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Features Business 公開日:2018.12.25

世界の識者が注目する「社会を一変させるデジタル技術」

世界からDeep Techが集合! Hello Tomorrow Japan Summitから。

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Hello Tomorrow Japan Summitで基調講演に立った孫泰蔵氏
 イベントに参加する楽しみの一つは、自分とは異なる経験や視点を持つ人の考えを直接聞けることだ。新しい知識を得るだけでなく、視野を広げることで、新しい発想を生み出すための糧となる。異なる国や地域出身の人が集まるグローバルイベントであればなおさらである。2018年12月13日に開催されたイベント「Hello Tomorrow Japan Summit」には、社会に大きなインパクトをもたらす科学技術「Deep Tech」に関連する領域で活動する人たちが国内外から集まり、それぞれが大きなインパクトと考えていることや自ら支援している活動を披露した。

孫泰蔵氏が登壇、「ゲームチェンジャー」を紹介

 午前中の基調講演に登壇した1人は、Yahoo! JAPANの立ち上げに参画し、インディゴやガンホー・オンライン・エンターテインメントを創業するなど、シリアルアントレプレナー(連続起業家)として知られる孫泰蔵氏だった。

 「成功の2倍以上の失敗を経験した」と語る同氏は、現在Mistletoeの代表として起業家を支援する側に回り、デザイナーやプランナー、行政経験者など多彩な顔ぶれを集めて活動している。その範囲は日本にとどまらず、米国や東南アジアなどにも及ぶ。

 Hello Tomorrow Japan Summitの基調講演では、Mistletoeが投資する97社のうち2社の活動をDeep Techの代表例として紹介した。

 1社は無人飛行機を開発する米Zipline。同社が開発するのは、一般に認知されているドローンよりも速く飛行できることから、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれる飛行機で、緊急医療用の物流手段として使われる。
Ziplineが開発するUAV(Unmanned Aerial Vehicle)
 Ziplineの無人飛行機には、AIの主要技術である深層学習が採用されている。飛行から得られるデータを収集・学習し、最適なルートを算出するのに使われているという。データが集まれば集まるほど飛行機は賢くなり、飛行ルートの精度が増す仕組みだ。

 Ziplineは既にアフリカのルワンダで緊急輸送システムを運営している。孫氏によると、ルワンダでは戦争で主要なインフラが破壊され、血液や薬を陸路で運ぶのが困難だった。Ziplineの無人飛行機を使うことで、陸路で4時間かかっていた輸送が15分で済ませられるようになった。「事故や病気があったとき、以前なら誰もが生きることを諦めていたが、それが劇的に変化した」(孫氏)。
 もう1社は日本の大学院生の2人が創業したWOTA(旧社名HOTARU)。同社は水の浄化システムを開発することで、世界が直面する水不足問題の解決を目指している。

 WOTAが開発するのは、複数のフィルターを目的に応じて使い分けることによって、水を効率的に循環供給できる「マイクロループ」の仕組みである。家族や地域といった小さな単位で水を循環利用させ、上下水道が不要となる「オフグリッド」を実現する。つまり「ゲームチェンジャー(既存の常識を一変させる存在)」だというわけだ。

 孫氏はWOTAの事業拡大に、Mistletoeが持つコミュニティが大いに寄与しているとした。具体的には、キャンプ場などに大小の浄化装置を設置することで、宿泊人数に応じた水供給を可能にする「モバイルグリッド」の発想が生まれた例を紹介した。
デザイナーらの協力で生まれた「モバイルグリッド」
 スティーブ・ジョブズ氏が大学の卒業生向けスピーチとして語ったとされる「connecting the dots」という言葉を持ち出し、「異なるバックグランドを持った人たちが集まって知恵や経験をつなぎ合わせることで、世の中に大きなインパクトをもたらすことができる」として講演を締めくくった。

超高齢化社会に向け「常識をひっくり返す」

 Hello Tomorrow Japan Summitの午後の講演には、テーマ別に複数のスピーカーが登壇し、それぞれの知見や活動を共有した。

 「健康」あるいは「幸福」とも訳される「Wellbeing」をテーマとしたセッションに登壇した1人が、バイオ領域のアクセラレーター(スタートアップ企業の活動を「加速」する組織)である米IndieBioのパートナーであるJun Axup氏。同氏は、生物学や製薬などの業界はこれまでは「出た釘を打つ」、つまり発病してからの対処に取り組んでいたのに対して、今後は病気を早期に発見できるか、さらには予防できるかにシフトするという見方を示した。
基調講演に立つIndieBioのAxup氏
 これは日本でも「未病」などと言われていることだが、同社はアクセラレーターとして「世界で最高のサイエンティストに投資し、世界を劇的に変えていく」ことを目指している。講演では、同社の投資企業の中から、科学技術をもとに病気の早期発見や予防に取り組む代表的なスタートアップ企業を3領域に分類して紹介した。

