未然に防ぐ動きが広がる理由は「技術」と「ニーズ」にあり

 サイバーセキュリティに関しては、リスクの規模や範囲が読みにくい。結果として、同社のように「予防」に取り組む保険会社はこれまでなかった。SOMPOホールディングスとしては他社に先駆けて先陣を切ったわけだが、楢崎氏は保険に関しては、さまざまな分野で「“未然に防ぐ”という方向にシフトしつつある」と感じている。例えば最近では、生命保険の契約者が継続的に運動すると、保険料を割り引く仕組みが登場している。契約者の疾病リスクが低下して健康のまま長期間契約を継続してくれれば、保険会社としては保険料を下げられる。契約者としても、健康になってしかも料金が安くなれば言うことはないわけで、まさにWin-Winの取り組みといえる。


 未然に防ぐ動きが広がりつつある背景について、楢﨑氏は「技術」と「ニーズ」の両面に理由があると考える。技術の側面としては、精度の高いセンサーデバイスの登場が挙げられる。先ほど紹介した生命保険の割引も、センサーを搭載したウェアラブルデバイスにより、運動情報などを取得できるからこそ実現できたからだ。また、多くの製品が出てきたことで、「センサーデバイスに対するユーザーの意識が変わってきたことも重要なポイント」と楢﨑氏は見ている。


 もうひとつの理由はニーズの側面、すなわちユーザーニーズの多様性だ。もともと、保険は統計的な発想で設計されており、これまでに蓄積した膨大なデータからリスクの発生率や必要となる修理費・治療費などの金額を算出、そこから契約者のコスト(=保険料)を割り出していた。画一的なサービスを、すべての人へ当てはめてきたのが、これまでの保険だった。


 しかし、近年は煙草や酒をやらない人や、自動車を週に1日しか乗らないような人が増えるなど生活スタイルは多様化しており、「リスクが違うのに、保険料が同じというのは不公平」と感じるケースは少なくない。保険会社としても、その状況に目をつぶってはいられなくなったというわけだ。契約者のニーズに応えるためにも、「今後の保険商品はさらに、多様性へとシフトしていくでしょう」と楢﨑氏は分析する。

「接点が多いほど幸せになれる」ような保険を目指して

 デジタル変革については、一部の海外の保険会社も推進している。これらの動きを楢﨑氏は当然注視し、参考になるとも考えている。ただ、「他の保険会社をベンチマークにしようとは考えていません」という。その理由は、保険業界全体がデジタル化によって崩壊の危機にあるから。危機的状況下で、同業者同士が争い合っても意味がないというスタンスだ。


 SOMPOホールディングスが目指す今後の方向性について、楢﨑氏は「保険が必要ない世界を作りたい」と声高に語る。「保険会社がそんなことを言うなという話ですが」と笑いつつも、「保険がなくても、安心、安全、健康でみんなが幸せに暮らせる世界を作れれば、SOMPOとしては“勝ち”だと思っています」と、強い覚悟をもってそのビジョンの実現に取り組んでいる。


 このビジョンは妄想や空想のレベルではなく、具体的なイメージもある。例えば自動車保険で見てみると、モビリティ(=自動車)の分野は、自分で所有せずに必要なときだけお金を払って利用する「MaaS(Mobility as a Service)」が増え始めている。この動きが加速すれば、自動車保険が現在の形態のままで残ることはないだろう。同様に、生命保険や医療保険でもデジタルヘルスが浸透しつつあり、「予防医療」「健康増進」の考え方が広まりつつある。御守のような存在である保険にとどまらず、一生幸せで快適な健康ライフを過ごすための継続的なサポートが、これからの保険会社には求められていくはずだと、楢崎氏は考えている。


 このような状況に合わせて、楢﨑氏は「保険」を中心軸に残しつつ、その周辺を「ピボット」するように展開していこうと考えている。そのカギを握るのが「オープンイノベーション」である。前述したデジタルラボやD-STUDIOで社内外の活発な交流を図り、新規事業の共創を目指していく。


 「これまでの保険は、顧客にとって『接点が少ない方が幸せ』というイメージがありました。しかしこれからは、『接点が多いほど幸せになれる』というようにしていきたい。そうなれば、我々としてもハッピーですね」(楢﨑氏)