Features The Dawn of DX ── デジタル変革が導く未来 公開日:2022.07.11
医療現場におけるDX推進の効果は?現状の課題と対策について解説
デジタルトランスフォーメーション(以下DX)という言葉を見聞きする機会が増えている。DXとは企業がデジタルテクノロジーを活用してビジネスを変革することだが、医療現場もデジタル化による変革の必要性はますます高まっている。この記事では医療業界におけるDX推進の効果と現状の課題、その対策について解説する。

そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DXの概要
DXとは
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
DXとデジタル化の違い
技術の導入だけで実現するデジタル化に対して、DXではデジタル化を行った上で生産性を上げ、市場の変化に対応して競争力を高めることが重要視される。医療分野における例として、電子カルテや医療情報システムを導入して患者情報をデータとして扱える院内体制を構築することで病院間での情報連携をスムーズにし、かかりつけ医から中核病院を紹介する際もスムーズな転院や患者にとって最適な治療を速やかに提供できるなど医療の質を向上させることが挙げられる。
医療現場におけるDXとは?

例えば、医療業務をデジタル化するための代表的なツールとされる電子カルテの普及率から医療のDXないしデジタル化の現状が伺える。厚生労働省の「(その他)今後の電子カルテ情報等の標準化に向けた進め方について」によると、2020年時点で一般病院(※1)の電子カルテシステム普及率は57.2%、一般診療所(※2)の場合は49.9%である。
※2 診療所のうち歯科医業のみを行う診療所を除いたものをいう。
【引用】
「(その他)今後の電子カルテ情報等の標準化に向けた進め方について」 - 厚生労働省
ここでは、医療業界におけるDXについて解説する。
医療業界でのDXの定義
効果的な医療提供に関して、例えば電子カルテシステムの導入による変化を説明しよう。患者情報などを電子カルテシステムでデータ化して医療情報システムに集約し、データをもとに最適な医療を提供できる可能性が高まったり他の病院とうまく連携できるようになったりすれば、患者に対する医療サービスの質を高められる。他にも、ビックデータとAIを活用した診断システムや診察の待ち時間を短縮するためのシステム、コロナ禍でさらに需要が高まった遠隔診療の導入などもサービスの質向上に寄与するだろう。
また、特異的な収益構造を持つ医療機関では、限られた予算内で効率的な医療提供ができる組織体制を構築する必要がある。医療は、診療報酬制度のもとで医療サービスに対する報酬体系が決められており、他業界よりも利益を向上させるのが難しい。一方で、さまざまな医療機器や専門資格を抱える資本・労働集約型である事業特性を持つことから固定費が膨らみやすい業態である。さらに、病院経営者は現場で働く医師が兼任することもあり、経営の専門性を身に着けづらくまた経営に集中することも困難な環境である。
患者に対する医療サービスの質を高めるためにも、可能な範囲でデジタル技術を用いた省人化などを進め、組織を効率化していかなければならない。
医療現場でDXを推進するメリット
メリット(1)業務の効率化
例えば、電子カルテの導入だ。オンライン上に情報が共有されれば検索や編集がしやすくなったり文字の読み間違いも防ぐことができたりして、スタッフ間の情報伝達もスムーズになる。また、紙カルテで欠かせない管理の手間や保管スペースも削減できる。
さらに、診療の予約や受付を自動化すれば、電話などで行っていたその手間もかからなくなる。診療時間外でもオンラインで予約できるようになれば、事務作業を削減できるだけでなく患者にとっても大きなメリットになるだろう。
メリット(2)データの連携による利便性の向上
また、DXを推進し膨大な量の診療記録や検査結果をオンラインで集約できるようになれば、ビッグデータとして活用することもできる。ビックデータをAIに機械学習させることによって診断精度を向上させ、病気の早期発見・治療が可能になる。さらに、新たな薬や治療法の確立が見込め、特に再生・予防医療や製薬の分野においては大きな成果が期待される。
メリット(3)BCPの強化
医療現場でのDX推進における課題と対策とは?

課題(1)人員不足
しかし一方で電子カルテや予約・受付システムなどの新たなシステムを導入することにより、これまでかかっていた人的コストを削減することが可能になる。導入時の摩擦を乗り越えることができれば、スタッフの負担を軽減できるだろう。
課題(2)現場のITリテラシーの低さ
そのような事態を回避するために、ITリテラシーの低い者でも容易に使いこなせるツールを導入することが望ましい。例えば直感的に操作できるUI・UXになっているなど、現場のスタッフが使用しやすいシステム・ツールを選ぶのがよいだろう。
課題(3)セキュリティ対策の必要性
個人情報の漏洩といったリスクを減らすためには、セキュリティ性の高いシステムやツールを選ぶことが欠かせない。また人的なミスによるデータの漏洩を防ぐために、情報の取り扱いに関するルールを厳格に定め、スタッフに周知する必要もあるだろう。
医療現場で活用されるDXの事例
事例(1)AIによる画像解析診断
NIIの医療ビッグデータクラウド基盤に集積された1億6千万枚超のCT画像を活用し、機械学習によって肺炎CT画像を選別するシステムを開発。その選別手法によりリスト化された肺炎CT画像に、PCR検査の結果と放射線医によるCOVID-19肺炎典型度を紐付けてデータベース化している。
既にこのプラットフォームはCOVID-19関連研究に活用されており、名古屋大学の研究チームはこのデータベースを通じて高い精度でCOVID-19の典型度を判定できるAIを開発した。
事例(2)AIによる新薬開発
これまで新薬の候補となる抗体の構造設計は、研究員によるデータ解析と知識や経験に基づいて編み出された組み合わせを実際に試し、評価する試行錯誤によって行われてきたが、機械学習の導入によりデータ解析を効率化し、最適な分子配列を自動で生成することが可能になった。創薬プロセスの一部を大幅に短縮するだけでなく、医薬品開発の成功確率が大きく向上すると期待されている。
医療現場のDX推進におすすめのITツール

電子カルテ
医療情報システム
RPA
医療現場におけるDXの今後
予防医療に関しては、少子高齢化が進む日本において注目されている取り組みの一つであり、DXによって加速すると考えられる。AIやIoTなどのデジタル技術を用いることで日ごろから健康状態を観察したり疾病の早期発見・治療ができたりするだけでなく、新薬や治療法の開発を促進するため人々の健康寿命を延ばすのに役立つ。少子高齢化社会の進展によって医療費増大と人手不足が予測される中、健康寿命を延ばすことを目的とする予防医療はそれら社会課題を解決する意味でも重要であり、医療現場における予防医療サービスの提供はDXによって後押しされるだろう。
また、DXは医療のひっ迫を防ぐためにも有効だ。人手不足と高齢化の影響は医療分野にも及び、疾病リスクが比較的高い高齢者が増えればその分患者数も増加する恐れがある一方、全体的な労働人口の減少より医療従事者一人当たりにかかる業務量はさらに増していくと考えられる。しかし、DXが進むことによって先述したように健康寿命が延びて高齢者の疾病リスク低下やそれに伴う患者数の減少が期待できる。さらに、医療現場では業務の自動化が進み医療従事者の業務負担を削減することにもつながる。