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Features Business 公開日:2018.12.28

中国におけるトレンドから見る「2018年のデジタル」

自動精算、キャッシュレス、ネットデリバリー……。急ピッチで進む中国のデジタル社会変革。

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中国のスーパーマーケット(写真は「小象生鮮」)。小売りにデジタル技術を取り入れた「ニューリテール」の代表例で、競争が活発化している。
 2018年の中国デジタル変革と言ったら何だろう。変化が激しいといわれる中国。近年はインターネットテクノロジーが変化の根幹となっている。以前は特に人が集まるショッピングモールで生活環境が変化を感じたが、ネット空間に変わっていったように感じる。

 2017年まではネット業界は元気だったが、ofoをはじめとしたシェアサイクルビジネスの限界が見えたこと、オンラインゲームの新規ライセンス許諾が停止されたこと、ネット起業株価の下落や雇用の停止、リストラ、それにスマートフォンメーカーの「金立(Gionee)」や「Smartisan」が経営に行き詰まるなど、暗い話題が目立った。一方で、まだまだ元気だと感じるニュースも多数あった。多数のニュースがある中で、特に今年目立った、いい意味で変わったことを中心に書いていきたい。

新零售(ニューリテール)普及年、フーマ鮮生がけん引

 2018年の中国のインターネットを象徴するのが「新零售(ニューリテール)」だろう。ニューリテールとは「オンラインとオフラインと物流を融合した新しい小売り」であり、阿里巴巴(アリババ)が提案した。

 ニューリテールの代名詞であるアリババの「盒馬鮮生(フーマ鮮生)」は2016年の1店舗目のオープン以来、2017年も2018年も店舗を中国各地にオープンさせているので、2018年に登場した新しいモノやコトではない。とはいえ、フーマ鮮生が中国各地に展開され、フーマ鮮生のビジネスモデルを真似たサービスが多数出てきたことから、2018年はニューリテールが中国全土の都市部で普及し始めた年といえるだろう。

 スーパーマーケット「フーマ鮮生」の特徴は3点。「配達範囲内における30分以内の配達」「いけすの魚や蟹を購入してその場で調理して食べられる」「スマートフォンで商品詳細を見たり自動精算レジでキャッシュレスで支払える」という点だ。実際は配達面については公称の「30分以内の配達」を実現していないようだが…。

 アリババのフーマ鮮生の影響は大きかった。騰訊(テンセント)や京東(JD)や美団(メイチュアン)などのネット大手が、フーマ鮮生を模倣した「スマートフォンによるセルフキャッシュレス決済+フードコート+新鮮な魚の調理+迅速配送」のスーパーをリリースした。フーマ鮮生を模倣したスーパーのうち、テンセントが2017年末に投資した企業「永輝」による超級物種というスーパーが北京、深セン、広州、福州などに61店舗を展開、JDのスーパー「7FRESH」は北京や西安で10数店開店、メイチュアンは「小象生鮮」というスーパーをオープンした。またテンセントが資金投入するカルフールやウォルマートでも一部店舗をフーマ鮮生に対抗してリニューアルした。「その場で買った食材を調理して食べられる」としたうえに、「スマホのセルフ決済で完了する」といった仕掛けをしたのである。

 いずれのニューリテールのスーパーも、買い物をしながら料理を楽しく食べられる家族連れ向けの店舗となっている。「超級物種」については、ステーキ肉を購入するとその場で調理するというサービスを行っている。肉を選んで購入後、その場で焼いてもらうサービスだ。こうした魚以外の食材を扱うかどうかも、この手のスーパーの今後の検討課題であろう。

