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Features Ideas 公開日:2019.02.26

MaaS成功のカギは各社連携のリーダーシップ──都市交通計画の第一人者に聞く

MaaSによって街は大きく変わる。そのためには各交通サービスや関連サービスの連携は不可欠だ。

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 いま全国各地で、民間企業主導によるMaaSの実証実験が盛んに行われている。トヨタと西日本鉄道による複数の交通手段を利用した「福岡MaaS」や、東急電鉄が伊豆エリアで実施するシェアリングバスの「観光型MaaS」、小田急電鉄とヤフーの自動運転バスによる「小田急版MaaS」など、鉄道各社も意欲的だ。

 各社が取り組む実証実験は技術確認の意味合いが強いこともあるが、自動運転やシェアサービスなど一部のモビリティ利用にとどまっているケースが多い。

「日本ではまだMaaSの概念が曖昧で、なんのためにMaaSを機能させるかという社会課題対策の目的もはっきりしていない。MaaSの理想形は、あらゆる交通手段を統合・最適化して、予約・案内・決済までシームレスに利用できる新しい交通システムであること。従来からある日本の交通システムの課題に対する新しい一つの解き方になると理解している」。都市交通計画の第一人者で、横浜国立大学理事・副学長の中村文彦教授だ。

 重要なのは民間企業によるビジネス視点だけでなく、MaaSが社会の課題にどう対応していけるか。例えばフィンランドのMaaSグローバルの「Whim」は、地球温暖化対策としてCO2を排出する自家用車の使用を減らして公共交通に移行させる、という社会課題に対する明確な対策目的のもとに機能している。

 また、フィンランドでは予約から決済までを含めてMaaSとするが、これは消費者にMaaSを利用すれば自家用車を使うよりも安く済むことをわかってもらうため。アプリのなかで1カ月や半年の購入金額も提示し、自家用車を所有するより得であることを理解してもらうことではじめて、MaaSを選んでもらえるというわけである。

 中村氏は、2018年12月に設立された日本初の産官学によるMaaS普及促進団体「JCoMaaS(Japan Consortium on MaaS、ジェイコマース)」の代表理事に就任予定だ。産官学の連携を目指す「JCoMaaS」は、中村氏をはじめとした都市交通の課題を研究する専門家と、MaaSで必要となる技術を持つ事業者間の連携を使命とする。そして、これから日本のMaaSに対する“目的”を明確にしていく。

国際競争力のあるMaaS構築を目指すために

 日本の交通システムの課題は、道路混雑、交通事故、環境問題、福祉問題(高齢者、障害者)、景観問題、まちづくり問題など多岐にわたる。都心と地方でも課題は異なるが、MaaSが本領を発揮するのは主に地方だと中村教授はいう。

「交通が衰退が進む地方において、高齢者の外出を促進して健康寿命を伸ばし、医療費負担を減らすことや、インバウンドで観光の満足度を上げ、経済を活性化すると同時に、訪日外国人によるレンタカーなどの交通トラブルを減らすこと、自然災害の際の情報共有、耳や目の不自由な身体障害者の支援などがある」

 解決・支援すべきこれらの社会課題や対象に対して機能するという枠組みのなかで、資金のある民間企業がビジネスとして参入して一気に変えていく。これが日本版MaaS発展のあるべき道筋だ。

 「しかし企業でも自治体でも、そこまでの理解は浸透していない。政府でさえ、いままさにMaaSをどう構築していくかについて議論がなされている段階。私自身も講演会などを多数実施して、理解の普及を図っている。JCoMaaSによる産官学の連携促進も需要になってくる」(中村氏)

日本版MaaSでは自治体主導が理想

 MaaSを機能させる上で重要なのは、あらゆる交通手段をシームレスに利用できるようにすることである。事業者間の競争などで特定の路線や交通モードが利用できなければ、MaaSの優位性は概ね損なわれてしまう。

 既に様々な地域で民間の主導により実証実験が行われているが、誰かがまとめていかなければバラバラにシステムが構築されてしまうかもしれない。理想は自治体主導だ。日本各地で生じている競合他社による利用者の争奪戦やサービスやインフラの重複も本来なら自治体がまとめていくべきだろう。

 ただ現状では、自治体主導はハードルが高い。「これまで自治体は地元の交通にほとんど関わってこなかったこともあって、事情が十分にわかっていない」(中村氏)からだ。そんな状況で、地方予算も乏しい自治体が民間事業者のMaaS構築に対して口を挟むのは難しい。こうした既存の課題もMaaSを機能させるために解消していく必要がある。

 ドイツでは交通産業の無駄な競争を防いで、公共交通の魅力を高めるため、ほとんどの中規模都市から大都市で、運輸連合という仕掛けが機能している。これはバスや鉄道の複数の事業者間からなる協働組織で、料金や時刻表、外装まですべて統一し、利用者の争奪戦やサービスやインフラの重複を解消する目的で生まれた。MaaSでは、こうした事業者間の競争を避け、情報やインフラもオープンな状態にする必要があり、ドイツでは運輸連合のおかげで導入の素地ができていたといえる。

 ドイツでは交通資本に多額の税金が投入されており、事業者の収益で運営されている日本の交通とは事情が異なる。このため、ドイツの運輸連合の機能をそのまま日本に持ってくればいいとはいえない。それでも、交通各社をまとめていくための工夫は必要だろう。中村教授はそこに尽力していく意向だ。

「簡単なことではないが、今後MaaSの認識が社会に浸透していくなかで、地域の交通政策にMaaSが機能すると認識してもらえる日がきたら自治体主導が実現する可能性もある。もちろん資金面も含めて民間事業者の協力は必須。こちらからもJCoMaaSを通じて、自治体に働きかけていきたい」

 一方で、民間の動きが自然とまとまっていく可能性もある。民間も事業者間の垣根を取り払わなければ、便利で優れたシステムを作ることはできない。優れていなければ結局消費者に見捨てられ、淘汰されていく。例えば、ある地域で1社だけが限られた交通手段で囲い込みをしても、どこかのベンチャーが気付いて、よりシームレスで使い勝手のよいMaaSを提示するようになるだろう。

MaaSで都市のあり方が変わる

 今後、自動運転車やシェアリングサービスが本格的に機能し、都市の機能やあり方が変わってくると、MaaSのサービスも考え方が変わっていく可能性がある。

「日本社会に自動運転車が普及すれば、車の形が大きく変わるかもしれない。運転席や助手席などの区別がなくなれば、車内を室内空間として使えるようになり、会議室にもなり得る。すると、建物の形や使い方も変わってくる。シェアリングが普及すれば自家用車が不要になり、家の駐車場もなくなって庭が出来たり、街中の駐車場の形も変わる。

 そうなると街の形が変わり、道路のあり方も変わってくる。例えば横浜市では現在、市内の12%を道路が占めていて、道路の90%以上が車で埋まっている。その割合が変われば道路を減らして、街に公園を作れるかもしれない。そうなれば人が暮らす空間も変わっていくのかもしれない」(中村氏)


井上 真規子=verb
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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