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Features The Dawn of DX ── デジタル変革が導く未来 公開日:2022.08.18

働き方改革による残業時間の上限はどうなる? 課題や対策を解説

 2019年に施行した働き方改革関連法案の影響で、残業規制が以前よりも厳しくなった。残業に関する規制は36協定として元から存在していたが、36協定の上にさらに規制が乗っかる形になり、残業が多い職場や業種などには大きな影響が出たことは記憶に新しい。  本記事では、働き方改革で残業についての規制がどのように変わったのかあらためて解説した上で、働き方改革を成功させて、残業を大きく減らした企業の事例や、残業をしたい場合の抜け道など、働き方改革がもたらした影響について網羅的に解説したい。

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【画像】Shutterstock
 2019年に施行した働き方改革関連法案の影響で、残業規制が以前よりも厳しくなった。残業に関する規制は36協定として元から存在していたが、36協定の上にさらに規制が乗っかる形になり、残業が多い職場や業種などには大きな影響が出たことは記憶に新しい。

 本記事では、働き方改革で残業についての規制がどのように変わったのかあらためて解説した上で、働き方改革を成功させて、残業を大きく減らした企業の事例や、残業をしたい場合の抜け道など、働き方改革がもたらした影響について網羅的に解説したい。

働き方改革とは何か?

 そもそも働き方改革とは、働く個人それぞれのライフスタイルに合った多様な働き方ができるようにするための改革。政府が推し進め、働き方改革関連法案の成立によって改革が具現化されていった。

 働き方改革には具体的に、以下のようなテーマがある。

・非正規雇用の処遇改善
・賃金引き上げ・労働生産性向上
・長時間労働の是正
・転職・再就職支援
・柔軟な働き方
・高齢者の就業促進
・子育て・介護と仕事の両立
・外国人材受け入れ
・女性・若者の活躍

 それぞれのテーマ実現に向けて、働き方改革は推し進められてきた。

法定労働時間を超えての労働は36協定の締結が必要

 1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えた時間分の労働を時間外労働と呼ぶ。雇用主が労働者に時間外労働をさせるには、雇用主と労働者の間で36(サブロク)協定を結ばなければならない。36協定は書面によって締結され、労働基準監督署に届け出られることで効力を持つ。

時間外労働時間の上限規制が制定された

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 働き方改革以前にも、残業に関する規制は36協定として存在していた。36協定には、1ケ月間の残業時間は45時間、1年間の残業時間は360時間までに抑える、という原則が規定されている。しかし、その規定は厳密なものではなかったため、特定の月だけ残業時間が多くなってしまうケースもよく散見されていた。

 ところが、働き方改革関連法案が成立したことによって残業時間の上限規制が厳格化され、以前よりも残業がしづらくなった。具体的には、月間100時間を超える残業は繁忙期であったとしても、できなくなった。また、36協定で定められている月45時間以下の残業時間という原則を超えられるのは、年間で6ケ月まで、複数月の平均残業時間は80時間以内までに収めなければならなくなったのだ。

時間外労働時間の上限規制を設けた背景

 働き方改革以前は法律による時間外労働時間の上限規制は存在していなかった。それゆえに事実上、36協定は有名無実化され、労働者に延々と時間外労働をさせている企業もあった。しかし、一部の企業の中から、メンタルヘルス不調で鬱になってしまう労働者や、自殺してしまう労働者が続出していた。

 そうした状況を鑑み、時間外労働時間を厳密に制限して労働環境を改善しようという意図で、時間外労働時間の上限規制が設けられたのだ。

改正前と改正後の変更点

 改正前は月45時間、年360時間以内に時間外労働時間を抑えるように求められていたが、違反しても行政指導されるだけだった。改正後は、2ケ月〜6ケ月までの複数月平均の時間外労働時間が80時間以内、年720時間以内、月100時間未満にそれぞれ時間外労働時間を収めなければならない。さらに、年間6ケ月を超えて月45時間を超える時間外労働もさせてはならない。これらに違反すれば、6ケ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。

一部の業種においては条件規制が猶予・除外されるものもある

 ただし、時間外労働時間の上限規制が猶予・除外される事業・業種もある。猶予される業種・事業は「自動車の運転業務」、「医師」、「建設事業」等。除外される業種・事業は「新商品や新技術等の研究開発業務」等である。

36協定とは何か?

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 本項では、36協定の概要を説明する。

36協定の上限残業時間

 36協定では、1日8時間、1週間40時間を法定労働時間と規定している。それ以上の時間外労働を雇用主が労働者にさせたい場合に、36協定を締結しなければならない、としている。時間外労働時間の上限は月45時間、年360時間である。

特別条項付き36協定が必要になる業種もある

 特別条項付き36協定を締結した場合には、月45時間、年360時間を超えた時間外労働が可能になる。年間720時間、複数月平均80時間、月100時間の上限時間は特別条項付き36協定に締結しなければ適用されない。繁忙期に時間外労働が極端に増える業種などでは、特別条項付き36協定を利用しなければならないケースもあるだろう。 

残業代はどのように算出されるの?

