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Features Ideas 公開日:2021.05.10

Society 5.0の実現に向け、デジタル庁創設により変わる社会

 Society 5.0とは、「サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」のこと。デジタル庁創設は、Society 5.0実現のトリガーとなるのだろうか。

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 「Society 5.0 の実現に向け、デジタル庁創設により変わる社会」と題し、東京大学大学院の経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏をモデレーターに迎え、レクター代表取締役/日本CTO協会代表理事の松岡剛志氏と、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏で「Society 5.0」実現に向けた議論が交わされた。本稿ではその鼎談の模様をお届けする。(本稿は鼎談を編集して掲載しています)

Society 5.0とはどんな社会で、実現には何が必要なのか?

 冒頭に柳川氏はSociety 5.0について解説した。

柳川氏 Society 5.0には大きく三つのポイントがあると思っています。一つ目はサイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させるということ。二つ目はそうすることで経済発展と社会的課題の解決を両立し、人間中心の社会(Society)を実現すること。三つ目はIoTを中心としたさまざまなセンサーが多様な情報を収集し、それが人工知能(AI)によって解析され、高付加価値な情報、提案、機器への指示などを提供するということ。
柳川氏 これまでのように人がアクセスして情報を入手・分析するのではなく、フィジカル(現実)空間からセンサーとIoTを通じてあらゆる情報がビッグデータとして集積され、AIがそれを解析し、高付加価値を現実空間にフィードバックします。
 Society 5.0はIoT、ロボット、AI、ビッグデータなどの先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、格差なく、多様なニーズにきめ細かく対応したモノやサービスを提供する。

 その結果として、「予防検診やロボット介護による健康寿命の延伸と社会コストの抑制」「農作業の自動化・最適な配送による食料の増産とロスの削減」「エネルギーの多様化・地産地消による安定的確保・温室効果ガス排出削減」「最適なバリューチェーン・自動生産による持続可能な産業化の推進・人手不足の解消」などの成果が期待できるものである。
柳川氏 本日はSociety 5.0実現に向けた取り組みと課題を掘り下げて考えていきたいと思います。具体的な動きとしてはデジタル庁がいよいよ動き出すので、これがSociety 5.0実現の引き金になるのか。そこで何を重視し、考えるべきかを議論したい。今後、多くのエンジニアがデジタル庁に流れていくことになりそうなので、「アジャイルやインターオペラビリティー」といったエンジニアのマインドが、世の中や霞が関のカルチャー、伝統的なカルチャーをどのように変えていくかといったことを掘り下げたいと思います。

柳川氏 まずはお二人の自己紹介をお願いします。

松岡氏 私は今日、一般社団法人 日本CTO協会代表理事という肩書きで参加しています。ミクシィとViibarでCTO(Chief Technology Officer)を務めた後、2016年にレクターという技術経営のコンサルティング会社を創業。2019年に日本CTO協会を立ち上げました。また、経済産業省のSociety 5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会 委員やデジタル庁のエンジニア採用のお手伝いもしています。
松岡剛志氏
須賀氏 私は世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターのセンター長を務めています。新しいルールメイキングを官民で連携して進めていくための拠点をグローバルに作りたいということで2017年に設置し、すでに世界13カ国でセンターが立ち上がっています。

 現在センターで活動している領域としては「通商貿易」「ヘルスケア」「モビリティー」「地球環境」「都市・インフラ開発」がありますが、そうした領域とデータポリシー、IoT・ロボティクス・スマートシティー、人工知能・機械学習、ブロックチェーン・分散台帳技術といったテクノロジー課題のかけ算になるところに専門家別のチームがプロジェクトを作って活動しています。
須賀千鶴氏

デジタル庁による人の流れの変化は、霞が関の文化を変えるか?

柳川氏 Society 5.0やデジタルトランスフォーメーションというと、通常は技術の話がまず出てきますが、Society 5.0実現のためには、やはり制度や法律を変えなくてはならない。そうなってくると官民連携や政治のあり方も重要になってきます。また、デジタル庁創設によってデジタル人材の流動化がかなり進むのではないかと思っています。まさにCTOのような方々の役割やポジションなども大きく変わってくるのではないでしょうか。そのあたりはいかがでしょうか?

