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Features The Dawn of DX ── デジタル変革が導く未来 公開日:2022.08.18

DX推進における課題とは? 日本企業が陥りやすいDXの課題と解決策を開設

 DX(デジタルトランスフォーメーション)はここ数年のトレンドワードだ。その一方で、「日本のDXは進んでいない」という言説をメディアなどで目にしたことがある読者もいるのではないか。なぜ、日本のDXは進んでいないのか。  本記事では、日本のDX推進における課題や問題点を洗い出し、それらを解決するための方法と併せて、紹介する。DXに関する課題を正しく認識することで、自社ビジネスの経営課題の解決に生かしていただければ幸いだ。

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そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

 そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何だろうか。本項では、DXの定義をあらためて確認したい。

DXの定義と意味

 日本企業の多くが経営課題として認識しているDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いて、経営革新を実施することだ。単にアナログベースでやってきたビジネスプロセスをデジタルベースに置き換えるだけではなく、より根本的な事業変革が伴うことを含意している。

 例えば、タクシー事業を展開する日本交通は、「AI配車」と呼ばれるタクシーの需要予測アプリを開発し、タクシー配車を最適化したことで稼働率を向上させた。このように、デジタルテクノロジーを活用して経営を革新することを、DXと呼ぶ。

DXとIT化の主な違い

 DXはビジネスモデルそのものの変革にまで踏み込むのに対して、IT化は既存のビジネスプロセスをITによって効率化することを指す。両者には質的な差異があり、IT化よりDXの方がより劇的な変化をもたらす。

 IT化の例を出すと両者の違いも理解しやすいだろう。例えば、今まで紙ベースで行っていた契約プロセスを、ITシステムベースのプロセスに変更することは、IT化だ。ITによってアナログな契約プロセスを代替すれば、業務効率化が図れる。

 このように、DXとIT化の定義の境界は曖昧ではあるが、確実に異なっている。

DXが必要とされる理由

 日本企業にはなぜDXが必要なのか。その理由を解説したい。

デジタルビジネスは勝者総取りの世界

 あらゆる業界のビジネスが、主にシリコンバレー発の海外スタートアップによってデジタル化されてきている。デジタルビジネスの覇者である検索エンジンのGoogleや、ECサイトのAmazonのようなビジネスはほとんど全てがプラットフォームビジネスで、勝者総取りの世界だ。市場シェアが2位以下のビジネスはトップシェアのビジネスには敵わない。もちろん他の業界でもその傾向はあるが、デジタルビジネスはそれが顕著だ。

 つまり、DXに乗り遅れてしまうと、ビジネスと知らない間に自社が基盤としていた市場シェアが奪われてしまう可能性がある。日本国内のみを見ているうちに、海外スタートアップが黒船のようにやってきて打ち負かされてしまいかねない。そのような事情から、DXは全ての業界で取り組まなければならない経営課題となっている。

少子高齢化のため人材不足がますます深刻になる

 日本の少子高齢化は止まる気配を知らない。企業の人材不足はますます深刻になっていくはずだ。そうなると、これまで以上に少ない人数で利益を上げるための業務効率化や生産性の向上が重要になっていく。

 そこでDXが必要不可欠になるというわけだ。DXを推進することで、最新のデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルを創出することで、より少ない人数で、高い付加価値を生産できる。

 また、社会がデジタルベースになれば、リモートワークもしやすくなり、地方にいてもさまざまなサービスが受けやすくなる。地方では医療福祉系のサービスで人材供給不足が起きていることから、公共の福祉を守るといった文脈でもDXで社会全体の生産性を高めていくことが課題になってくる。

日本企業のDX化は世界に比べ遅れている?

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 「日本のDXは進んでいない」と漠然とメディアで目にして、「そんなものか」となんとなく受け取られている読者も少なくないのではないか。本項であらためて、日本のDXの現状について認識を共有しておきたい。

日本のDXは海外に比べ遅れている

 なぜ「日本のDXは海外に比べて遅れている」と言われるのか。それにはもちろん根拠がある。スイスの著名ビジネススクールIMDが毎年発表している国家ごとのデジタル競争力を競う“Digital competitiveness ranking 2021”において、日本は先進各国の後塵を拝して28位にランクインしている。トップ3は首位から順にアメリカ、香港、スウェーデンという陣容だ。ちなみに隣国の中国は15位にランクインしている。日本のデジタル化、DXは“遅れている”と言っても差し支えないだろう。

