健康をサポートするデジタル

 現在、食の話題の中でも人々の関心が特に高いのが「健康」についてです。どんな食事が体にいいのか、何を食べれば健康でいられるのかという情報は絶えずテレビや書籍に取り上げられ、反響を呼んでいます。健康的な食生活は、生活習慣病を予防し医療費の抑制につながるため、国の政策においても重要なトピックと言えるでしょう。


 例えば、料理の画像を解析し、栄養バランスの推定に生かす研究は現在非常に注目度が高く、内閣府が開催する人工知能戦略会議でコンテストが開かれるなど、高度な競争がなされています。日々の食事を記録し、栄養の摂取量を把握することは、健康管理や生活習慣病予防に、確かに効果的です。ただ、1日3度ある食事内容を一つひとつ入力したり、栄養価を計算したりするのは手間がかかり、継続のハードルが非常に高いのが難点です。これを、食前に画像を一枚撮影するだけで食事の内容を自動で推定し、栄養価を計算し、記録できるようになれば、誰でも気軽に栄養管理を行うことができます。


 栄養の管理を簡単にするだけでなく、一人ひとりにフィットした栄養情報を提供できる仕組みも研究されています。「健康情報をオーダーメイドで」で紹介した「N式パーソナル食事摂取基準」は、体の状態や体質、生活習慣の違いに合わせ、適切な栄養摂取量を計算するツールです。現時点でできるのは望ましい摂取量を計算するところまでですが、今後、それに合わせた献立の自動提案までできるよう試行錯誤が行われているところです。


 アスリートや入院患者などを除けば、自分の普段の食生活について、人から栄養指導や管理を受ける機会がないという人がほとんどでしょう。また、健康的な食生活を心がけたいと思っていても、毎日のことなので、あまり手間やお金はかけられませんし、栄養に関する正しい知識を誰もが身につけている訳でもありません。デジタル技術によって、知識がなくても、誰でも気軽に健康的な食事を送れるようサポートしてくれるツールが発達すれば、より多くの人が健康的な食生活を手に入れ、健康寿命の延伸につながるのではないでしょうか。

食を共有するデジタル

 「食べる」という行動には、生きるために必要な栄養素を補給する(栄養機能・一次機能)、おいしさによって精神的な充足を得る(嗜好機能・二次機能)、生体リズムの調節や疾患を予防する(生理機能・三次機能)など、様々な役割があります。そして、近年ではこれらに加え4つ目の機能として「コミュニケーション機能」があると言われ関心が高まっています。


 日本の食卓が抱える問題の一つに「孤食」があります。本人が望んでそうしている場合は他人がとやかく言う必要もないのですが、中には、誰かと会話しながら食事を摂りたいと思っているものの、それができないという人もいます。そんな人たちに対して、同じ空間で食事を摂ることは難しくても、オンライン上でコミュニケーションをとることで「共食」できるようにしようという試みがあります。「未来の食を演出しよう」で紹介した研究では、テレビ電話などを使ってオンラインで通話しながら食事をする際に、どうすればコミュニケーションを活性化させられるのか、食べ物はコミュニケーションの活性化にどう影響を与えているのか、といったことを調査・検討しています。


 食が果たすコミュニケーション機能は、食事を摂る瞬間だけではありません。食べた料理の写真や感想を共有したり、レシピを人に教えたりすることもまた、食によるコミュニケーションの一つで、InstagramなどのSNSや、食べログ、Rettyなどのレビューサイト、クックパッドなどのレシピ投稿サイトがこれを促進しています。一人で食事を摂っているように見えても、スマートフォンを通して誰かとつながっているのであれば、それもまた共食の一つと言えるのかもしれません。


 これらのWebサービスが食のあり方を変化させる現象もしばしば見られます。レシピ投稿サイトが流行すると「とろとろ」「ふわふわ」などのオノマトペをつけるなど、より多くのアクセスを得るためのレシピ名が一般化し、中には、全くとろとろしていないのに「とろとろ〇〇」と名付けられたレシピなども見られました。Instagramがブームになると、見た目にインパクトがあり写真映えする、いわゆる「フォトジェニック」な食べ物に注目が集まりました。2017年の流行語大賞に「インスタ映え」が選ばれているのも象徴的です。


 さらに2018年は、SNSに写真ではなく動画を投稿する人が増え、「ムービージェニック」、つまり動画“映え”する料理が人気を集めるようになりました。切ると中身が溢れ出す料理、ソースをかけると形が変わるスイーツなど、動きや変化を楽しめるというのがポイントです。クラシルなどのレシピ動画サービスも人気で、チーズがとろーり伸びる様子がムービージェニックなためか、とろけるチーズを使ったレシピを見かける機会が多くなりました。


 食を、画面の向こう側にいる人たちと共有するという文化は、一緒に食卓を囲むという従来の文化とは大きく異なります。このため、時には周囲との軋轢を生むこともあります。私ももう感性が若くないのか、やたらとチーズを使いがちなレシピ動画や、写真や動画への“映え”が重視され過ぎる傾向に、もやっとすることがあります。しかし一方で、新しい食文化に対応し創意工夫する中で、これまでになかった料理が生まれ、食の楽しみ方が拡張されていくと考えると、非常に楽しみです。ムービージェニックの次は何が来るのか、感性を若返らせて2019年に臨みたいものです。


著者:平松 紘実

科学する料理研究家。食・科学ライター。科学をわかりやすく楽しく伝えたいと考え、大学在学中に、料理のコツを科学で解説するブログを始める。2011年よりライター、科学する料理研究家として本格的に活動を開始。2013年には初のレシピ本『「おいしい」を科学して、レシピにしました。」を刊行。


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