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Features The Dawn of DX ── デジタル変革が導く未来 公開日:2022.08.18

働き方改革による有給取得義務とは? 対象労働者や罰則について解説

 2019年4月より、働き方改革の一環として、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して年に5日間の有給休暇を取得させることが企業側に義務づけられた。  本記事では、有給休暇5日取得が義務となった背景にある働き方改革で提言された8つのテーマや、有給休暇5日取得の対象者、有給休暇5日を取得できなかった場合の罰則の実例などについてまとめて解説する。

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有給休暇の取得義務化とは何か?

 働き方改革の背景にあるのは、まずは少子高齢化だ。国の中核を担う労働人口が減少し続けるなかで、今ある人材をより有効に活かして、生産性を高める必要が出てきた。そのため、国は働き方改革という形でより多様な働き方を促進し、正社員として働けない人材を多様な形で活かすことで、国全体としての生産性を高めることを目指した。

 また、以前より暗黙に蔓延っていた長時間労働を本格的に是正し、安心して働ける国を作る、という文脈ももちろんあった。大手企業の社員が長時間労働を含む劣悪な労働環境のために心を病んでしまい、自殺してしまう事件が起こるなど、働き方改革直前の時期には、一部企業の労働環境の劣悪さはピークにまで達していたのだ。

 働き方改革で掲げられたテーマは8つだが、そのうちの目玉改革としてあったのが「年次有給休暇の5日間取得義務化」である。実際に、この法律が施行してからは、「有給休暇が取りやすくなった」と感じられている読者も多いだろう。

 働き方改革が目指していた働き方の多様化という目標は、働き方改革関連法案の施行後に徐々に実現してきていたが、2020年から2022年現在まで続いているコロナ禍によってより推し進められた。

有給休暇義務化の対象となる労働者

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 働き方改革で有給休暇を5日付与しなければならないと規定された対象者について、本項で解説したい。

入社6ヶ月以上の正社員・契約社員

 入社してから6ヶ月が経過している正社員、あるいはフルタイムで勤務している契約社員は五日間の有給休暇取得義務対象者に該当する。入社から6ヶ月経過すれば、有給休暇10日分が付与されるため、そのうち5日間の有給休暇取得義務が発生するというわけだ。後述するが、入社から6ヶ月という区分が、有給休暇義務の抜け道にもなっている。

入社6ヶ月以上が経過していて週30時間以上勤務しているパートタイマー

 入社6ヶ月以上が経過していて週30時間労働しているパートタイマーについても、年間5日の有給休暇取得義務対象者だ。パートタイマーを雇用し、戦力として長時間勤務させている企業は、働き方改革によって勤務しているパートタイマーの働き方について施行以前よりも尊重しなければならなくなったということだ。これによって、パートタイマーの雇用のあり方を変更した企業もあっただろう。

週4日勤務で入社してから3年半以上経つパートタイマー

 週4日勤務で入社してから3年半以上経過しているパートタイマーも、有給休暇5日付与の対象者に該当する。直近一年間の出勤率が8割以上で、3年半以上経過すると、有給休暇10日間の付与対象になる。そのタイミングで、有給休暇5日の取得義務が発生するのだ。

週3日勤務で入社してから5年半以上経つパートタイマー

 週3日勤務で入社してから5年半が経過しているパートタイマーも、5日の有給休暇取得義務対象者に該当する。直近一年間の勤務が8割以上であれば10日までの年次有給休暇が付与され、有給休暇5日の年間取得義務が発生する。

有給休暇義務化の1年間とはいつからいつまで?

 有給休暇義務化の1年間とはいつからいつまでか、事例を通して説明する。ただし、基本的には有給休暇10日が付与されるようになった日を基準日として一年が有給休暇義務化の期間となる。

入社6ヶ月以上の正社員・契約社員

 入社6ヶ月が経った10月1日時点で有給休暇10日が付与されるので、10月1日から翌年9月30日までが有給休暇義務化の一年間となる。その一年の間に5日間の有給休暇を取得しなければならない。

週4日勤務で入社してから三年半以上経つパートタイマー

 週4日勤務で入社してから三年半経ったパートタイマーには、その年の10月1日時点で有給休暇10日を付与される。従って、10月1日から翌年9月30日までが有給休暇義務化期間となる。その一年の間に5日間の有給休暇を取得しなければならない。

有給休暇取得を促進させるための対策

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 有給休暇指定を促進させるための方法はさまざまだ。自社に合った有給休暇指定の方法を考えるために、それぞれの方法について参照されたい。