モールのテナントにもニューリテール系の店舗が急増

 ニューリテールの店はほかにも多数オープンしている。アリババの城下町である浙江省杭州にオープンしたショッピングモール「親橙里(Qinchengli)」には、前述のスーパー「フーマ鮮生」のほか、アリババのスマートスピーカー「天猫精霊(TmallGenie)」のアンテナショップや、モデルルームのような場所で様々なスマートホーム製品を展示販売する「智慧人居生活館(zhihuirenjushenghuoguan)」、デザインを意識した雑貨屋の「淘宝心選(taobaoxinxuan)」、デジタル製品ショップ「宏図Brookstone」など、スマートライフを意識した店舗が入っている。とがったスマート製品を多く扱っていて、かつ各商品に設置されている電子ペーパーの価格タグに表示されたQRコードをスキャンすると、商品の詳細情報がわかるというものだ。

 ニューリテール的な要素のあるテナントを入れているのは、親橙里ばかりではない。既存の中国各地の一部モールにもニューリテール的なテナントが入りつつある。例えば鏡のようなタッチパネルモニターとカメラ内蔵のスマートデバイスを活用したアパレルショップや化粧品ショップが挙げられる。自分自身が映った鏡にタッチして、選んだ口紅や服を選んだらどうなるかをAR(拡張現実)で表示して、気に入れば店員にお願いしてその商品を購入するというものである。

 ニューリテールの一側面として、モールなどのリアルショップに客を戻す仕掛けがある。2018年の同社云栖大会(アリババとサードパーティーが成果物を発表する大会)の会場には、ニューリテールに関する展示があり、まだまだニューリテールが続きそうに感じられる。
 ニューリテールでネットに依存する人々をリアルショップに呼び戻そうという動きがある一方で、一層ネットに依存し、「ここ半年スーパーに行っていない」という人々も出てきている。スーパーやコンビニや個人商店から商品を配達するネットデリバリーが台頭してきたためである。ネットデリバリーサービスで知られているのが、「多点」や「美団外売」や「京東到家」や「蘇寧易購」といったサービスだ(ちなみに食堂やレストランの食事を運ぶフードデリバリーとは別であるが、例えば上海市で18万店がフードデリバリーに対応するのを筆頭に、内陸省の小都市にまでサービスが展開しているなど、これもまた大変普及している)。(写真はニューリテールの一例。リアルショップで仮想の自分自身に服を着せていく)
 さらに口コミやクーポンで知られる「美団点評」は、「美団外売」だけでなく、速達性を重視したサービス「美団閃購」を2018年7月に発表した。中国全土で対象店舗から対象地域限定でという条件はつくが、24時間対応で30分以内に提携店舗の商品を配達する。「30分以内の配達」をうたっているが、フーマ鮮生の影響を大いに受けているといえる。

レストランが無人化

 別のニューリテールの一側面としては、店舗の無人化が挙げられる。アリババの大会においては無人店舗のコンセプトショップは出しているものの、中国全土の各都市に数店舗程度登場したガラス張りの無人コンビニは見た目は派手ながら利用者が少なく、普及しないままフェードアウトした。一方、中国全土で数店舗レベルではあるが、レストランの無人スマート化が登場している。代表例が、広東省広州と深センの無人コンビニ「F5未来商店」や、浙江省杭州の厨房は有人のレストラン「五芳斉」や、北京の有人ベーカリーショップ「味多美」だ。
無人コンビニは話題にはなったものの・・・
 「F5未来商店」は食品を購入すると、温めた状態で出してくれる大きな規模の自動販売機。見せ方に特徴があるほか、飲食スペースのテーブルにギミックがあり、テーブルに備え付けられているボタンを押すと、テーブル上のあらゆるものをテーブル下のゴミ入れスペースに落とすようになっている。「五芳斉」や「味多美」は、スマートフォンで注文すると、調理された料理が、タッチパネル内蔵のスマートロッカーに収められる。利用者は、スマートフォンで料理到着の通知を受けた後、タッチパネル操作で解錠し食事を取り出す。見た目は派手だが、派手ゆえにコストが日本のセルフ食堂よりもかかる。まだまだ実験段階であるといえよう。

