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Features Business 公開日:2018.08.08

もっとエキサイティングに、楽しさを幅広く──拡大するスポーツテック

デジタル技術を活用することでスポーツの世界が変わりつつある。スポーツの「今と未来」を探る。

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 スポーツ領域におけるデジタル技術やデータ活用が急速に広がっている。スポーツにおけるデータ分析としては、2011年に話題を呼んだ映画「マネーボール」が好例だろう。データ分析に基づいてメジャーリーグ球団の再建を題材にした映画である。ただ、現在のスポーツ領域におけるデジタル技術の活用方法は、もっと多岐にわたる。「新しい視聴体験」「ゲーム・マネジメント」「ファン・マーケティング」「街おこし/地方創生」「eスポーツ」といったものだ。

 比較的著名な動きである、選手のコンディション管理や、サッカーのロシア・ワールドカップで注目を浴びたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)のようなコンピュータ判定支援システムは、既にかなり広範囲に導入されてきている。コンディション管理を手がけるユーフォリアは、30競技、250チーム以上を支援している。一方、VARでも利用されているソニーの「ホークアイ」も、既に25種類以上のスポーツで採用されているという。

 こうした動きを受けてか、スポーツビジネスに関するカンファレンスは増える傾向にあり、それぞれへの参加者も数多い(写真1)。テーマとして最も目立つのは、デジタル技術を活用したビジネスだ。
写真1 国内でもスポーツビジネスへの関心が高まっている。写真は2018年8月2日と3日に開催された「SPORTS X Conference 2018」の様子。
 このような「スポーツのデジタル化」には、多くの期待がある。一つにはスポーツの楽しみが増えること。プレーヤーにとっては、データを活用することでより高いレベルのパフォーマンスを達成できる。観戦者にとっては、選手のパフォーマンスそのものに加え、データを活用した分析もまた、見る楽しみの幅を広げてくれる。例えば、人気スポーツには専用のWebサイトやスマートフォン向けアプリが提供されており、選手やチームの勢いを示すデータを見ることも楽しみ方の一つになっている。
アメフト、ラグビー、サッカーなどの試合ではGPSで選手の動きを克明に捉える(Catapult Sportsが公開している動画)
 新しい視聴体験に向け、新しいデジタル技術が次々とスポーツ領域に応用される。パナソニックは、専用のゴーグルなしの360度映像をパブリックビューイングに活用しようとしている(関連記事:スタジアムの臨場感を遠隔地で、パナが360度映像配信)。インテルは、数十台のカメラ映像を加工することによる「自由視点」の映像技術を「スーパーボール」の放送で実用化している(関連記事:VRと自由視点、インテルが挑む「スポーツ中継革命」)。
インテルは「自由視点」の映像を実現。写真はインテルが公開している「Intel True View」の紹介動画
 このところ注目が高まっている「eスポーツ」の拡大も、スポーツのデジタル化の象徴的な動きだろう。eスポーツとは、複数人で対戦するビデオゲームをスポーツとして捉えるものであり、年齢や体力差を超えて競技に参加できるということで世界的に人気を集めている。高額な賞金が用意された競技会も数多くある。

 日本でも最近になって日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)がeスポーツへの参入を発表、2018年5月4日にeスポーツ大会「明治安田生命eJ.LEAGUE」の決勝ラウンドを開催した。国外のプロスポーツでの実績はあったが、国内では初の試みだ。

過度の練習はケガの元

 スポーツ分野でのデータ活用において注目分野の一つが、選手個人やチームのコンディションの可視化である。オリンピックや世界選手権、ワールドカップなど世界レベルの競技会では、アスリートが大会のその日に100%の力を出せるように科学的なデータをもとに調整していくことが、当たり前になりつつある。

 これまで、アスリートは競技大会に向け、人一倍練習することで、チャンピオンになろうとしてきた。ところが、過度な練習が裏目に出ることもある。疲労骨折が判明し、競技に出場できず悔し涙を流したアスリートもいれば、コンディションが悪いなかで無理に試合出場し、結果を残せず涙を飲むアスリートもいる。

 科学的データに裏付けられた練習の代表的な手法は、アスリートモニタリングと呼ばれており、アスリートの練習や体調を可視化し、トレーニングに生かすというアプローチである。これにより彼らのパフォーマンスを高め、競争力を強化するのに使われている。例えば、ケガのリスクが高まっているようなデータが見えてくると、トレーナーやコーチなどに警告する。トレーナーやコーチは、練習の負荷を落としたり別メニューに変えたりする。このことで、筋断裂・筋損傷をはじめとするさまざまなケガを防止するのだ。

データ活用を後押しした「テクノロジーの“大衆化”」

 選手のコンディション管理にデータが積極的に使われるようになった要因は、三つある。クラウドサービスを安く使えるようになってきたこと、センサーが小さく軽く安く高精度になり、しかも安く手に入るようになってきたこと、さらにデータ解析するための機械学習サービスが使えるようになってきたことだ。

 コンディション管理以外にも、スポーツ領域のデータ分析は至るところで行われている。例えば、企業のイノベーションを扱うメディア米Innovation Enterpriseによると、メジャーリーグの投手が投げる球種を機械学習で分析した例がある(関連記事:Innovation Enterprise 「How Is Machine Learning Changing Sport?」 )。Booz Allen Hamilton社のエンジニアRay Hensberger氏が、投手900人のデータを3シーズンに渡って取得しその学習モデルを作ったところ、74.5%の精度で球種を予想できたという。

 データを活用するとなれば、当然、そこには一定の投資が必要になる。例えば選手の動きをつぶさに捉えたいなら、GPS(全地球測位システム)のようなセンシングデバイスを身に着けさせる必要がある。それも、クルマやスマートフォンに搭載されているようなものではなく、誤差数センチ以下の、もっと高精度に位置を測定できる仕組みが必要になる。当然、一般的なセンシングデバイスに比べれば、コストは跳ね上がる。

 スポーツにおけるデジタル化のもう一つの象徴として、プロテニスの一部で採用されている「チャレンジシステム」のような、ボールトラッキングシステムやコンピュータによる判定システムもあるが、これも相当なコストが見込まれる。まず、スタジアムごとに複数台の高精細カメラと、画像識別・分析、シミュレーションなどを瞬時にこなすコンピュータシステムが欠かせない。これをスタジアムごとに作り込むわけだから、そのコンサルティング費用、開発費用などがかかる。

 それでも、これだけ取り組み(投資)が盛んなのは、スポーツファン層を広げるとともに、より熱心なファンを育むことにつながるためだ。冒頭に挙げた「新しい視聴体験」「ゲーム・マネジメント」「ファン・マーケティング」などにより、より多くの人が、よりエキサイティングにスポーツを楽しめる環境をつくれば、そこに新たな収入源が生まれ、スポーツ関連のサービスがさらに充実して市場が拡大する、という好循環が生まれるわけだ。選手の戦略を高度化すること、選手にケガをさせず選手としての寿命を延ばすことも、同様にファンを引きつける要素になる。

 スポーツ領域におけるデジタル技術活用は、今後まだまだ進化し、浸透していく。本特集では、次回から、スポーツチーム向けのシステム開発・コンサルティング業務に携わるユーフォリアの取り組み、テニスやサッカーのコンピュータ判定システムで活躍する「ホークアイ」など、これまでのスポーツテックの最前線と、その先に見える世界を紹介していく。


津田 建二


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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