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Features Business 公開日:2018.09.07

デジタル技術で効率的にスポーツ・トレーニング

少ない時間でも効率的に体力・技術を強化、画像解析、VR、ロボットが活躍

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 アジア大会、オリンピック/パラリンピック、ワールドカップ、世界陸上/世界バレー/世界柔道/世界水泳/世界卓球…。

 どのスポーツも、競技会(試合)は盛んに開催されている。これらの競技会の回数が増えれば、その分、アスリートは練習時間、つまりトレーニング量を減らさざるを得ない。とはいえ、オーバーワークの状態にあるのでない限り、単純にトレーニングの量を減らしては体力や技術、戦術、メンタルの強化が進まない。

 だからこそ、本特集のvol.2、vol.3で紹介したアスリートモニタリング/コンディション管理に基づいた、短時間で効果的なトレーニングと、効率的な体力回復が有効なのだが、その一方で、トレーニングの質を高める手段として、デジタル技術を活用した各種の仕組みが考案され、浸透し始めている。

 対象はプロスポーツだけではない。できるだけ少ない時間で上達したい気持ちはアマチュアスポーツを楽しむ人たちも同じ。そうした人々のトレーニング用としても、デジタル技術を活用した仕組みの採用例が出てきている。

ロボットが伴走し、能力を引き出す

 「誰かと競ってトレーニングに励むとより速く走れる」。こうした観点から、独PUMAは陸上選手の練習をサポートする伴走ロボット「BeatBot(ビートボット)」を開発した。100メートル走の世界記録保持者ウサイン・ボルト選手をサポートすることが目的で、NASAのロボット工学エンジニアやマサチューセッツ工科大学(MIT)の専門家が開発に参加している。
伴走ロボット「BeatBot(ビートボット)」が陸上選手の練習をサポート
 BeatBotは、選手のペース調整や、記録更新のためのトレーニングを目的としたロボットである。スマートフォンでラップタイムを設定するだけで、その通りのスピードで走る。ボックス型のきょう体には赤外線カメラと加速度センサーが埋め込まれていて、地面にひかれたラインを認識して、ラインに沿って自律走行する。本体の前面および背面にはGoProカメラも搭載され、走行中の画像を後で確認することもできる。プーマの専属アスリート用なので、現在のところ市販の予定はないが、将来的に拡大していく可能性はあるだろう。
 ゴールにたどり着くまでの時間を競う、もう一つの代表的なスポーツ、競泳用でもトレーニング用のロボットがある。伴泳ロボット「Swimoid」やヒューマノイドロボット「SWUMANOID(スワマノイド)」などがそれだ。これらは日本で開発されている。

 Swimoidはスイマーと一緒に水中で移動し、ロボット上部にある液晶パネルでリアルタイムに自分の姿を見たり、コーチの指示を受けたりできる。もう一つのSWUMANOIDは、人間の身体の1/2の大きさだが、スイマーの複雑な泳ぎの動作を再現できる。微妙な動作の違いから生まれる推進力の変化を捉えられるわけだ。これを基にして、より速く泳げる動作を解明すれば、理想に近い泳ぎ方として競泳選手にフィードバックできる。選手に直接フィードバックするほかに、高速水着の開発などにも応用されている。
動画によりスイマーの動作を分析
 映像を使って動作を解析するという点では、アシックスがランニングフォームを計測・分析するアプリを提供している。競技用というよりも、健康増進を目的としたランナーを含め幅広い層に向けたものだが、ケガをしにくい適切なランニングフォームを身に付けるのに役立つ。

 スマートフォンなどでこのアプリを使って、走っている様子を横から撮影すると、同社のクラウドで分析してくれる。AIを活用することで、横から撮影した映像だけでランナーの骨格を把握し、そこから姿勢を割り出せる。こうして、ピッチ・ストライドのほか従来は目視で定性的に評価していたフォームの特徴(前傾具合や腕の振りなど)を、定量的にフィードバックする。加えて、フォーム改善のための最適なトレーニング方法も、アプリが推奨するようになっている。
ランニングフォームをスマホアプリで解析。AIを使うことで横方向からの画像だけで骨格を見極め、姿勢の良し悪しを判断する(写真:アシックス)

球技向けでは「ボールトラッキング」技術が威力

 野球やサッカー、テニス、卓球といった球技は、ボールを使う点や、対戦相手がいる点が陸上や水泳とは異なる。そこで球技用では、プレーヤー自身の動きに加え、ボールの動きや相手に対する攻め方などを捉え、それをトレーニングに役立てようという仕組みがある。