松岡氏 デジタル人材の特徴で言うと、GAFAをはじめとした設立して20年程度経った会社の社員の平均継続年数が2年少しです。ヤフーや楽天なども設立して20年以上経っているデジタル系企業ですが、社員の平均勤続年数は5~6年。デジタル人材はどんどん転職する。エンジニアだとその傾向はいっそう強まります。人材の需給関係が崩れていたり、ニーズの高い技術分野だったりすると、従来の給与制度ではカバーできなくなり、ジョブ型雇用への動きが加速しています。デジタル人材、特にエンジニアは非常に流動性が高まっていくというのは間違いのないトレンドだと思います。デジタル庁に関しても、入ってくる人は多いものの、おそらく数年で出ていく。そういうサイクルになるのではないでしょうか。平井デジタル改革担当大臣もおっしゃっていますが、入って出てという回転数は相当早くなると思います。

柳川氏 従来の霞が関人材はずっと同じ省庁にいることが多く、流動性はかなり低いと思います。その中でデジタル庁の中に流動性の高い人材が入ってくるというのは、霞が関にとってかなりインパクトが大きいのではないでしょうか?

須賀氏 それによって大きく文化が変わることを期待しています。幹部人材も含めて霞が関の内と外、行政と民間の事情の両方を理解した人材こそ必要と言われてきましたが、これまで実現せずにきています。そこに今回、CTOというマネジメント層の人材が霞が関にどんどん入ってくるようなループが生まれる。入ってからずっとそこにいるわけではなく、またキャリアアップして民間に戻って行くというようなルートが正式にできてくると、それはエンジニア業界にとっては普通のことかもしれませんが、霞が関にとっては新しい風が吹くことになるでしょうし、「どうしてエンジニアだけがそうなんだろう?」という話にきっとなると思います。それも含めて期待しています。

柳川氏 なるほど。今おっしゃたようなエンジニアでない人たちもそういうマインドになっていって、民間に転職したり、デジタル分野以外の人たちが霞が関の管理的な役割に入ってきたりすると、霞が関のカルチャーは変わってくるとお考えですが?

須賀氏 はい、エンジニアがそれだけ流動性を持って仕事ができるというのは使われているツールがある程度標準化されていたり、文化がある程度共有されているという面が大きいと思います。オープンソース化するといったことがエンジニア以外の世界にも普及してくれるといいですね。今、企業の中ではその企業独特の業界用語や専門用語を使う必要があり、その組織の中での立ち回りが上手いかどうかなどが重要視されます。しかしそういったことがならされていき、人が移動することによって、他に移っても使えるようなスキルがより重視され、評価されるようになってくると、すごく面白い変化になると思います。

標準化されたツール、共通言語がカルチャーを変えていく

柳川氏 デジタル庁によってどう変わるかというよりも、霞が関だとか、あるいはもっと言えば日本の民間企業が変わっていくことで、Society 5.0のような社会を実現していくことがより重要なのでしょう。そこでは、やはり人材がうまく動いて、より適材適所で人が活躍できるということは大きなポイントとなると思います。そのためのフォーマットやインターオペラビリティー(相互運用性)はとても重要です。松岡さんはエンジニアの世界で生きていらして、自分たちの生きている社会と、一般のビジネスマンとの間で違いはあると感じますか?

松岡氏 エンジニアの業務で言うと、働き方の標準化は進んでいると思います。ソースコードなどを管理し、共同編集もできるGitHubを使ったり、ソースコードを作成するルールでも、Git-flowなど標準的なものがあって、大体みんなそれを使用しています。ですから転職しても、勤務初日からその場所でソースコードが書ける時代に、5~6年前からなっています。

 今後そういったものがどんどんエンジニア以外の職種にもしみ出していって、人々のマインドがどんどん変わっていく時代が来るんじゃないかと思っています。
柳川氏 そうしたエンジニアの世界で行われてきたことがだんだん他の分野でもできるようになることでSociety 5.0に近づいていく。もう少し技術が活用しやすかったり、課題を解決しやすい世の中になったりするとお考えですか?