残業代の算出方法

 残業代の算出方法を解説したい。残業をすると1時間あたり25%の割増賃金となる。つまり、残業代を求める算式は「残業時間数 × 時給 × 1.25」で表現される。

 午後10時〜翌午前5時までの労働は深夜労働にあたり、割増率は50%となる。そのため、深夜(午後10時〜翌午前5時)の残業代を求める算式は「残業時間数 × 時給 × 1.5」で表現される。

 休日労働の場合の割増率は35%。そのため、休日労働の残業代を求める算式は「残業時間数 × 時給 × 1.35」で表現される。

残業規制における注意点

 残業規制における注意点を解説する。

残業規制を守らないで実際に書類送検になる事例は増えてきている

 残業規制を守らないでいても大丈夫、と高をくくっていると危ない。実際にコンサルティング業界などでは検挙される事例も出てきている。そのため、実態として残業時間を減らすのが難しいとしても、最善の努力を尽くすべきだ。

現場の無申告に注意

 経営トップ層が残業を減らすことにコミットしていたとしても、現場のマネージャー陣営がコミットしていないようでは残業は減らない。現場にもしっかりと監視の目を行き渡らせる必要がある。

残業削減に成功した企業例

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 働き方改革で過度の残業禁止が浸透した企業の事例について様々な業界から紹介したい。

花王

 大手消費財メーカーの花王は、2021年9月、花王は新しい取り組みとして「休み休みWork Style」と称する対策を打ち出した。コロナ禍を経て自宅からのリモートワークが中心になったことで、逆に休みを取れなくなったことを背景に、しっかりと社員に休んでもらうための施策だ。

 具体的には、在宅勤務中でも5分〜10分程度の休息を取れるような「リフレッシュタイム」の活用や、会議予定を5分〜10分前倒して終わる「思いやりタイム」の推奨、「フレックスタイム」の活用拡大などを推し進めている。

ワコール

 女性用下着メーカーのワコールでは、働き方改革が進められてきた。以前より女性社員が多く、出産による離職が課題となっていたワコールでは、特に「女性社員の定着」という目的があった。そこで、育児や介護をしている社員が短い時間で働ける短時間勤務制度を導入。2019年時点では400人程度の社員が短時間勤務制度を利用したという。

 ほかにも休職制度の導入やリモートワークなどさまざまな面で改革を推し進めていった結果、2017年時点では6.92時間であった平均残業時間が、2021年では3.18時間にまで減少している。

日立ソリューションズ

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 残業が多くなりやすい、IT業界でも働き方改革は進められている。システムインテグレーション事業を展開する日立ソリューションズでは、20時以降の残業を禁止した。深夜時間帯におけるメールの閲覧・送信までも含めて禁止している。

 さらに、朝の時間帯に仕事を集中して終わらせるべく、朝食の無料提供をするなどして朝型勤務を推奨してきた。ほかにも、「ワークスタイル改革講演会」や「ムダ取り発表会」など、さまざまな会議を実施することで意識改革も同時に実施してきたという。

さくらインターネット

 インターネットサービス、およびデータサービスセンター事業者のさくらインターネットでは、「さぶりこワーク」と称した独自の制度を通じて、働き方改革が進められてきた。「さぶりこワーク」で定められている「ショート30」では、必要な業務を早めに終わらせた場合、定時より30分早く退社することが可能だ。給与の減額もない。

 働く時間帯を柔軟に調整できるよう、10分単位で勤務時間を変更できる「フレックス」制度やリモートワークのための通信手当なども設けている。もちろん、育児・介護に取り組むための時短勤務制度も用意されている。

日本航空(JAL)

 航空大手の日本航空(JAL)も、働き方改革が成功している企業だ。日本航空では、コロナ禍の前よりテレワークを推進しており、2019年度には年間36,400人がすでに利用していた。2017年から休暇とテレワークを両立できる「ワーケーション」、2019年から出張先で休暇を取れる「ブリージャー」も、ほかの企業に先駆けて導入している。

 育児や介護に取り組む社員向けにも、時短勤務制度以外の多様な制度が用意されている。「育児休職者座談会(ママカフェ)や「仕事と介護の両立支援セミナー」など、充実の内容だ。

兼松

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 総合商社の兼松でもリモートワークや育児休業など、働き方改革に対応するさまざまな施策が導入されている。なかでも特に注目したいのが、介護支援の領域だ。介護休業はもちろんのこと、特別有給休暇制度を設けて、介護に取り組まなければならない社員をサポートしている。ほかにも、外部介護コンシェルジュサービスや社内の育児・介護相談担当者設置など手厚い。

中外製薬

 製薬大手の中外製薬でも、包括的な働き方改革が進んでいる。残業時間の減少を推進するべく、回数制限なしのアニバーサリー休暇やノー残業デーの設定、タイムマネジメント研修を行うなどして、さまざまな側面から残業減少を推し進めた結果、2020年度の平均残業時間は1人あたり4.3時間まで減少した。

 さらに、コアタイムなしのフレックスタイム制度や育児・介護のための時短勤務制度、「MR配偶者同居サポートプラン」など、働き方改革のための制度は非常に充実している。

働き方改革のため残業禁止に。残業したい場合の抜け道はあるか

 働き方改革を受けて残業できなくなったことで、仕事の進め方を変えなければならなくなったビジネスパーソンは多いのではないか。実態として、いまだに残業ありきの働き方をしている読者もいるだろう。2022年にも、違法な時間外労働をさせたことで複数の企業が書類送検されるケースが散見された。

 残業をしたい場合の抜け道として、働き方改革で導入された「高度プロフェッショナル制度」を活用する方法がある。ただし、コンサルタントや金融商品の開発など、対象業務は限定されていて、年収1,075万円以上の労働者にしか適用できないのが難点だ。

記事まとめ

 働き方改革で残業ができなくなったが、この趨勢が後戻りすることはない。これからの企業には残業なしで業務ができるような組織設計、業務設計が求められる。あらかじめ残業ができないことを想定していれば、残業ありきの職場環境にはならないだろう。

 長時間労働は短期的には成果が出るかもしれないが、長期的に見れば社員のモチベーションや健康を害する恐れが高まる以上、マイナスだ。個々の企業においてはこれからも、働き方改革を推し進めていかねばならない。

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