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Features Business 公開日:2019.01.29

自動車の上下分離で、移動が楽しく豊かに

車は、駆動部と客室部を別メーカーが作り、合体させる時代になる?

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 移動を司る駆動部と、サービスを提供する多様な種類の客室部/貨物部。これらを組み合わせて目的にあったクルマを提供する。2019年1月7日~10日に、米国ラスベガスで開催されたコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会「CES2019」では、自動運転時代を見据え、そんなコンセプトを掲げる展示が複数見られた。

 パナソニックが展示したのは、上下分離型のコンセプト小型モビリティ「SPACe_C」。全長3.85m、幅1.68m、高さ1.95mで、本体重量は1.4tである。上部は着脱式になっており、旅客用や貨物用など、用途に応じて変更できる構造となっている。下部は、スペイン語の亀(Tortuga)から「e-Torta」と命名した。この下部は、同社が開発した小型EV向け駆動系プラットフォーム「48V ePowertrain」をベースとしたもので、車載充電器、電力を分配するジャンクションボックス、インバーター、DC-DCコンバーターなどを搭載する。日本で運用する場合は、最高時速が20km/h未満での走行する車両として、まずは小さなコミュニティで運用することを狙う。この速度であれば、シートベルトなどの保安基準が緩和されるためだ。
パナソニックが展示した「SPACe_C」。下部の駆動部は「e_Torta」と呼ぶ。
 展示では、外部のサイネージと内部ディスプレーを変化させて送迎用マイクロバスと、健康診断カーを入れ替えられることを示すとともに、野菜などの食品の移動販売をするフードキャビン「SPACe_C eMart」を披露した。SPACe_C eMartは、自動運転で広場などに移動し、物販を行う。

 日経新聞の報道によれば、自動車メーカーや自治体などに提案し、早ければ2021年度のサービス実用化を目指すという。
SPACe_C eMart 。e_Tortaの上に冷蔵室を置き、野菜や果物の物販を行う。
パナソニックが見せたプレゼンテーション。利用シーンに合わせて上部がどんどん交換できる。

帝人が支援するオーストラリアベンチャー

 オーストラリアのベンチャー企業、AEV Robotics社も、同じく上下分離構造を持つ車両 を展示した。4つのインホイールモーターで駆動し、ワイヤレス給電で充電する。同社が力を入れるのは駆動を担当する下部の「Robotic Base」である。上部の「Functional Pods」は幅広いサードパーティが作れるように、接続インタフェースを規定する。
AEV Roboticsの「Robotic Base」。駆動系をすべて収めた。
 上下分離構造を提供する狙いを、「下部を共通化することで、最大時速40km程度で動く、多様な形態の移動体を低コストに製造できるようにすること」(同社CEOのJulian Broadbent氏)だと説明する。今後いっそう都市化が進み、自動運転が実現することで、人の輸送を行うだけでない様々なサービスを提供する移動体が必要になるという読みだ。
コンパクトカータイプの外装モデル。下部にRobotic Baseを持つ。(出所:AEV Robotics)
 「2019年に開発者に(Functional PodからRobotic Baseを操作できるようにする)プログラマブルなインタフェースを提供し、Functional Podsの開発を促す。2021年に量産する計画を立てている。価格は(上部も加えた)トータルで現行の電気自動車の半額ぐらいにしたい」(Broadbent氏)。米Nvidiaとも提携しており、同社の技術を使って自動運転機能も実装していく計画である。帝人も開発に協力しており、車両の樹脂化を支援しているという。
医療サービス用のFunctional Podが付いたタイプ。(出所:AEV Robotics)

用途は多様、消耗品である足回りを独立させ共通化

 CES会場にこそブースを構えてはいなかったが、スイスのベンチャー企業、Rinspeed社も、CES会期中、会場近くのホテルで、上下分離型の2人乗りサイズの超小型EV「microSNAP」のコンセプトモデルを展示した。Rinspeedは、2018年1月に開催されたCES2018に合わせて同じく上下分離モデルで4人乗りサイズの小型モビリティ「SNAP」を発表しており、microSNAPはこの小型版に当たる。
CES会場に展示された「microSNAP」のPod。2人乗りのモデル。開発協力ソフトウエア開発企業のLuxoftが展示した。Rinspeedのブースは、CES会場内にはなく、会場近くのホテルで展示を行っていた。
CES会場に展示された「microSNAP」のSkateboard。
 microSNAPおよびSNAPは、消耗や陳腐化の早い駆動とITシステムの部分を収めた「Skateboards」と、消耗や陳腐化が遅い車体を収めた「Pods」で構成する。Skateboardsが下部、Podsが上部である。消耗の早いSkateboardsだけを数年で入れ替えることができるため、車両維持の低コスト化が可能だという。
Podを交換しているところ。(出所:Rinspeed)
 SNAPからスケールダウンしたmicroSNAPというモデルを考えたのは、「ユーザーは注文後すぐに届けてくれるサービスや、目的の場所に直接送迎してくれるサービスを期待しており、乗り合いで複数箇所を経由するようなサービスは望んでいない」(Rinspeedのニュースリリース)ことが分かったため。車両を小型化することで、人も荷物も、なるべく小分けにして運び、こうしたユーザーニーズに応える。

野良犬、野良ネコ、野良グルマ

 こうした展示に交じって、一風変わった展示をしていたのがヤマハ発動機だ。出展したのは「Public Personal Mobility」という上下分離型のEVコンセプト車を。このうちヤマハは駆動部のみを提供する。この駆動部は、同社が以前から販売しているゴルフカートをベースとしたもの。この上に、ホームセンターで売っているようなパーツでユーザーやカーショップに自由に上部を作ってもらう。「細かな仕様は決めず、地域のニーズに合った車にしてもらうコンセプト」(説明員)である。最高時速20㎞/h未満なので、保安基準が低い。
ヤマハ発動機の「Public Personal Mobility」。ベンチになっているところ。
ベンチを広げて荷台にしたところ。
 CES会場では、荷台に変形できるベンチシートを備えた例を展示した。「朝、農家の方を畑に運んでいき、その戻りに荷台に朝取り野菜を載せて市場に運ぶ。昼は、温かいお弁当を畑の農家の方に配って回り、クルマに座って食事をしてもらう。そんな使い方を想定した」(説明員)。
ヤマハが示した利用イメージ。朝昼晩で利用用途を変える。
 説明員によると、究極的には、“野良クルマ”のような世界観を目指しているという。「誰の持ち物でもなく、コミュニティの路上をウロウロしていて、手を振ると近寄ってきて、荷物や人を運んでくれたりする。電力が足らないときには路肩に止まって、太陽光パネルで充電していたりする」というものだ。

産業構造の変革も

 今後、こうした上下分離のクルマが普及するかはわからないが、普及した未来を想像すると、いろいろなシーンへの応用が浮かんでくる。例えば、移動する美容院、移動するカラオケボックス、移動するマッサージ屋、移動する化粧室移動する学習スペース…。移動時間という隙間時間を、今までよりももっと有効に活用できるようになるだろう。

 当然、上下分離により産業構造が転換する。まず、製造においては、下部は自動車メーカーが作り続けるかもしれないが、上部は住宅関連メーカーや家具メーカーなど、別の業態の企業に移っていく可能性が高い。また所有の形態も、下部はシェアモデル、上部はサービス事業者が購入するといったこともあり得る。


中道 理=日経BP総研


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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