信用スコアが続々登場。レンタルサービスへ拡大

 信用スコアに関する動きも、中国におけるデジタル変革の一部と言っていいだろう。

 クレジットカードが普及していない中国において、お金の立て替えは社会の課題の一つである。この代替として、立て替えても大丈夫かを判断するために存在するのが信用スコアだ。ちなみに、ニュースでしばしば報じられる「信用がなくなる行為を行うと乗り物に乗れなくなる」などといった政府の「社会信用システム」とは別物であるのでご注意を。その信用スコアが新たに登場し、また使い道の幅が広がった。
 アリババ系の金融サービス企業のアントフィナンシャルが提供する「芝麻信用」は、信用スコアの代名詞的なものとして知られている。アントフィナンシャルの電子マネーサービス「支付宝(アリペイ)」の中の1サービスに芝麻信用があり、アリペイを利用し始めれば芝麻信用スコアも変化する。実名登録や学歴や居住データを登録すればスコアが一気に上がり、信用スコアを使って借りたモノを返さないとスコアは大きく下がるというものだ。中国人が個人情報を登録すれば、信用スコアを活用したお得なサービスを利用できるようになる(外国人は登録できる個人情報が限られる)。例えば自転車を借りるシェアサイクルや、モバイルバッテリーを借りるシェアバッテリー、それにシェアサイクルの要領で車を借りるシェアカーが、本来はデポジットを利用前に払わなければならないところをデポジット不要で借りられるようになる。(写真は信用スコアを使える自動レンタル機)

芝麻信用以外の信用スコアが次々に

 さて2018年には家電大手「蘇寧易購」の「蘇寧信用」という新たな信用スコアが登場した。またEC大手「京東(JD)」も「小白信用」に本腰を入れ始めた。特に芝麻信用と小白信用は、シェアサービスだけではなく、スマートフォンをはじめとした電子商品、おもちゃ、アパレル製品などのレンタルに利用でき、様々な製品をデポジットなしで試せるようになる。シェアサイクルのように、製品を使った時間分だけ費用を払うことができるため、新しい製品を利用するハードルを下げる。

 例えば子供がレンタルしたおもちゃに飽きたら交換できるし、連日のパーティーで服を多数用意しなければいけないときに服を一時的にレンタルすることもできる。買うと5万円以上するため手を出しづらいドローンやVR(バーチャルリアリティ)ゴーグルも、レンタルならば気軽に試すことができる。ゲーム機やゲームソフトもあり、レンタルビデオのように気軽にゲームタイトルを選んで遊ぶことができる。メーカーや業界としてもまずは触ってもらえることはプラスになるはずだ。

ECサイトでの買い物やレンタル、中古品の買い取りに

 芝麻信用はアリババのECサイトである天猫など、小白信用はECサイトのJDや一部都市に導入されているレンタル商品の自動貸出機で、利用できる。ECサイトでの操作は、商品を購入する場合と変わらない。途中で信用スコアを確認され、それが既定のスコア以上であれば、デポジット不要で送料と利用時間分のレンタル料金だけを支払えばレンタルできる。BtoBサービスでも、医療環境の改善を目指し、芝麻信用スコアの高い薬局に対して医療機器を貸し出すサービスが始まっている。

 レンタルと似て非なる信用スコアの活用として、中古商品の買い取りもある。スマートフォンやデジタル製品を買い取るサービスで、芝麻信用の信用スコアが一定以上の点数であれば、買い取り商品を登録して申し込むと、すぐに買い取り金額が振り込まれる。製品の到着や製品の状況を確認していない状況だが、信用があるということで、すぐに振り込まれるわけだ。これにより、スマートフォンの買い取り申し込みで振り込まれた買い取り金額を元手として別のスマートフォンを購入し、データを移行したうえで、買い取ってもらう商品を配送することが可能となる。

