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Features The Dawn of DX ── デジタル変革が導く未来 公開日:2022.09.30

教育現場におけるDXとは? DX推進における課題と活用事例について

 生活のあらゆる場面でデジタル機器が使われるようになっている中、日本の教育現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れが問題となっており、危機感を覚えている教育関係者も多いだろう。DXは単なるデジタル化ではなく、教育の現場にICT機器を導入するだけではで行えるものではない。本稿では、教育現場のDX推進の課題や目標を活用事例を交えて解説する。

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目次

教育現場におけるDXとは? 

教育業界でのDXの定義

 教育のDXは何を目的としているのだろうか。文部科学省「文部科学省におけるデジタル化推進プラン(案)【概要】」によると、教育をDXする目的は日本をデジタル強国にするためのDX人材の育成・確保にあると述べている。そのために、小中高を通してデジタル技術を活用した学習を進めることで情報活用能力を高める教育を推進しているのだ。
 DX人材を輩出するためには教育現場におけるDXが必要であり、教育現場のDXは以下の2ステップで定義される。

1.    デジタル化による教育手法の変革
2.    学校組織や業務プロセスの改革を通じた、時代に沿う教育体制の構築

 そもそも一般企業におけるDXとはどのような定義だろうか。経済産業省が発表している「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」ではDXを以下のように定義している。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
 教育現場においてもDXは第一義的にはこの定義と同じと思って差し支えない。つまり、データとデジタル技術を活用して、従来はアナログで管理していた生徒のデータや教育手法をデジタル化し、教育のプロセスや教育現場の組織を変革することを言う。

教育現場でのDX推進が求められる背景

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 2010年、総務省がICT環境を一部の学校に試験的に導入して以来、教育へ徐々にDXの波が押し寄せている。では、なぜ教育現場でのDX推進が求められているのだろうか。それは主に以下の三つの理由による。

遠隔授業の需要の高まり

 遠隔授業とはインターネットを介してオンラインなどで行われる、時間や場所にとらわれない授業である。この形態の授業が注目された背景には新型コロナウイルス感染症のまん延がある。登校せずに在宅から授業を受けられれば、感染対策に有効だからである。

さらに感染対策以外でも、学校教育では以下のメリットがある。

●    災害などで学校が閉鎖された場合にも授業が行える
●    移動時間が短縮され、時間を有効活用できる
●    オンデマンド授業であれば、理解度に応じて繰り返し視聴するなど自分のペースで学習ができる

 また、塾や予備校に通う場合は、上記に加えて次のメリットも考えられる。

●    時間と場所を選ばずにトップクラスの講師の授業が受けられる
●    離島や過疎地域の子どもにも都市部と同じ品質の教育を提供できる

画一的な教育から個別最適な教育へと教育観が変化

 教育現場でのDXが注目されている背景には、「均質な教育から多様で個別最適な教育へ」という21世紀における教育観の変化が存在する。20世紀の教育観は正解主義的な側面があった。答えに対して素早くたどり着けるよう「いかに効率よく均質な人材を育てるか」に焦点が当たり、画一的な詰め込み教育が実施されていた。しかし、21世紀になり社会や産業の構造が変化するにつれて、生徒一人ひとりに合った教育が重視されるようになってきた。

 DXが推進されれば生徒一人ひとりの学習データを蓄積できるなど教育手法も変化していく。学習データを蓄積できるようになれば、蓄積した膨大なデータを分析し、理解度の高い生徒の学習ノウハウを理解度の低い生徒に共有したり、生徒一人ひとりの理解度に合った教育をすることもできる。

 また、興味関心や強みといった各生徒が持つ資質を把握しやすくなり、それぞれの資質をさらに伸ばしていくよう指導するのにも役立つ。個別最適な教育は、生徒らがカリキュラムに遅れをとらないようカバーするだけでなく多様な価値が求められる社会において自身の資質を存分に発揮できる人材として活躍する未来を実現してくれるのだ。

社会のデジタル化の加速とデジタル人材の不足

 今や社会のデジタル化が加速し、国際競争力向上にDXが密接に関わっている。DXは競争優位を獲得するためにデジタル技術を活用してビジネスなどを変革していくことだと言われている一方で、日本ではDX人材がまだまだ足りていないのが現状である。

 デジタル版「読み・書き・そろばん」と言われる「数理・データサイエンス・AI」はデジタル技術を活用するための基礎であり、学校教育を通じて培うことが求められる情報活用能力はICT機器を用いた教育によって高めていく必要があるだろう。

 しかし、日本におけるICT教育は他の先進国に比べて遅れていると言わざるを得ない。2018年に行われた「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2018)」によると、日本の学校の授業におけるデジタル機器の利用時間はOECD加盟国中最下位である。DX人材を輩出して日本の競争力を高めていくためにも、デジタル技術活用の前提となる情報活用能力を伸ばしていくICT教育の充実が喫緊の課題となっている。

