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Features Business 公開日:2019.01.22

GAFAの成長戦略の行方

中国BATが追随、IoTデバイスとAI技術ベースのサービスで対抗できるか。

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 年明け早々、米Appleの株価はiPhoneの不振を背景に一時値を下げたものの、2018年11月に同社の株式時価総額が約1兆ドル(約100兆円)に達し、世界1位になったことは記憶に新しい。その時点での株式時価総額のランキングでは、第1位がAppleで、第2位が米Amazon、第3位が米Alphabet(Google)、第4位が米Microsoft、そして第5位が米Facebookとなり、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)がトップ5を占めた。

 GAFAの時価総額を2010年初頭と2018年11月26日を比べると、9年弱で4.3~14.2倍に急増している(表1)。企業の時価総額は、投資家・株主などの成長への期待を反映しており、GAFAを取り巻くステークホルダーによる期待の高さを裏付けている。
(表1)GAFAの時価総額(出所:各社のIR資料)
 2018年の最新のGAFAの業績は、表2のとおりである。GAFAに共通していることは2010年以降、スマートフォンやタブレットといったモバイル機器の普及が加速するのに伴い、事業規模を拡大していることだ。2016年以降、先進国では個人向けのスマホ出荷数やインターネット接続契約数は飽和傾向にある。しかしながら、GAFAはいずれも売上高と純利益ともに成長を持続しているのが特徴である。
(表2)GAFAの業績(出所:各社のIR資料)
 そこでこの記事では、2019年におけるGAFAを取り巻く環境の変化や、GAFAのR&Dと事業開発の動向、競合の動向などを踏まえてGAFAの成長戦略の行方を占う。

スマホの世界市場は飽和状態

 民間調査大手のIDCによると、全世界における2018年のスマホ出荷台数は前年度比3%減で、世界最大である中国市場でも同9%減と予測されている。新興国でスマホの普及が続いているにもかかわらず、短期的には全世界市場は飽和状態にある。

 インターネット接続率は先進国市場で約90%と各種調査機関が報告しているが、その傾向は個人向けに限られている。ビジネス向け、とりわけIoT用途でのインターネット接続の成長は加速しており、大手通信キャリアの業績推移を見ると顕著である。

 米国モバイル通信キャリアの最大手の1社であるAT&Tの通信事業はビジネス部門(企業・政府機関などのビジネス顧客契約分、スマホ通話料の企業支払い分を含む)と、費者部門(個人の契約分)に区別されている。同社の2017年度のIR資料によると、消費者部門の契約数は前年度比2.2%減であるのに対し、ビジネス部門の契約数は前年度比11.1%増となっており、通信キャリアの企業・政府機関・公共セクターへの依存が相対的に高まっている。

 AT&Tは業績発表の中で、ビジネス部門におけるIoTの契約数を公表しており、前年度比で25%増加したという。5Gなどのブロードバンド環境のインフラ投資と共に、IoT関連 サービスが同社の成長戦略の最重要テーマの1つとなっている。なお、AT&TのIoT関連サービスは、センサーモニタリング、タブレット産業用途、コネクテッドカーなどのIoTデバイスのインターネットアクセスを対象としている。

中国市場でもIoTが成長の柱に

 中国のモバイル通信契約数は2010年以降高い増加率で成長してきたが、2015年以降の対前年増加率は5~8%に留まっている。中国のモバイル通信事業者の最大手であるChina MobileのIR資料によると、同社のユーザー数は2017年末で8億8700万だが、2016年の対前年増加率は2.4%、2017年は同4.8%となっており、今後の個人利用のユーザー数に関しては従来ほどの高い成長率は期待できない状況にあるとしている。

 一方、同社におけるIoT ベースのインターネット接続数は、2015年が6500万、 2016年1億300万、 2017年が2億200万と急成長している。そこで、China MobileはAI技術やビッグデータ処理とともに、スマートトコネクションと呼ぶIoTを成長戦略の1つとしており、中国のAlibabaやBaiduなどのインターネットサービス事業者との連携を通じて事業の拡大を図っている。