松岡氏 考え方として計算論的思考(Computational Thinking)というものがありまして、「コンピューターを上手に使って課題を解決するにはどうすればいいか」というものです。みんながスマホを持っている時代になったので、この思考法の基、問題解決に当たるというのは非常に重要なポイントではないかと思っています。

柳川氏 我々の社会、生活の仕方自体がデジタルテクノロジーの中にあって、そこで見えてきているチャンスだとか、それをどうやってビジネスに生かしていくか、というのは大きなポイントですよね。

須賀氏 今ってすごく面白い時期で、デジタル時代の国際公共財みたいなものがまだ十分に整っていないんですよね。だから競争をする前に、まず協調してみんなでインフラを創る。それぞれがいいクルマを作る前に、協力して道路を敷こうと。どうやって敷くのが社会にとって一番いいかを先に考えようという時期だと思っています。

 コラボするためには、自分の組織以外の人との共通言語がないと困ってしまうんですよね。オープンイノベーションというのはスキルなので、意思だけではダメで、オープンイノベーションするための言語体系や態度を含めて、さまざまなスキルをお互いが持っていなければなりません。この公共財を一緒に創っていきましょうという今の時期には、文系・理系を問わず組織を超えて活動できる方へのニーズが非常に高まっていると思います。

 デジタル時代の公共財をつくるには、エンジニアだけでは難しくて、いわゆる文系の自分はデジタル人材ではないと思っている人も含め、多様な方が主体的に関わっていかなくてはなりません。人の動きがトリガーとなって、こうしたカルチャーが急速に普及していくことに、大変期待しています。

日本の官僚の優秀さと、オープンイノベーションにおける透明性

柳川氏 デジタル庁の採用スキル要件はどうなっているのか、という質問をいただいています。受け入れる側の評価というのは大変難しいと思いますが、違和感なく評価ができているのでしょうか?

松岡氏 私たちはデジタル庁の採用に関わっていますが、採用プロセスにおいて驚いたことが二つあります。一つ目は、官僚の方々が非常に優秀だということ。最初お話ししたときは「これは失敗するかも」と思ったのですが、「今ネット業界ではこうなっていますとか、こういう方とお話しされるといいですよ」とお伝えしました。それで官僚の方々がいろんな方とお会いになって、採用プロセスができ上がっていきました。そして、「さあ採用をやりましょう」といったタイミングでは、メガベンチャーの行っている採用プロセスと遜色のないものができました。

柳川氏 霞が関には優秀な方がたくさんいらっしゃって、吸収する力もお持ちだと思いますが、やはりそういう方たちが正しい知見を得て、その情報をどうやってうまく使うのか? そこが、今の霞が関、官庁の課題なのでしょうね。

須賀氏 私も役人として15年間育てられましたが、オープンイノベーションを初めて見て、自分の中で革命的だと思ったのは透明性に対する考え方でした。結論だけを出せばいいわけではなくて、どういった前提においてどういった思考回路でこの結論に至ったのかということも含めて、しつこいくらい共有していかないと、相手に信頼してもらって共同作業を進めるのは難しい。

 自分は役所でもオープンな方だと思っていましたが、本当のオープンイノベーションというのは、かなり覚悟がいるんだなと。文化の違いと言った方がいいかもしれません。何かを外に出す際に説明が必要でしたが、そうではなくてむしろ出さないことに理由が必要、というくらいの大きな価値観の転換だと思っています。

 デジタル庁は今のところ準備している方々が、平井大臣の号令のもとに、今までの仕事の仕方ではダメなんだと、プロセスも含めて全部なるべく「見える化」していくそうです。

 それが協力者を増やすことにつながり、ひいてはデジタル庁の実力を上げることになります。もっと言えば、日本全体、自治体でもこれからそういう人材が必要になっていくときに、人材の輩出源になるために必要なことだということをかなり明確に意識している。それも含めて松岡さんみたいな方々が文化を教え込んでくださっているという、急速なラーニングカーブのようなものが今、存在しているのかなと思っています。

人と失敗できる環境、ルール改善の仕組みをどうつくるか?