 経済産業省は、2018年に発表したレポートにて「2025年の崖」という表現を用い、2025年までに日本でDXが進まなければ12兆円の損失が発生する可能性を示唆した。国としても、日本全体のDXの遅れを問題視していることがわかる。

日本の“基幹産業”である製造業ですらDXが遅れている

 日本の産業構造の中で、時価総額上位にランクインして存在感を占めている肝心の製造業でさえも思うようにDXが進んでいない現状がある。

 日本の製造業でDXが進まない理由は複合的なものだが、特に大きい理由が「現場のデータ活用が進んでいない」というものだ。日本国内の製造業には中小企業も多く、中小企業ではまだDXの必要性を感じられていないためか、デジタルツールの活用が進んでいない。また、経営者層が危機感をさほど感じていないことも大きいだろう。

DX推進における課題

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 上記で日本のDXが進んでいない現状について解説した。それではなぜ、日本のDXは遅れを取ってしまっているのか。それでは、日本のDXにおける主要な課題を網羅的に紹介したい。

DX人材不足

 日本におけるDXの最大の課題として認識されているのが、人材不足の問題だ。そもそも、DX人材はハイスキルな人材であり、育成・採用が困難である。しかし、DXを推進していくためには、DX人材が不可欠だ。DXの経験が豊富なITベンダーやコンサルティングファーム経験者の絶対数は少ないために、DX推進は常に困難になってしまっている。

 大手企業であれば、ITベンダーやコンサルティングファームに依頼することもできるし、自社でDX経験のある人材を採用することもできる。しかし、企業の大半を占めている中小企業の場合はそうではない。このあたりの根本的な人材供給不足を解消するには、副業や兼業を活用するなど、より広範な視野で対応していくことが求められるだろう。

既存システムのリプレース

 改修を繰り返し、もはやシステムの全容が容易に把握できない状態になっている既存システムも、日本のDXを遅れさせている一因だ。複数のITベンダーに丸投げして繰り返されてきたシステムリプレースのツケが、DXの推進を阻害する要因となっている。ITベンダーにシステム改修を丸投げしていたために自社のIT部門でシステムの全容を把握できなくなっているのだ。

 そこでITベンダーにシステムリプレースを再度丸投げしても、ITベンダーのエース社員ですらシステムの理解に時間がかかる。実際に、ITベンダーがいつまで経ってもシステムの仕様を理解できず、度々システムインシデントを起こしている企業も存在する。

中小企業はDXのコストを支払えない

 上述したように、DXにはハイスキルな人材が必要なため、コストが嵩む。ITベンダーやコンサルティングファームに依頼するとなると、小規模チームに依頼する場合でも1ヶ月単位で億円以上することもザラにある。そのようなコストを負担できる中小企業はそう多くはない。

 コストを厭い、自社でDX人材を育成しようとしても、またコストがかかるのだ。DX投資にかかるコストが、日本のDXを遅らせている側面があるのは間違いないだろう。
【参考】about - BOSS share

変革への意識不足・現場の抵抗

 日本企業の多くはDXの遅れに対する危機感を共有していない。独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センターが実施した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2020年版)」によると、調査対象の95%の企業はDXにようやく取り組み始めた段階、あるいは全く取り組んでいなかった。

DXの成功率はそもそも低い

 DXが遅れているからといって、DX人材が不足している段階でDXに着手すればいいかというとそうでもない。世界最高峰との呼び声も高い経営コンサルティング会社マッキンゼーによる「マッキンゼー企業変革調査」によると、そもそも企業変革の成功率は30%程度であるとのことだ。その上、DXの成功率ともなると16%程度にまで下がる。

 つまり、DXはそもそも成功率が低いのだ。その上、日本企業にはそもそもDX人材が不足しているのだから、日本のDXが遅れているのは必然と言えよう。

社内合意を形成できない

 大企業になればなるほど、社内の意思決定プロセスが複雑になるのは周知の通りだ。当然、大企業の経営トップ層ともなればDXの必要性については理解している人材が多い。しかしながら、経営層以外の現場社員などからも合意や協力を得なければDXは遂行できない。

 そういった点で、大企業は中小企業よりも意思決定が難しいのは当然だ。DXは全社的な変革になるので、現場からの抵抗に遭ってスピーディーな変革を進められない事態に陥るのは想像に難くない。

ベンダー選定が困難

 DXはいわば、ここ数年のビジネス界のバズワードだ。「DXコンサルティング」を謳うITベンダーやコンサルティングファームの数も増加の一途をたどっている。これほど多くのベンダーがいる中で、自社のDXに合ったベンダー選定を実施するのは容易なことではない。