個別指定方式

 個別指定方式とは、社員一人ひとりの有給休暇取得日数をチェックし、有給休暇取得日数が5日に足りていないような社員を個別に見つけ出し、有給休暇を取得するよう指定することを意味する。社員それぞれの意思を尊重し、社員が取りたい日程に有給休暇を取得させるので、社員の満足度は高まるだろう。多くの企業が個別指定方式を採用している。

 しかし、個別指定方式を採用し、社員に完全に自由に有給休暇を取得されると、サービス業などの一部の事業では不都合が出てくることもあるだろう。

計画年休制度

 計画年休制度は、労使があらかじめ協定を結んでおくことで、企業側が指定した日程にのみ、社員に有給休暇を取らせることが可能になる。サービス業や運輸業など、一部の業態では繁忙期となるシーズンに社員に休まれては困るだろう。そのような企業では、計画年休制度を利用したほうが好ましい。

 しかし、計画年休制度を採用していると、社員から自由に有給休暇の日程を設定できない点について不満が出るであろうことは容易に想像しうる。

マネージャー層が積極的に休暇を取得し、部下にも指導する

 「有給休暇を取得しましょう」と呼びかけてみたところで、マネージャー以上の職位にある社員たちが有給休暇を取得しないのであれば、一般の社員たちは休暇を取得しづらいであろう。マネージャー層が積極的に有給休暇を取得し、休暇を楽しむ姿を見せることではじめて、マネージャー未満の社員も有給休暇を気兼ねなく取得できる。

 また、「有給休暇を取得しなさい」というだけでは、日々の業務の忙しさにかまけて有給休暇を取得しない社員もいるだろう。部下が有給休暇を申請したことを上司が確認するフローを設けなければならない。上司が確認するフローを作ってしまえば、有給休暇の取得し忘れはさらに起こりにくくなる。有給休暇取得を当たり前のものとしなければならない。

有給休暇の義務化に違反した場合の罰則

 対象者であるにもかかわらず、有給休暇を5日間取得できなかった場合には、労働基準法違反として、事業者に対し6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる。罰金は一人ずつに科されるため、5日間の有給休暇を取得できなかった社員がいた場合、社員数分の罰金を支払わなければならない。

 2021年には、愛知県の食品管理事業者が、複数の労働者からの有給休暇の申請に対応せず、「年次有給休暇の取得義務不履行のため」書類送検された。

有給取得義務を守れていない企業の原因とは

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 本項では、有給取得義務を守れていない企業の原因について考察したい。

業務量の多さに対して人手が足りない

 有給休暇を取得できない最も根本的な原因として、業務量の多さに対して人手が足りていない、というものがある。特にクライアントに対して成果物を納品するような下請け業務を行っている業界では、この問題が発生しやすい。

 典型的なのはIT業界だ。IT業界では、納期までにプログラムなどの成果物を納品するため、ときには残業を厭わず働くことが強制される。残業ばかりのプロジェクトは俗に「炎上プロジェクト」と呼ばれ、ひどいものでは数日帰宅できない事態に陥ることもあるようだ。

 コンサルティング業界も同様である。かつて、コンサルティングファームでは顧客に提出するプレゼンテーション資料のために徹夜することは日常茶飯事だった。働き方改革の影響である程度緩和されてはきているが、それでもまだ残業をする習慣は根強く残っている。

 どこの業界でも起こりうることではある。採用人数を増やすか、仕事量を減らすかしなければ残業量は増え続け、有給休暇を満足に取得できることはないだろう。

そもそも休暇を取りづらい

 一部の業界や企業では、「有給休暇を取得することは避けるべき」という暗黙のルールが残っている。そのような企業では、少しでも有給休暇を取得しようものなら、上司や同僚から「やる気がない」と見られてしまうようなこともあるだろう。残業や休日出勤などが常態的に行われている職場でよくありがちな問題だ。

 このような企業が積極的に有給休暇を取得する企業に変わるには、経営トップが自ら主導して有給休暇を取得するよう呼びかけるなど、具体的な対策が必要になるだろう。また、コンサルティングファームなどに依頼して、外部からの圧力で変革してもらうのも良い方法だ。いずれにせよ、有給休暇を取得しづらい社内のカルチャーを変えるには、それなりの苦労がいるだろう。

働き方改革で有給日数を増やす流れは今後も続く可能性がある

 これからも国は働き方改革でスタートした流れを推し進めていくに違いない。その視点に立ち、自社のワークライフバランスや雇用のあり方、組織戦略について先手を打っておくことが重要ではなかろうか。

 有給休暇を社員にしっかりと取得させる企業では、社員の満足度も高まり、定着度は上がっていくはずだ。有給休暇のあり方について、本記事を参考にあらためて考えてみてはいかがだろう。

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