるようになります。これら2つの狙いはいずれも、“入居者ファースト”を第一に考えたものです。

利用者は、どのような情報を確認できるのですか。

上田 まだ開発途中なので詳細なことは言えないのですが、入居者アプリからいろいろな情報を確認できたり、生活に関連するサービスを契約したりといったことを可能にしたいと考えています。例えば、入居者が手元のスマホを使って入居者アプリを開いたとき、いつどのように入金したかといった入居者自身の入金履歴や建物の仕様・改修履歴などが確認できるようにしたいと思っています。ブロックチェーンと連携している情報であれば、順次追加していくことが可能です。将来的には、賃貸物件に入居するにあたって発生する他の契約、例えばガスや電気、保険などの契約や履歴を登録、確認できるようにできればと考えています。

異業種と連携、生活関連の様々な情報を一元的に確認

 賃貸以外の情報を確認できるようになるのは、次のステップでのプランになります。自社内だけでなく同業他社、さらには異業種とブロックチェーン上で情報共有の連携を広めていきたいと考えています。そうなれば、入居者は自分自身が関わる各種情報を一元的に確認できるようになり、入居者にとっての利便性は一層高まるはずです。

システムの稼働はいつごろですか。

上田 既に当社の物件情報・入居者の情報をブロックチェーン上に載せており、2018年の夏ごろに入居者様への情報提供サービスの利用を開始する予定です。並行して、新規入居契約についてもお客様への案内方法や運用面を詰めているところで、2018年内にはブロックチェーンを使った賃貸契約業務の運用を開始したいと考えています。新規入居契約については、サービス提供地域は当初は首都圏内でパイロット的に進め、徐々にサービス提供地域を広げていく予定です。


 新規入居契約については、当初は特定の物件に絞ってのスタートを考えています。利用者にとっても当社にとっても新しい試みなので、一斉に大量の賃貸物件に対してブロックチェーンを使った賃貸契約を運用するのは難しいと考えています。現在、普及に向けたストーリー、運用の始め方について頭をひねっている状況です。最初の段階は利用できる物件は限られるので、実際にブロックチェーンを利用できる物件を管理する不動産業者様と連携して、来店されたり問い合わせいただいたりしたお客様にアプリの利用を案内するなど、お客様にスムーズに利用いただける運用方法を考えているところです。

既存のデータベースにある情報を、ブロックチェーン上に移行していくのですか。

上田 情報を移行するというよりは、現在のデータベースと共存・補完するイメージです。当社では、もともと入居者や物件などの情報を管理するシステムを持っています。それらの情報をすべてブロックチェーン上に移行させるとなると大掛かりになり、時間やコストも膨れ上がってしまいます。従って、既存の情報の一部をブロックチェーン上に移し、かつ新規の情報は既存のシステムとブロックチェーン上の双方に記録していきます。ブロックチェーンに対応した物件であれば、お客様は今まで通り店頭に来ていただいてもいいですし、場合によっては店頭していただかなくても契約を申し込み可能な仕組みを目指しています。


 既存の社内データベースには、様々な情報が入っています。これらの情報を、ブロックチェーン上にすべて載せるようにはならないと考えています。例えば、入居者や物件の基本的な情報をブロックチェーン上に載せ、既存の社内システムと連動させながら運用するといった形です。

アプリの利用を勧める際、ユーザーメリットをアピールする必要がありそうです。

上田 最初は入居者向けのアプリから利用を開始することになりますが、アプリ上で本人確認登録を済ませたお客様であれば、例えば、入金履歴等の秘匿性の高い情報もアプリから安全に確認できます。アプリを起動させると、本人確認が済んでいるお客様はメニューが画面上に表示されているイメージになるでしょう。アプリで使えるメニューは、順次増やしていきます。


 当社は、ブロックチェーンを活用する不動産情報システムを実証実験ではなく、実用化をしていきます。やるからには、ユーザーメリットをしっかりと打ち出していかねばなりません。システムを構築することは大切ですが、何よりも当社の賃貸物件を取り扱っていただいている不動産業者の皆さんとうまく連動し、お客様にメリットをアピールしていくことが大切と考えています。