MELTANT-αのイメージ画像(出所:メルティンMMIの紹介ページより)

難なくペットボトルを握り、優しく握り返してくれるハイパー義手

 これらの中で最も先鋭的な例は、ジョン・ホプキンズ大学の研究だろう。同大学の応用物理学研究所はDARPA(国防高等研究計画局)の援助を受けて、非常に高度かつ精密な筋電義手の開発をリード。これまで複数の被験者に筋電義手を提供してきた。


 その1人、ジョニー・マシーニー氏は次世代筋電義手のパイオニアだ。2018年12月、マシーニー氏は担当のアルバート・チー医師とともに来日。「Health 2.0 Asia – Japan 2018」(主催:メドピア)のセッションに参加した。


Health 2.0 Asia – Japan 2018で来日したジョニー・マシーニー氏。

 ジョン・ホプキンズ大学で研鑽を積んだチー医師は現在、オレゴン健康科学大学に在籍している。有能な外科医であり、医用生体工学にも詳しい彼は、長年、マシーニー氏と二人三脚で歩んできた。チー医師によれば、今回の筋電義手は単なる人工装具を超えた「完璧なエンジニアリングソリューション」だという。


 がんによって左下腕を失ったマシーニー氏は、自らの骨にユニットを埋め込み、腕の切断部分を突き抜けて金属棒が飛び出すようにした。そこに高性能な筋電義手を取り付け、生体信号を通じて自分の意思で手を動かす。筋電義手をパソコンやスマホと同じ進化するハードウエアと考え、義手部分を交換可能とし、新しい高性能な義手にアップグレードできるようにした。オレゴン健康科学大学の紹介記事はこれを「永久ドッキングステーション」と評している。


講演するアルバート・チー医師。左のスライドは骨に埋め込まれたユニット、右のスライドは突起のように飛び出た金属棒の装着部分

 チー医師はTMR(Targeted Muscle Reinnervation、標的化筋肉再神経分布)と呼ばれる手法で、脳から義手への信号伝達を実現した。TMRの外科手術を行った後、“心と体”を結ぶリハビリプログラムや、VR(バーチャルリアリティ)を使ったトレーニングを重ねてきた。セッションでは、マシーニー氏によるヘッドマウントディスプレイを使ったVRトレーニングが披露された。


 現在、マシーニー氏は日常生活をある程度こなせるほどまで扱いに習熟している。YouTubeでは器用に義手を使いながらキッチンに立って料理をしたり、庭の手入れをしたりする動画が公開されている。ピアノで“Amazing Grace”を弾くこともできる。壇上のデモを見て最も驚いたのは、ペットボトルを握って水を飲む場面だった。一連の動作にぎこちなさは皆無で、無理なく信号が脳からロボットに伝わっていることを実感させる瞬間だった。


セッション中、難なくペットボトルをつかんで水を飲むマシーニー氏

 講演後、会場を散策するマシーニー氏に声をかけ、握手してもらう機会を得た。触感こそヒンヤリとしたロボットハンドだが、力加減が絶妙できちんと“握手に適した握り具合”になっていることに驚く。マシーニー氏の高度な筋電義手は最先端事例ではあるが、ここで紹介したように世界各地で人間とロボットの生体的な融合が進みつつある。5年後、10年後のさらなる進化が楽しみである。