柳川氏 それは決して霞が関の中央官庁だけの課題ではなくて、地方自治体や民間企業の課題でもあると思っています。やはり人の流れに加えて、それとセットなのかもしれませんが、規制だとかルールだとか、制度を変えていかないといけない。それを世界のルールに持って行くくらいの気概がないといけないのではないかというのが松岡さんと須賀さんの問題意識だと思います。

 そのあたりのルールは変えていった方がいいんじゃないかとか、もう結構進んでいるから、こういうところをもっと伸ばしていけばいいんじゃないか、ということはありますか?

須賀氏 先日、世界経済フォーラムでAgile 5.0という表彰を行いました。これは世界中の規制改革のベストプラクティスとそれに取り組んでいる個人の官僚の方に着目して、その方々が公共部門における真のイノベーターだということで表彰させていただくものです。

 日本からは4名が選出されました。日本には規制をすごく厳密に作り上げる実力がありますので、時代が変わってきているという認識さえ共有できれば、それに対応して規制を変える高い能力があると思っています。

松岡氏 私は「デジタルガバナンス・コード」を作ることにも関わっています。何が素晴らしいかというと、デジタル戦略をオープンにしてKPIも公表せよと書いてあるんです。海外ではいくつかの例がありますが、デジタル人材の割合や、デジタル売上比率などをオープンにしていくんです。

 今後そういう圧が日本企業を中心に広がっていくと、そういうルールやフレームが人の行動を変える、組織の行動を変えるということがありますから、これによって改善されることは非常に多いだろうと期待を寄せています。

柳川氏 確かに日本にはきっちりといい規制を作る仕掛けや組織があると思います。一方でしっかりしたものをつくろうとするあまり、なかなかスピード感が出ず、どうしても遅れがちな面もあるんじゃないかと。できるだけスピード感をもって変化していくためには、最初から100%のものを作るよりは、少しずつ改善していくといった発想がもう少し日本社会にあってもいいのかなと思うのですが。
松岡氏 まさにその通りだと思います。ですから小さく失敗しても大丈夫な仕組み。それはプログラムかもしれませんし、制度かもしれませんし、法律かもしれません。さまざまな面で小さく失敗しても、大きなダメージを受けない仕組みを作ることができるかどうかが今後の鍵ではないでしょうか。

須賀氏 日本はやはり事前の説明責任の配分が、すごく重くなっていると思います。一度説明して法律を改正してしまうと、その後のモニタリングは役所にお任せとなる。

 私たちはアジャイル・ガバナンスというプロジェクトを手がけていますが、ガバナンス自体がアジャイル化していかなくてはならない時代では、事前ではなく事後の説明責任、透明性を含めたものにもっと重点を置かなくてはならない。その代わり、事前にはいちかばちかというと言い過ぎですが、ある程度のリスクがあることを理解した上で取り組んでみる。そしてその後に高速で改善していくというようなことも必要になってくると思っています。

柳川氏 技術革新が圧倒的な規模で起きているので、それを生かしてSociety 5.0という社会を創っていく必要がありますが、そこで重要なのはやはり人であり、ある種のルール作り、ルール改善の仕組みなんだと感じました。

 小さな失敗ができる、あるいは失敗してもダメージを小さく収められるような仕組みを作ってトライさせていく。それで結果的に起きたことは、事後にしっかり説明責任を果たさせる。やはりこのあたりの枠組みがどれだけうまくできるのかといったところが大きなポイントになるとあらためて感じました。

 その意味でもデジタル庁は期待されていると思いますので、今日話したようなことをポイントとして押さえてうまく船出していただけたら、日本社会全体に大きなインパクトを与えてくれるだろうなと感じました。

本日は短い時間でしたが、ありがとうございました。

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