 デポジットを信用スコアで代用するレンタルサービスと、信用スコアを担保に買い取り金額を先払いする中古買取サービス。これらの中心となるアントフィナンシャルは、ほかにもフィンテック関係で意欲的なサービスを開始した。アリペイが提供する保険商品「相互保」だ。保険加入者が重大な疾患にかかって治療を受けた際に、その支払いに関して他の加入者と助け合うというサービス型保険商品である。治療にかかった領収書や書類を公開すると、その内容を了解した加入者が一人当たりごく少額のお金を支払うというものだ。このサービスを利用するには、信用スコアが一定点数以上で、60歳未満、かつ健康であるという条件を満たす必要がある。保険の原点に返ったこの商品に、多くのネットユーザーが関心を持ち、加入した。こうしたアリペイの金融商品に対しては、これまでにもテンセントやJDが似た商品を出してきた。このことから考えると、テンセントやJDがアリペイに追随して相互保のようなサービスを始め、競争が起こる可能性はある。

ショートムービー投稿型SNSが発展、そしてECに融合へ

 アリババ以外ではバイトダンスのショートムービー(中国語で「短視頻」)投稿型SNS「抖音(中国版TikTok。読み方はドウイン)」の躍進が目立った年だった。2017年はTikTokほか様々なサービスが人気で、TikTokはそれほど人気ではなかったが、中国各地での自分の街推しキャンペーンや、店舗広告で使えるサービス、ないしは店舗提携で「映え」をアピールできるサービスと認知させて、2018年に広まった。

 3月にはアリババと提携し、淘宝網のページに、TikTokに投稿されたショートムービーコンテンツから飛べるようになった。これによりインフルエンサー(中国語で「網紅」)がショートムービーで商品を紹介し、誘導できるようになった。アリババはTikTokと提携しつつ、同サービスのアプリ「鹿刻(ルック)」をリリース。こちらも淘宝網の商品ページへ跳ぶことができる。一方、ライバルのテンセントも「微視(WeShow)」というアプリをリリース。こちらは微信(WeChat)と親和性の高いショートムービー投稿型アプリだ。百度も同種のサービスのリリースに意欲を出す。

 TikTokがリードする市場に、アリババが鹿刻で、テンセントは微視でそれぞれ参入した。来年はアリババとテンセントは自社プラットフォームを活用しながら利用者のすそ野を広げていくはずだ。これまでは文字(テキスト)で交流していたサービスだけだったのが、ショートムービーを投稿して交流するサービスが続々と登場するだろう。

国の力が強まったインターネット業界、2019年はどうなる

 振り返ってみれば、中国ネット2大企業であるアリババとテンセント(中国では両者の頭文字をとって「AT」という)が、中国のデジタル変革をけん引した年であった。

 とはいえアリババのCEOの馬雲(ジャック・マー)氏は2018年「2019年内にCEOを辞任」を発表するとともに、「共産党員であることをカミングアウト」した。その前から中国でのネット産業の重要なイベントでキーノートスピーチを行っているが、これが個人の考えではなく、政府の影響が入った代言であると読めるようになった。マー氏のカリスマ性が低下した、ともいえる。そんなマー氏は「ネット産業にやみくもに投資する時代は終わった」と発言している。マー氏の考えかもしれないし、政府がマー氏を通じて投資を抑制しようとしているとも考えられる。
アリババグループのジャック・マー会長
 また2018年は政府はゲームのライセンス発行のための審査を厳格化し、その後いったん停止となり、テンセントなどゲーム関連企業に大きな影響を与えた。特にゲームは消費者がお金を落としていくジャンルなので、ゲームのライセンスが発行されなければ死活問題となる。

 これまで、中国政府の存在がこれほどブレーキ役として目立った年はないだろう。結果的に中国政府がネット産業に介入して、いったんブレーキをかけたような年だった。あるいは、マー氏がキーノートスピーチでIoTやVR、工業用インターネットの重要性を熱弁していたあたりからすると、アリババを柱として、中国製造2025に向けた新技術の普及を図っていくことも考えられる。
著者:山谷剛史
1976年生まれ、東京都出身。2002年より雲南省を拠点に中国やアジア地域のITやトレンドなどについて日本のIT系メディアを中心に執筆する。また企業向け中国調査レポートやアテンドも行う。著書に『中国のインターネット史』(星海社)、『新しい中国人』(ソフトバンククリエイティブ)など。



本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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