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Features Business 公開日:2018.09.21

「身近になるデジタル」で爆発的に増加する起業家

スタートアップ企業なくしてグローバルイベントなし。未来がそこに。

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 消費者向けの商品が集まる「CES」や「IFA」、モバイル業界向け「MWC」といったグローバル展示会が、スタートアップ企業の巻き込みに躍起になっている。CESは「Eureka Park」、MWCは「4YFN(4 Years From Now)」、IFAは「IFA NEXT」という展示コーナーあるいは、本体とは別のブランドを作り、そこに行けば数百~数千社にも上るスタートアップ企業の製品が見られるようにしたのである。
IFAの会場敷地内に設けられた「IFA NEXT」の会場の様子

大きく舵を切って成功したCES

 きっかけの一つはCESの成功である。50年以上の歴史を持つ老舗展示会がスタートアップ企業コーナーを展示会の目玉にし、集客に成功したということで、MWCやIFAも後に続くようになったというわけだ。

 CESでは2012年から展示会場内に「Eureka Park」と呼ぶ一角を設け、大学の研究室の成果や起業間もないスタートアップ企業の製品を展示し、それが世界中の投資家や大企業の事業担当者などから広く注目を集めるようになった。2018年に行われたCES2018では、出展したスタートアップ企業は900社を数え、大手企業が集まる展示棟よりもにぎわいを見せた。
CES会場内に設けられた「Eureka Park」コーナー
 ここ数年は、国単位の競争色も強くなっている。流れを作ったのはフランス。「フレンチテック」という名称を掲げ、消費者向け商品やサービスを持つスタートアップ企業をEureka Parkに多数送り込んできた。2018年実績では、地元米国とほぼ同じ数のスタートアップ企業を出展させたほどの力の入れようである。もともとフランスは、高級アパレルや飲食などの分野において国としてのブランド力があることもあり、来場者からの関心を集める製品が並んだ。
会場で目を引く「フレンチテック」コーナー
 2018年には、オランダのスタートアップ企業がEureka Parkの一角を占めた。展示会初日には、オランダ国王子が会場に現れ、CES主催者代表とともにテープカットに臨むなど、起業支援国としての認知度向上に努めていた。
CESに来場したオランダのコンスタンティン王子
 日本も動きを見せる。2019年には、経済産業省の後押しにより、Eureka Park内に日本のスタートアップ企業が集まる「J-Startup」コーナーが設けられることになった。そこに、独創性や成長性に優れた「特待生」として選抜された企業が送り込む。

「クラウド」の広がりで起業が身近に

 これらの展示会がスタートアップの取り込みに積極的になっているのは、世界的にスタートアップ企業が大量に生まれ、そこから急成長する企業が目立ってきたため。ビジネス界で「スタートアップ企業」そのものの存在感が増してきている。

 スタートアップ企業が数多く生まれることになった背景にあるのは、必要に応じてストレージや演算能力を手に入れられる「クラウドコンピューティング」、事業資金を世界中から調達できる「クラウドファンディング」、電子機器の受託製造を行う「EMS(Electronics Manufacturing Service)」、ネット販売の普及に伴う「世界的な流通網」などの存在だ。大量のサーバーや生産能力、事業資金を個人のレベルでも調達できるようになったことで、今では優れたアイデアとパソコンがあれば容易に創業し、世界市場をターゲットに商品を届けられるようになっている。いわゆる「持たない経営」が可能になっているのだ。

Google、Amazonがデジタル化支援で競演

 IFA2018でも、Google、Amazon.comというネット大手が、新しい製品・サービス開発や起業を後押しする出展を行っていた。

 Googleが出展したのは、IoT(Internet of Things)製品の開発プラットフォーム「Android Things」。Android Thingsの開発ツールは、スマートフォン向けOSのAndroidと共通なので、「Androidスマートフォンのアプリ開発者が、容易にIoT製品を作ることができるようになる」とGoogleは説明する。

 展示会場では、「スケッチブックに描いた落書きを画像認識し、3Dプリンターによって立体物として再現する装置」「天気予報を声で尋ねると、ネットで調べて、読み上げてくれる装置」など、Android Thingsを活用した作品が並んでいた。
スケッチを3Dプリンターで印刷してくれる装置
 一方、Amazonがアピールしていたのが、音声対話サービスの「Alexa」。Alexaは、Amazon自身が端末やサービスを用意しているのに加え、外部のサービス開発者や端末開発者にもプラットフォームが開放されている。ソフトウエア開発キット(SDK)の「Alexa Skill Kit」を使うことで、ネットサービスに音声サービス機能を追加できる。開発用のハードウエアとソフトウエアなどで構成される「Alexa Voice Service」を利用すれば、端末に音声サービス機能を追加することもできる。

 IFA2018の基調講演では、Alexa対応端末が、2017年の4000機種から2万機種に急増したことが報告された。対応機種の増加に伴い、「スキル」と呼ばれるAlexa対応サービスも5万種類に達している。中には、スキルを提供して月額1万ドルを稼いでいる22歳の大学生もいるという。

独自色ある展示会「Slush」「VIVA」

 ここまで紹介したのは、既存イベントの「拡張型」だが、それ以外にも、スタートアップ企業に特化したイベントが数多く登場している。

 日本でも開催されている「Slush」は、フィンランドで2008年に始まった。完全な独立型イベント。コンサート風のライティングや音楽を取り入れた派手な演出でも知られている。
Slush Tokyo2018の様子
 携帯電話メーカー最大手だったノキアが、スマートフォンの登場で衰退するのとほぼ同じ時期に成長した同イベントは、就職先として行き場を失ったエンジニアや学生の受け皿として起業家予備軍の心をつかんだ。同国ではこの数年で起業が盛んになったとされているが、それはSlushのようなイベントを通じてスタートアップ企業に注目が集まった成果、さらにはノキアを買収したマイクロソフトや政府が、起業や転身を支援した成果とも言われている。

 2016年に始まったフランスの「VIVA Technology」は、大手企業とスタートアップ企業をマッチングさせることを主眼に置いた点がユニークである。VIVA Technologyは、一見するとエアバスやLVMH、シスコ、HPといったグローバル企業が顔を揃えた、大企業中心の展示会に見える。しかし、各社の展示コーナーに足を踏み入れると、30~60社ほどのスタートアップ企業が小さなブースを構えて熱心に説明していることが分かる。
VIVA Technology 2018の様子
 例えば、LVMHブースでは、センサーを活用したワインの味覚の可視化ツールやホログラムを使った商品展示、香水試供に特化した顧客管理システムなどが展示されていた。エアバスには、航空機向けの素材や電池といったハードウエアだけでなく、AIやビッグデータを活用したITサービスが数多く出展される、といった具合いである。いずれも大手企業との間で相乗効果を打ち出せる、あるいは既に連携が始まっているとアピールしているのだ。  国内外の多くのイベントに参加するたび、スタートアップ企業のアイデアや技術の豊富さには毎回驚ろかされる。もちろん、すべての取り組みが大きな成功を収めるとは限らないが、スタートアップ企業に支えられた経済システムは、細分化・多様化する消費者のニーズに応えていくという時代の趨勢にかなった仕組みだと感じている。


菊池 隆裕=日経BP総研


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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