文部科学省が推進する教育現場ごとのDX

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 上記のような背景を踏まえ、文部科学省も教育現場におけるDXを推進している。そのプランは初等中等教育と高等教育に分かれている。

初等中等教育におけるDX

 初等・中等教育におけるDX推進は、2019年に政府が決定したGIGAスクール構想から始まった。GIGAスクール構想とは初等・中等教育におけるICT環境を早急に充実させ、児童一人につき一台の教育用端末を整備する試みである。本来は2024年度以降までのプランだったが、コロナ禍でオンライン授業の整備が喫緊の課題とされたため前倒しされた。現在は児童一人につきほぼ一台の端末が整備完了している。

 しかし、ICT環境を整備しただけではDXではない。文部科学省は、蓄積された豊富な教育ビッグデータを活用し、児童一人ひとりに合わせた個別最適な教育を実現する試みを始めた。さらに、全国の学校から集められたビッグデータを大学や研究機関で分析し、新しい教育法や学習法の開発にも役立てようとしている。

高等教育におけるDX

 文部科学省は2021年に「デジタルを活用した大学・高等教育高度化プラン(Plus-DX)」もスタートした。これは大学や高等専門学校の教育においてDXを推進し「学習者本意の教育の実現」「学びの質の向上」に資するための取り組みのための環境整備を行い、教育手法の具体化及び普及を図ることを目指すプランである。

 また、全国規模での「数理・データサイエンス・AI教育」も合わせて推進される。これはデジタル技術で社会を牽引する力を持った人材の育成のため、全国の国公私立大学へ展開されるプランである。合わせて、指導ができる教員を増やすため、教員向けのワークショップや大学教育を改善するための教員による組織的な取り組みであるFD(ファカルティ・ディベロップメント)活動なども実施される。

教育現場でDXを推進するメリットとは?

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 教育現場をDXすることは、生徒・保護者・指導者の三者にメリットがある。今後一層必要となるITリテラシーを向上させるだけでなく、教育の質を高めたり指導者の働き方を改善したりするためにもDXは重要である。

生徒や保護者側のメリット

ITリテラシーが育成される
 ITリテラシーとは、社会に溢れる情報の処理やデジタルデバイスの操作を適切に行える能力を示す。ITリテラシーを高めるには、子どものころからICT端末に触れるのが効果的である。子どもはICT端末に触れて遊びながら学んでいく。教育現場において児童や生徒の身近にあるICT機器の存在は子どものITリテラシーの育成に有効と考えられる。

 情報化社会では多くの情報が氾濫しており、適切な情報を取捨選択し、活用する力を身につける必要がある。ITリテラシーは、社会に出て活躍し始めたときに有用となるだけでなく、もはや生活全般に必要なスキルなのだ。

場所・時間に縛られず柔軟に学習できる
 オンライン授業は、インターネット環境さえあれば場所問わず受講できるのがメリットだ。移動時間も削減できる上に他の予定と合わせて授業を組み込みやすいのが魅力である。加えて、入院など外出が難しい状況でも受けられるので遅れをとらずにすむこともあるだろう。

 また、あらかじめ録画した授業を配信するオンデマンド型であれば受講期間中は生徒が場所に加えて都合のいい時間に視聴できる。再生速度を倍速にしたり、分からないところを繰り返したりなど、一人ひとりにあった効率的な学習ができるのもメリットだ。さらに、学生だけでなく仕事と並行して資格取得をしたい社会人にとっても対面授業に比べて柔軟に講座を受けられる点も魅力的だ。

指導者側のメリット

事務作業が効率化できる
 教員の労働環境の悪さが問題になることも多い。その原因にはさまざまなものがあるが、学校という特殊な環境は一般的な企業と比べてデジタル化が遅れており、それによりアナログで非効率な方法を採用し続けてきたという背景もある。教育現場のICT環境が整備されれば、授業だけでなく教員全般の業務効率化も図れるだろう。

 生徒に配るプリントもPCなどで作成できるだけでなく、印刷して手渡しするのではなくデータのままメールやメッセージ機能などを使って配布することもできる。また、教員間の情報共有も紙ではなくデータで行えるようになる。
教育データの活用がしやすくなる
 DXの本質は、データドリブンであることだ。データドリブンとはデータを収集分析して課題解決を図ることであり、教育現場のDXにおいても、それは例外ではない。教育現場におけるDXを推進すれば、個々の生徒や児童の学習データを記録し、蓄積できるため、     生徒や児童の学習状況が可視化できるようになる。

 さらに、理解度の高い生徒と理解度の低い生徒の学習プロセスを分析し、理解度の高い生徒の学習ノウハウを理解度の低い生徒にも共有して学習スタイルの改善を図ることも可能だ。