 領域の1つは「Food as Medicine」。日本でも「医食同源」という言葉があるが、Axup氏は興味深い最新事例を紹介した。

 代表例として紹介したのが米Filtricine。同社は「栄養素を使ってガンを攻撃する」アプローチをとるという。具体的には、特定のアミノ酸の量を減らすことで通常の細胞は維持したまま、がん細胞の成長を抑え込むことができる。これにより副作用が生じてしまう薬を使わずに治療することが可能になるというわけだ。
アミノ酸の量を減らすことで特定のがん細胞の成長を抑制
 このほかには植物由来の食材を開発する企業NotCoや腸内の状態を測定することで体調を整えようとする企業Sun Genomicsが紹介された。

 2つめの領域は、人間のデータを収集することで病気の早期発見を図る取り組み。この領域の代表は米Girihletである。免疫システムにおいて重要な要素であるT細胞の遺伝子変異を追跡することで病気を初期の段階で突き止めることを目指している。この領域には、スマートトイレを開発する米Clinicaiもあり、排泄物の画像を分析することで大腸がんの早期発見を目指す。
T細胞の遺伝子変異を追跡することで病気を初期段階で特定する
 最後の領域が人体再生だ。米Prellis Biologicsは、高い解像度で臓器を形成する技術を持っている。米Convalesceは、幹細胞を特殊なゲル状物質と混合して脳に移植することでパーキンソン病の症状を軽減できるとする。米OneSkinも、幹細胞を用いて年齢に応じた皮膚を再生できる技術を持つという。
Prellis Biologicsは高い解像度で臓器を形成できる技術を持つ
 Wellbeingをテーマとしたセッションには、政府の要職を歴任し、現在は政策研究大学院大学名誉教授の黒川清氏も登壇した。同氏は「アラブの春」におけるソーシャルメディアの役割、富の極度の集中などさまざまな社会課題を挙げたが、現代社会が抱える大きな課題として認知症に言及した。同氏は、世界認知症諮問委員会の委員を務めている。
基調講演に立つ黒川清氏
 年齢が上がるに連れて認知症を患う人の割合が増えているが、黒川氏によると「認知症を測定する術がない」のだという。予防しようとしても、そもそも認知症の有無や程度をどう測定していいか分からないというのだ。

 同氏も参加する諮問委員会では「2025年までに認知症を治癒、緩和する」ことについて議論を重ねているが、同氏は最近になってこの活動に期待を持つようになったという。同氏は、1961年に米国大統領に就任したJohn F. Kennedy氏が月面着陸プロジェクトを10年以内に実現することを掲げ実現、さらに最近ではヒトゲノムプロジェクトが前倒しで達成されたことを挙げ、大きな目標を掲げる重要性を説いた。その実現においては民間の資金を積極的に取り込むべきだとし、政府の資金をあてにするのではなく民間の競争がとても重要だと語った。「正しいことをやっていれば、投資家は集まってくる」(同氏)。

「自動運転で渋滞は悪化する」

 別のテーマであるMobilityでは、新しい輸送システムを開発する米Next Future Transportationのプレゼンテーションが印象的だった。

 同社CTO(最高技術責任者)のTommaso Gecchelin氏は「交通渋滞を考えたとき、自動運転やEVだけでは十分な解決策にならない」とした。同氏によると「タクシーのコストの70%は運転手によるもの」であり、自動運転が普及すれば運転手のコストがなくなり、運賃が安くなる。そうなると、現在よりももっと多くの人がタクシーを利用するようになって渋滞はもしかするとさらに悪化するだろうというのだ。
「自動運転だけでは渋滞解消に役立たない」と語るGecchelin氏
 そこで同社が開発するのが、新しい形の車両およびその運営システムである。モジュール型の自動運転車両が道路を走り、ユーザーはスマートフォンのアプリで呼び出すことができる。車両は人数や目的地に応じて走行しながら連結・分離していく。連結した車両内は自由に移動でき、ユーザーはアプリの指示に従って車両内で座席を変えることで目的地に連れて行ってもらえる仕組みである。
Next Future Transportationのイメージ
 Gecchelin氏は、1台の車両に多くの人を乗せられることから都市部で威力を発揮するだろうと述べた。同システムは、既にドバイで実機を使ったデモが行われたという。さらに「Door to Aircraft」と呼ぶ構想も披露した。空港ターミナルを経由せず、自宅から飛行機に乗るまでの移動中に搭乗手続きや買い物を車内で済ませられるというものだ。また、自動仕分けロボットを組み合わせることで、宅配物も効率よく自動配送できるとする。

 ここで紹介した事例は、DeepTechのほんの一部にすぎない。Hello Tomorrowの日本サミットの開催もあり、日本国内における科学研究の事業化が今後ますます活性化することが期待できる。次のステップは、日本からも例年以上に多くの組織が参加するHello Tomorrow Global Summit(2019年3月中旬にパリで開催)だ。


菊池 隆裕=日経BP総研


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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