 自社に選定眼を持っているDX人材がいる大企業はさほど多くないのではないか。ITベンダーとの信頼関係を築くのも時間がかかるため、DXへの取り組みを進めるにも、遅れが出てしまっているのだろう。

DX推進を実現させるための解決策

【画像】Shutterstock
 日本のDXは進んでいない。その現状に甘んじていては、「2025年の崖」レポートにて示されたように、日本全体のビジネス競争力がどんどん低下していくだろう。では、DXの課題を解決するにはどうすればよいのか、本項で示したい。

DX人材の採用・育成

 DX人材の獲得が困難であるとはいえ、やはり取り組まなければならない課題であることは事実だ。いつまで経ってもITベンダーに丸投げしているようでは、DX対応力や、これから訪れるよりデジタル化したビジネス環境において競争力が低下していくのは避けられない。

 大企業では、DX人材を獲得するための人事制度を用意している。例えばソニーは、AIなどの分野で高度な専門性を持つ人材を対象に年収1100万円以上を支払う「エクセプショナル・リサーチャー」制度を導入した。このような制度を設けることで、高度なDX人材を獲得しようとするのは一つの手段だ。

レガシーシステムの現状把握

 スパゲティ化してしまったレガシーシステムの把握も、ITベンダーに丸投げにしてはいけない。ITベンダーに丸投げにしていては、炎上に次ぐ炎上で肝心のシステム把握ができないケースもある。

 もはや誰も理解できないほど複雑化してしまったレガシーシステムこそ、社内人材で仕様を理解しなければならない。そのためにも、デジタルスキルが高い人材の育成・採用は急務になる。

経営トップを巻き込んだ社内合意形成

 特に大企業では、社内合意の形成が難しい。しかしそれはあくまで、経営トップ層のDX推進に対する意識が低い場合だ。この場合、経営トップ、特にCEOが鍵となる。

 CEOが現場を訪問して、デジタルツールの利用度合いについてヒアリングしてみてもよいだろう。定期的にメッセージを発するのも手だ。経営トップ層がDXを経営の最優先課題として推進しなければ、現場は変わらない。

DX推進に成功した事例

 DX推進に成功した企業の事例を紹介する。

RIZAP

 特徴的なマーケティング手法を駆使して高単価なフィットネス事業を展開するRIZAPは、ゴルフトレーニング事業も展開している。ゴルフ指導をよりデータに基づいた効果的なものにするべく、ユーザーが使用するゴルフクラブに軽量の小型センサーを付けることで、ユーザーのスイングの加速度を測定するようになった。

 スイングのデータを見ることができるようになったことで改善部分を明瞭化できるようになり、指導力が向上。他にもスコアデータなどもあわせて収集・分析することにより、ユーザーのゴルフスキルを最短で上達させることにコミットできるようになったという。

Walmart

 アメリカだけでなく、世界最大の小売業者であるWalmartは、Amazonに自社顧客を取られていく状況を危惧し、DXを推し進めてきた。数々のデジタルブランドを傘下に置き、それぞれのブランド顧客をWalmart顧客に取り入れていった。そうした施策により、EC業界ではAmazonに次ぐシェアを獲得するまでになったのだ。

 他にも、さまざまな機能別にあったアプリを一本化し、ユーザーの利便性を向上させ、BOPISと呼ばれるシステムの導入も進めた。BOPISとは、Buy Online Pick In Storeの略称で、オンラインで購入した商品を店舗で受け取れるシステムだ。ECサイトで購入した商品に配送の遅れが出ている場合などに、身近な店舗で受け取りたい、というユーザーの需要に応えることで、さらにシェアを拡大させている。

ロレアル

 世界最大級の化粧品メーカーのロレアルでは、化粧品購入体験のDXを実現させた。拡張現実技術の一つであるARを利用して、化粧品を利用した後の自分の姿をシミュレーションして見ることができるアプリを開発し、提供を開始。ユーザーはシミュレーションを見た上で購入の決断をできるので、「思っていたイメージと違った」という失敗を防げるようになる。

 また、シミュレーションをさせることで、これまでだったら購入を見送っていたようなユーザーにも、購入を後押しする効果も期待できる。ロレアルのようにAR技術を活用することで、ユーザーの購入体験を革新する企業は増えていくだろう。

DXは最重要課題

 DXは、全ての日本企業において最重要課題となってきている。したがって、DX戦略を最重要な企業戦略の一環として位置づけることが重要だ。デジタル社会では、DXに成功した企業による“勝者総取り”状態が発生することもしばしばある。DXに乗り遅れ、競合他社に排他されないように、早めの対応が肝心だ。

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