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The Dawn of DX ── デジタル変革が導く未来
公開日:2022.07.12
DX人材とは?職種や役割・必要なスキル・知識を解説
デジタルトランスフォーメーション(DX、Digital transformation)を成功させるために大切な要素の一つがDX人材の獲得・育成である。しかし、DX人材と一口にいっても、どの業務領域にどのような能力やスキルを持ったDX人材が求められるのかを十分に把握できていない企業も多いだろう。本記事では、DXを推進するプロセスを紹介した上で、職種別のDX人材や必要なスキルについて解説していく。
DX人材とは
DXとは単なるデジタル化ではない。デジタル技術を 活用して既存業務の効率や生産性を向上させるデジタル化に対し、DXはデジタル化を手段として競合優位性を獲得するようなビジネスモデルや組織体制などを新たに創出することを意味する。
会社においてDXを推進するいわゆる担当者を「DX人材」と呼ぶが、経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」によると、以下のような人材のことを指す。
・DX 推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材
・各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードする人材、その実行を担っていく人材
つまりDX人材は、デジタルに精通しているだけではなく、マネジメント力や実行力も備えている必要がある。
DXの推進に、他部署との折衝やエンジニア・専門業者などの協力が不可欠だ。自部署だけでなく他部署の業務を理解した上で、専門職や外部会社とも会話する場面が多くなるはずである。自社内の要望をまとめて要件定義をしたり、作業工程を細かく構造的に示したWBS(Work Breakdown Structure)を関係者たちで作ったり、時にはトラブルを解決するといったマネジメント力や実行力も求められる。
DXを進めるためのプロセス
1.経営戦略を明確にし、目的を策定する
まずは、DXに着手する前に、自社の経営戦略が明確であるか今一度確認すべきだ。というのも、DXはあくまで経営戦略を実現するための手段にすぎない。競合優位性の獲得を目的にビジネスモデルの変革をもたらすDXはビジネスを通じた成長シナリオを描いた経営戦略と密接に結びついており、DX実現で必要となるデジタル化は経営戦略の下位概念となる事業目標やKPIの設定に影響する。たとえDXを推進したとしても、経営戦略が不明確だとDXの目的も不明確となり、経営戦略に紐づく要素をデジタル化によってどう変化させたいのかもあいまいになった結果、DXに失敗してしまう事態にもなりかねない。そのため、経営戦略を明確にした上で、DXの目的を決める必要がある。
2.経営陣のコンセンサスを得 る
DXの推進は基本的に社内の大プロジェクトになるはずだ。一部の部門だけで進められることもあるが、いずれにせよ経営陣によるコンセンサスが必要になる。最初に経営陣のコンセンサスを得ておけばDXが全社的な方針として掲げられ、のちのち社内の抵抗があったときにトップダウンでプロジェクトを進められる。
3.現状を整理し、課題を特定する
続いて、DXの推進によって自社のどのような課題が解決されるのかを知るために、現場社員から現状を聞き取り、集約・整理しておこう。
また、現場の意見だけでなく、会社が抱える課題も把握しておこう。例えば営業部門とマーケティング部門の連携がとれていないといった問題がある場合、マーケティング部門やインサイドセールスでは机上の空論に基づいた集客・営業をしているといったことがその原因かもしれない。これはDXで営業部門のデータをマーケティング部門が見られるようになることで解決できる可能性がある。
4.WBSを作成して関係者に役割を割り振る
大プロジェクトになると、WBSの作成も大仕事だ。何度もミーティングを実施し、関係者に課題解決のための仕事を一つひとつ割り振っていかなければWBSの作成が進まないため、期日を設定し関係者に宿題を出していこう。
WBS作成の段階で、適材適所となる人材の確保や組織の構築も合わせて行いたい。
5.デジタル化を実施する
WBSの作成を終えたら、デジタル化を実行に移そう。最初は慣れないツールに現場社員は苦労するものであり、不満も出るかもしれないが、本ツールの導入目的を明確にしきちんと説明するといった対応を行うことで進めていく。
6.PDCAを繰り返し実行する
デジタル化を実施するだけでなく、導入後の評価・改善も重要である。競争優位性の獲得に不可欠な業務効率や生産性のさらなる向上を目指すべく、デジタル化された業務を運用する中で得られたアウトプットをもとにPDCAサイクルを回して成果を増やしていきたい。
DX人材の6つの職種と役割
ビジネスプロデューサー
新ビジネスをまとめる役割を持つのがビジネスプロデューサーであり、 CDOやDX推進室の室長などが着任するケースが多い。ビジネス・デジタル両面に精通しており、DXプロジェクトにおいてリーダー的な存在である。自社の経営戦略や事業アセットなどを活用し、DX領域のビジネスを企画したりチームを編成したりなどして、DXビジネスの実現を期日までに主導する役割を持つ。プロジェクトを統括するだけでなく、ビジネスプロセスやビジネスモデルの変革まで担う場合もある。
ビジネスデザイナー
ビジネスプロデューサーの指示に従い、DXを進めるための具体的な企画立案と推進を行うのがビジネスデザイナーだ。市場や顧客が抱えるニーズや課題を把握し、ビジネスプロデューサーが示した概略的なビジネス企画の詳細を実現可能なレベルにまでDXビジネス企画を仕上げる役割を持つ。企画推進に関わる者に対してDXビジネスの内容や必要事項を説明したり、反対に関係各所からの意見も集約したりしてプロジェクトを推進していく。そのため、他部署との折衝力や柔軟な企画力が必要になる。