 代表例は、本特集のvol.4、vol.5で紹介したソニーのHawk-Eye技術をはじめとするボールトラッキングを利用するものである。複数箇所に設置したビデオカメラで撮影した映像を解析することで、詳細なボールの動きを算出するものだが、撮影の仕方によってはボールの回転数まで把握することができる。スタジアムなど競技会場での審判支援などに利用されるイメージが強いが、トレーニングの際にボールとプレーヤーの動き、履歴を解析すれば、技術力強化に役立つ。
ボールトラッキング技術によりボールの軌道や回転数などを見える化し、トレーニングの参考に
 ネットワーク機器大手のシスコシステムズが2017年12月に国内で実施した「Cisco Spark」のデモでは、卓球の石川佳純選手を招き、トラッキングシステムの利用シーンも見せていた。

 トラッキングシステムは、スポーツのデータ収集や分析、配信を行っているデータスタジアムと、大阪大学発の研究開発型ベンチャーのQoncept(コンセプト)が共同開発したもの。2台のネットワークカメラでプレーを撮影し、機械学習をベースにした画像認識技術で、リアルタイムでボールをトラッキングする仕組みである。これにより、ボールの速度、軌道、スピン、落下点、角度などを分析する。これらのデータを見える化し、適宜参照することで、改善・強化につなげるわけだ(関連記事)。

ボールをIoT対応に、ナマの動きを見える化

 別のアプローチとして、“スマートな”ボールを使う方法もある。一例が、IT(情報技術)企業のアクロディアが開発した「i・Ball Technical Pitch」。ボールの中心部には、「加速度」「地磁気」「角速度」を、それぞれ3軸方向で検知できる(9軸)センサーが内蔵されている。これにより、ボールがどのような軌道を描いたか、どの方向にどの程度の回転数があり、それがどのように変化したかを、細かく記録できる。これに、ピッチング動作のデータを重ね合わせれば、フォームや腕の振り、ボールの握りなどと、ボールの伸びやキレを関連付けられる。

 使い方はわりと単純だ。スマートフォンやタブレットに専用アプリをダウンロードして、Bluetoothでボールとスマホをペアリングすればよい。ペアリングすると、ボールに内蔵されがセンサーが起動し、記録した各種データを自動的にアプリに送信する。

 一方、アシックスも、同様にセンサーを内蔵したボール「PITCH ID」を開発。2018年9月には、同社のベースボール能力測定プログラム「ASICS BASEBALL Lab」に導入するという。
センサーを内蔵した「PITCH ID」を使うと、球速や回転数、軌道などを見える化できる(写真:アシックス)
 ボールではなく、別の道具にセンサーを埋め込んだ例が、ソニーネットワークコミュニケーションズの「Smart Tennis Lesson System」だ。ラケットのグリップエンドに、加速度センサーと角速度センサーを内蔵した「Smart Tennis Sensor」を装着すると、ボールがラケットに当たったときの振動などから、スイングの種別、打点、ボールの速度や回転、ラケットのスイング速度などを算出する。これにビデオカメラで撮影した映像を組み合わせることで、技術強化のトレーニングを効率的に実施できる。このシステムを、スポーツクラブを運営するルネサンスが2017年4月に採用。同社が展開するテニススクールに導入している。

 同様のサービスで、ライザップの「RIZAP GOLF」もある。ゴルフのスコア改善をコミットするサービスで、スイングの様子を撮影したビデオ映像と、センシングしたデータに基づいて、フォームなどの改善を図る。

VRでイメージを「体感」するトレーニングも

 イメージトレーニングを一歩進めた形で、イメージを「体験」「体感」させるという取り組みもある。プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスが2017年に採用した、「プロ野球選手向けトレーニングシステム」がそれで、バーチャルリアリティ(VR、仮想現実)技術を使う。システムを開発したのはNTTデータである。

 基本的にはバッターのトレーニング用で、ヘッドマウントディスプレイを装着すると、ピッチャーの投球を体験できる。ディスプレイには、バッターボックスにいる自分と、相手ピッチャーと野球場の3次元CGが映し出される。ここで、相手ピッチャーが投げるボールを、「バッターの目線で」仮想体験するわけだ。
ヘッドマウントディスプレイを利用して、ピッチャーの投球を仮想体験(写真:NTTデータ)
 実はこの仕組みの背後でも、ボールトラッキング技術が使われている。東北楽天が利用しているのはデンマークのTrackmanが開発したもので、ビデオ映像からボールの位置(3次元座標)、速度、回転速度などの情報を取得できる。このデータを基に、ピッチャーが投げるボールの軌道をCGに重ね、実践に近いイメージを作り出す(関連記事)。

 スポーツのトレーニングでのデジタル技術活用は、5〜6年前には既に一部で始まっていた。現時点では、採用例はまだまだ少ないものの、画像認識/解析、AI、VRなど、技術はいずれも身近なものになりつつある。上記で紹介したそれぞれのソリューションは、もっと様々なスポーツに適用されていくに違いない。

 アシックスやルネサンスのように、アマチュア向けのサービスが登場していることを考えると、アマチュア向けから、トレーニングでのデジタル技術活用が浸透していくといったシナリオもありそうだ。


河井 保博=日経BP総研


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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