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Features Business 公開日:2018.11.26

“埋もれた技術を世界へ”──Hello Tomorrowがつなぐ次代のコミュニティ

埋もれたままになっている優れた技術(Deep Tech)を掘り起こし、社会の課題を解決する──。Hello Tomorrowの取り組みを紹介する。

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社会への実装が前提のアイデアを発掘

 フランスのNPO法人「Hello Tomorrow」による活動が、いま話題を集めている。2011年に設立された同団体は、大学の研究室などから生まれた「Deep Tech」を積極的に発掘して育て、スタートアップ、事業会社、投資家、アントレプレナーらがグローバルレベルでつながるコミュニティの形成を目指す。

 そもそもDeep Tech とは何か。Hello Tomorrowとボストンコンサルティンググループ(BCG)の定義によれば「Deep Techイノベーションとは、独創的かつ複製困難で特許化されている最先端の科学技術を使って構築された、破壊的なソリューション」となる。日本の窓口を務める日本ディープテック協会 理事の渡邊康治氏は「放っておいたら研究室の中でお蔵入りしてしまうような科学的成果は世界中に山ほどある。これを磨き上げて世の中の社会課題解決の解決に役立てることが大きな狙い。そのためにはグローバルで連携することが重要になる」と話す。

 この背景から、Hello Tomorrowでは社会実装を強く意識し、社会への窓となるコミュニティの醸成に力を入れている。活動から8年めを迎えた今では、250以上の大学やインキュベータ、各国大企業・投資家と連携し、のべ2万人以上の参加者が関わる世界規模のDeep Techコミュニティを形成するに至った。
Hello Tomorrowが形成するDeep Techコミュニティ

世界各地から4500チームが参加するコンペティション

 本部をフランス・パリに置き、英国、スイス、トルコ、ハンガリー、シンガポール、中国、日本、インド、パキスタン、ガーナ、ブラジルと各地にローカルハブを設置している。これらローカルハブが各国の大学を中心にDeep Tech発掘を手がけ、グローバルでの展開までをサポートする。

 具体的な活動の柱は、コンペティションの「Global Challenge(グローバルチャレンジ)」、業界のリーダーや関係者が一堂に会する「Global Summit(グローバルサミット)」である。

 グローバルチャレンジは2014年に始まり、2017年には110カ国から4000チーム、2018年は119カ国から4500チームが応募した。ここまで数が集まるのは、それぞれのローカルハブが大学や現地のベンチャーキャピタル(VC)と密接につながっているからである。法人組織でなく、プロジェクトチームで応募できることも特徴の一つだ。ただし開発初期段階であることが前提で、2018年はシリーズBの資金調達を受けている場合は不可となった。

 審査は2段階で行われ、Hello Tomorrowによってまずトップ500が選出される。トップ500に選ばれたチームは、グローバルサミットの開催前日に開かれる、世界中の投資家やVCが集まる「Investor Day」への参加権を得る。そしてトップ70(2017年実績)がグローバルサミットでの最終ピッチに進む。
Hello Tomorrowのおもな活動内容
 2018年は、デジタルヘルス、データ&AI、航空・宇宙、インダストリアル・バイオテックなど全12カテゴリーから募集している。カテゴリーが多岐にわたるのは、「可能性を狭めず、どこからでも入れるようにするため」(渡邉氏)である。最終的には、12カテゴリーの優勝チームの中から1チームをグランドウィナーとして選出。グランドウィナーには10万ユーロ(約1300万円)の賞金が贈られる。これまでのグランドウィナーはスイスの脊椎用インプラント、英国のドローン技術を用いた森林再生、ドイツの空飛ぶタクシー、インドのバナナ繊維を用いた生分解可能な生理用品と、技術もプロダクト/ソリューションもバラエティに富む。

 規模にそぐわない賞金額の少なさに驚いたかもしれない。ただDeepTechとしては、賞金よりも、「こうした場で自分たちを進化させてくれる投資家やアントレプレナーたちと出会うことが財産」(渡邊氏)と考えている。合計で3000人、キーパーソンやエキスパートが一挙に集うグローバルサミットは、そこにいる人たちと交流するだけでも得るものが多い。事実、グローバルサミットで自分たちを理解してくれる経営者と出会い、飛躍的に成長した企業もある。

中立な立場だからこそ間口は広い

 Hello TomorrowはNPO法人であるだけに、利益を目的としているわけではない。各界を結ぶハブとなり、あくまで中立の立場を貫くこと。それにより、利害関係を超えてさまざまなアイデアが集まりやすい環境を創ることを目的としているわけだ。

 「投資が目的だったり、アクセラレーションプログラムに入ってもらって大企業から資金を集めたりするモデルは世界各地にある。VCが実施するコンペティションは賞金額も大きく、実際に投資を受けることができる。

 それはそれで悪い話ではない。アクセラレーションプログラムは大企業と直結しているためメンタリングなどを含めたカリキュラムがきちんと整備され、場所も提供される。もちろん、そこから育ってくる企業もたくさんある。ただ、根本的には利益を出すために協力しているので、どうしても囲い込みになってしまう。このため、それだけでは満たされないニーズは多い。
日本ディープテック協会 理事の渡邊康治氏
 Hello Tomorrowが提供するのは資金ではなく、グローバルレベルでオープンに広くつながる組織。このプラットフォームを使い、自由な発想でいろいろな人たちが交流し合う。フレキシブルに人がつながれることから、大企業としても活用したいはずだ」(渡邊氏)

 テック系の投資では、そのときどきのトレンドに資金が集中する。例えば今なら、AI、IoT、バイオテックなどが中核分野であり、VCやアクセラレーションプログラムも先にテーマありきで課題を設定することがほとんどだ。最初にDeep Techを集め、その技術を、どんな課題に使うかというアプローチで臨むHello Tomorrowは、これら従来型の投資スキームとは明確に異なる。渡邊氏は「だからこそ、いろいろな技術が入ってくる。とにかく間口が広いのが特徴」と語る。

 ようやく取り組みが始まったばかりの日本では、認知度を上げることが最優先だ。各地の大学に足を運ぶのはもちろんのこと、定期セミナー「Deep Tech Meetup」の実施や、グローバルサミットの日本版「Japan Summit(ジャパンサミット)」を12月13日に開催するなど、活発にコミュニティづくりを進める。

 ジャパンサミットでは、パリ本部とは別に日本で応募した10チームを選出して「Japan Finals」と題した日本地区の決勝戦が行われ、優勝チームにはグローバルサミットでの最終ピッチ権が与えられる。すなわち、こちらで優勝して本戦に進む道もある。これまでの傾向ではどうしても欧米主導となってきたHello Tomorrowだが、渡邊氏は次のように期待を寄せる。

 「日本には何十年と積み重ねてきた、先進国の中でもトップクラスの素晴らしい技術がある。伝統的なマテリアルやバイオテック、農業などの技術もユニーク。今は国が資金を出さずに基礎研究の世界が回らなくなりつつあるが、社会実装が進むことで結果が伴えば、回り始めることもある。Hello Tomorrowのように世界中の資金が集まる仕組みが浸透すれば、まだまだできることはあるはずだ」(渡邊氏)


小口 正貴=スプール


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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