しかし、SOMPOホールディングス グループCEO 代表取締役社長 社長執行役員の櫻田謙悟氏と、損害保険ジャパン日本興亜株式会社 代表取締役社長の西澤敬二氏に面会し、その考えが違っていたことを知る。両氏は、現状に対して並々ならない問題意識と危機感を持っており、デジタル化の必要性について真剣に考えていた。


 「2人とは、それぞれ別のタイミングで会って話をしましたが、言っていることは全く同じでした。それは、近い将来、デジタル化によって保険業界全体が破壊され、自社がなくなってしまう危険性があるということ。既に傾きつつある企業ならいざ知らず、事業規模が数兆円クラスの大企業のトップが、自社の“死”を現実のものとして意識していたのです」(楢﨑氏)


 両氏は「このままではいけない」という問題意識に加えて、「社内では危機に対処できない」という結論にも至っていた。だからこそ、専門家を外部から招聘し、デジタル化をきっちり進めたいと考えたわけだ。魂を持ってぶつかってきた相手から「力を貸してほしい」と頼まれたら、楢﨑氏としてはCDOを引き受けないわけにはいかなかった。

AIを活用したアプリで保険証券を自動読み取り、契約手続きまでをシームレスに

 CDOに就任した楢﨑氏が取り組んでいることには、大きく分けて2つある。既存ビジネスのデジタルシフトを支援する「持続的イノベーション」と、新規事業の創出や冒頭で紹介したSOMPO Digital Labの設置などを進める「破壊的イノベーション」だ。グループ内の視点で見れば、持続的イノベーションは「救いの天使」、破壊的イノベーションは「破壊の悪魔」といった位置づけになるだろう。部内では組織を2つに分け、デジタルR&Dチームが「天使」を、デジタルベンチャー室が「悪魔」を担当。しかし楢﨑氏だけは、ジキルとハイドさながらに、一人で相反する2つのイノベーションに取り組んでいる。

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SOMPOホールディングスは「安心・安全・健康のテーマパーク」を拡大する(出所:SOMPOホールディングス)

 AIやビッグデータなどを活用したプロジェクトのなかには、既に実用化に進んでいるものも存在する。例えば、AIを活用した自動車保険証券・車検証読み取りアプリ「カシャらく見積り」はその成功例の一つ。アプリを立ち上げてタブレット端末のカメラで自動車保険証券や車検証を撮影すると、アプリがその内容を自動的に読み取り、保険料計算システムへ転送する。見積りから契約手続きまでをシームレスかつペーパーレスで完了できるわけだ。顧客に保険を提案する代理店にとっては、担当者の手間を減らせるとともに、顧客対応をよりスムーズにしてくれる画期的なツールとなる。


 このような新規プロジェクトは2017年時点で42件が採用され、そのうち10件が既に実用化に至っている。一方で、14件は中止になったそうだが、楢﨑氏はこの中止案件の重要性を強調する。


 「開発を進めるなかで、ダメなものをバッサリ切るというのはシリコンバレー流といえますが、先に進むにはこの“捨てる決断”が非常に大事です。大企業にありがちな“終わりの見えない継続プロジェクト”は、やるべきではありません。それが私の信念です」(楢﨑氏)

人材を育成する場と、新規事業を創出するプラットフォームを設置

 新たなビジネスや技術の創出とともに、SOMPOホールディングスではビジネスとデータサイエンスの両方を理解する人材の育成にも取り組んでいる。2017年には、人材育成の一環として、社外を対象としたデータサイエンティスト特別養成コース「Data Science BOOTCAMP」を開講した。このコースは約3カ月間の集中育成プログラムとなっており、SOMPOホールディングスが保有するビッグデータを利用し、データ分析からデータ活用ビジネスの企画・提案までを実践していく。