 また、個々の学校だけではなく、日本全体の教育を考えたときに、蓄積された教育データは有用である。すなわち、全国の学習データを統合し、研究機関や大学で分析すれば新しい学習法や教育法の研究・開発に役立つと考えられる。

教育現場におけるDX推進の課題について

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 教育現場のDXにはさまざまなメリットがある反面、実際には推進にあたっての課題もいくつか存在する。ここでは主にスキルとコストの二点について取り上げる。

教員側の経験不足

 教育現場のDXを推進し、生徒たちのITリテラシーを高める教育をするには、教員がICTスキルについて理解していなければならない。オンライン授業やICT端末を活用した授業では、機材トラブルや障害が発生する場合もあるだろう。

 そのため、教員や教育関係者たちのITリテラシー教育も合わせて実施しなければならない。

コストの問題

 ICT機器を導入・維持するにはコストがかかる。GIGAスクール構想によって児童一人につき一台の端末はほぼ実現した。しかし、ICT端末は使用しているうちに壊れたり、スペックも古くなったりしていく。OSやアプリケーションのアップデートについて行くには定期的に買い換えなければならない。

 また、教科書のデジタル化や通信環境の整備にもコストがかかる。これらのコストをどのように捻出するかも課題と言えるだろう。

教育DXの事例

事例(1)立命館守山中学校・高等学校

 滋賀県にある立命館守山中学校・高等学校 は、教育に特化したSaaS(クラウドサービス)Classiを導入した。Classiには教員が作成した問題を配信して自動集計ができるWebテストや生徒の自学自習にも活用できる学習動画、教員と生徒・生徒間のコミュニケーションをサポートする校内グループなどさまざまな機能がある。
 
 立命館守山中学校・高等学校がClassiを導入の背景には、生徒の家庭学習時間増加とアクティブラーニング促進の二つがあった。導入後、Classi にあるWebテストやWebドリル、学習動画、校内グループの機能を駆使することにより、それらの課題へアプローチすることができたのだ。

 具体的には、新たな学習スタイルの構築である。立命館守山中学校・高等学校ではWebテスト機能を学習後の定着度確認のために用いており、学習動画機能と組み合わせることで生徒がより能動的に学習を進めることができるようになった。従来は分からない問題が出たときには教科書を読み返していたが、教科書が学習動画機能に代替されると、学習動画の内容を理解できたかWebドリルで確認する習慣が生まれたという。さらに、その過程を通して理解が進まない点や自分の弱点に対してはWebテストを解くことで克服しようとする行動が起きている。

 また、校内グループ機能を活用することで学校内のコミュニケーションを活性化するだけでなく、学習や指導の質も向上した。校内グループ機能を用いて授業で生まれた不明点を質問するための独自のグループ「教科の部屋」を作成することによって、その教科における生徒同士の意見交換が活発になり協働的な学び合いの場が生まれた。また、教員側も生徒がどこでつまずくのか把握しやすくなり、よりよい指導の実現に役立っている。

事例(2)利尻富士町立鴛泊中学校

 北海道利尻郡にある利尻富士町立鴛泊中学校はAIドリル「Qubena」を導入し、学力向上や校務の効率化を実現した。鴛泊中学校は生徒ごとにレベル別で個別の状況に合わせた学習が行えるような指導を全教職員で行っており、その最適化をすべく「Qubena」の導入に至った。

 「Qubena」は単元・項目別にドリルがまとめられていて、苦手な問題をAIが繰り返し出題する機能がある。鴛泊中学校は「Qubena」を定着確認・自主学習・フィードバック・評価の四領域に活用し、学力向上や校務効率化を図った。

 これまで使用していた紙媒体のワークから「Qubena」に変更すると、単元毎に習熟度が算出され理解していない点が明確になるため、生徒はその克服のための勉強を進めやすくなった。また、教員側も各生徒の回答状況をアプリで正確に把握できるようになり生徒ごとの正答率や回答までの所要時間、間違えた問題に対する再チャレンジの状況などを把握しやすくなった。

 これらの取り組みを通して、各種テストの知識・技能問題については5~6割の生徒が解答できるというベースが担保されるようになった。また、教員側も個別の生徒の回答状況を正確に把握できることから評価方法がより明確になり、生徒の個別の状況に合わせた指導が行いやすくなっている。

教育現場におけるDX推進で教育のあり方を変えよう

 教育現場でDXが進むと学校側にも生徒側にもさまざまなメリットが得られる。例えば教育の個別最適化や学習効率の向上、教員の事務処理の効率化などである。すでに教育用のアプリやクラウドサービスがリリースされており、これらの導入を進めている自治体や学校も存在する。ぜひ参考にしていただきたい。

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