データサイエンティスト/ AIエンジニア
DXビジネスを実現するためには、膨大かつ必要なデータを活用することも求められる。そこで、「DXに関するデジタル技術(AI/IoT)やデータ解析に精通した人材」として定義されるデータサイエンティスト及びAIエンジニアが必要となるのだ。データサイエンティスト及びAIエンジニアはビッグデータを分析するだけでなく、ビジネスに対する知見を活かして分析内容をDXビジネスの創出につなげる役割を果たす。データの解析をメインとして行うデータサイエンティストに対し、AIエンジニアはAIを用いた課題解決のためにAIプログラムの開発を行う。
アーキテクト
アーキテクトとは建築家、設計者などのことであり、DXプロジェクトにおいてはデジタル化を設計する役割を持つ。DXに必要なシステムの構築だけでなく、保守や運用システムの構築の提案まで広い視野が求められる職種だ。
エンジニア/プログラマー
デジタル化と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはエンジニアもしくはプログラマーだろう。上記の職種が立案したDXプロジェクトに沿って、システムの実装や構築を行うのがエンジニアだ。しかし、DX プロジェクトにおいては、ただ立案通りに仕事をするのではなく、システムの実装を行う現場目線での提案も求められ、幅広いスキルが必要となる。
UXデザイナー
サービスの見た目や使いやすさといったUIだけでなく、顧客体験価値をユーザー目線で向上させるのがUXデザイナーだ。DXプロジェクトでは、社内でシステムを使う従業員にとって、業務で使いやすい、不満点が解消されたUIデザインを提案する役割も担う。
DX人材に求められるスキル・知識
プロジェクトマネジメントスキル
ビジネスプロデューサーにはプロジェクトマネジメントスキルが求められる。プロジェクト全体を推し進めるため予算管理を行い、プロジェクト全体を見回して工程が遅れないようアサインする能力が必要だ。問題が起き た際には、率先して問題を解決していく高いコミュニケーション能力が必要となる。
ビジネス戦略の企画および構築力
DXはデジタル化すれば終わりではなく、自社事業の改革まで着手することになる。そのため、ビジネスの根幹を理解して企画を立て、システムおよびビジネスを構築する力が求められるのだ。
ITやシステムに関する詳細な知識
IT関連の知識も人一倍求められる。事業や社内の課題を解決するにはどのツールが適していて、そのためにどのようなシステムの構築が必要なのかがわからなければ 、DXないしデジタル化は難しい。競合他社が使っているシステムや業界のトレンドにも目を向けておきたい。
データ分析力
デジタル化はあらゆるものを数値化するため、DXに成功すれば詳細なデータ分析ができるようになるはずだ。数値化できただけで満足しないために、データ分析に長けている人材を合わせて確保しておきたい。
UI/ UXを言語化・具体化する能力
UIおよびUXは最近になって注目されてきたが、言語化・具体化するのが難しい分野である。なぜこのデザインのUIが優れていると思うのか、デジタル化で社員にどのようなUXを提供したいのか、などを言語化するところから始めたい。
DX人材を確保する方法
社外からDX人材を獲得する
社内にDX人材がおらず育成に時間や手間をかけられない場合は、すでにDXに知見を持っている人材を外部から採用するのも手だ。一時的なプロジェクトであるなら、派遣会社や業務委託、あるいは協力会社と契約するなどの方法で人材を確保してもよいだろう。
しかし、DXとは自社事業の根本や経営理念などにも関わるデジタル改革であるため、正社員やマネージャーレベルの権限を持った人材の確保を検討していきたい。少なくとも、人材を獲得したから、外部と契約したから丸投げで問題ないというマインドは捨てるべきだ。
社内でDX研修を行う
社員全員の意識改革が必要となるため、DXを見据えた研修を計画してはどうだろうか。デジタル化で必要なスキルを明文化し、必要な社員には外部研修なども検討したい。
社内でスペシャリストの育成をする
上記のDX研修やスキルの見極め、本人の希望があれば、社内でDXスペシャリストを育成してもよいだろう。社内のリソースのみでOJTが難しいようなら、協力会社と一緒にDXに取り組む、一時的にスキルの高い派遣社員を雇いOJTを行う方法もある。
社内にスペシャリストがいると、意思決定プロセスに内部から関わることができ、プロジェクト終了後も自社でPDCAサイクルを回せるというメリットがある。
DX人材に必要なマインドセット
課題設定力
DXプロジェクトは、経営陣や現場が「不満を持っている」「変えなければならないと思っている」のは明らかなものの、何が不満で、何を変えなければならないのかが不明瞭であるケースが多い。経営陣や現場の声を聞きつつ 、常に変化し続ける経営状態、業界を取り巻く環境などを加味して適切な課題設定をする能力が求められる。
心理的安全性の確保
要件定義の前に本音を聞き出さなければ意味がない。しかし、「こんなこと言ったら気を悪くするのでは?」と思う人もたくさんいる。少なくとも、プロジェクト内だけでも心理的安全性を確保するよう、リーダーが働きかけねばならない。
社内・社外の調整力
経営陣や現場の声を聞いていると、要件定義や使用ツールなどを調整しなければならない場面が頻出する 。そのような変更に伴い自社のDX推進に関わる企業に対してプロジェクトの予算や役割、スケジュールなどを調整してもらうはずだ。社内もしくは社外の片方の声にだけ耳を傾けていては、もう一方に対する信用を落としプロジェクトはうまくいかなくなる。一筋縄ではいかないのがDX プロジェクトだ。
DX人材の課題
多くの企業では、DX人材の不足が課題となっている。外部から人材を獲得するにしても、自社内でDX人材を育成するにしても 、先述したスキルやマインドセットが必要だ。また、社内全体のリテラシー向上も課題である。システムだけDX進めても社内の人間が使いこなせなければ意味がないからだ。DX人材の確保と、DX化移行への啓蒙活動を並行して行っていきたい。