IoTのフロンティア市場はアジアなどの新興国

「Internet World Stats」によると2016年の全世界のインターネットユーザー数は70数億で、その過半数以上をアジア地域が占め、北米・欧州の先進国地域合計の15%強を大きく上回っている。インターネット接続率は北米・欧州では9割程度である一方、アジア地域は5割程度にとどまっている。こうした新興国市場では、インターネット接続率の高成長が継続しており、IoTのフロンティア市場としての位置づけが高まっている。

 GAFAは2010年ころから、北米・欧州市場に加えて、アジア地域を含む新興国市場で、事業拠点やR&Dを含むテクニカルセンターの構築に大規模な投資を続けている。GAFAの成長の源泉はインターネットアクセス数の増加であり、新興国市場は従来の個人向け事業とIoTのビジネス向け共に成長市場ととらえられている。ただし、中国のIT企業で「BAT」と呼ばれるBaidu、Alibaba、Tencentの3社や Huaweiなどの中国企業との競合が課題となっている。

増え続けるR&D投資と消費者向け新製品

 GAFAのこれまでの収益源は、Appleは消費者向けエレクトロニクス機器販売とサービス収入、Amazonはネット通販とクラウドサービス収入、GoogleとFacebookは広告収入である。

 GAFAは、収益源であるコア事業の売り上げの拡大と併行して、収益の新しい柱の構築に向けて2010年代から大規模なR&D投資を継続的に行っている。2017年のグローバル企業のR&D支出ランキングによると、Amazonが第1位で、Alphabet(Google)が第2位、Appleが第9位、Facebookが第20位になっている。

 2018年度についてもAmazonは212億ドル (第1~3四半期の9カ月、前年同期比30%増)、Alphabet(Google)は154億ドル (同、同25%増)、Appleは142億ドル(12カ月、同22%増)、Facebookは74億ドル (第1~3四半期の9カ月、同27.5%増)と、R&D投資をさらに増やしている(表3)。
(表3)GAFAのR&D投資額(出所:各社のIR資料)
 2010年代半ばころから、GAFAに共通するR&D投資のテーマとして、AIベースのインターネットサービスの技術や製品の開発が挙げられる。R&D投資領域には、ウェアラブルデバイス、ストリーミング動画デバイス、スマートスピーカーのようにコネクテッドデバイスと呼ばれる新しい消費者向けエレクトロニクス製品の開発と、インターネットサービスのエコシステム構築が含まれる。

 2018年度はその領域でのR&D投資をさらに加速し、従来のモバイル端末であったスマホに限らないIoTデバイスによる多様なインターネット接続を具現化することを成長戦略の柱としている。

 2018年度の各社の動向には以下のとおりである。
  • Apple:AppleWatchやAppleTVなどのIoTデバイスのiOS・SDKのバージョンアップ、開発事業者とのエコシステム構築
  • Amazon:スマートスピーカーに限らない多様なAmazon Echo家電のリリース(例えば、マイクロオーブン音響システム、セキュリティカメラ、時計など)。スマートホーム向けのAmazon Alexa/Echoに基づく消費者向けエレクトロニクス事業の展開
  • Google:GoogleのスマホであるPixelとコンピュータビジョン、AIのソフトウエア技術を組み合わせた消費者向けエレクトロニクス事業の強化。Google Assistanceを主軸とするIoTやスマートホームの実現に向けたエコシステム強化施策の展開
  • Facebook:買収した米Oculusのハードを主軸とするVR(バーチャルリアリティ)のエコシステムの強化

AIアシスタントによる消費者向けと自動車向けサービス

 GAFAは、Amazon AlexaやGoogle Assistant、Apple Siriといった自然言語・音声認識入力による新しい各種のインターネットサービスの創出を推進している。多様な家電のインターネット接続を通じたスマートホームの実現など、IoTデバイスとAIアシスタント技術を連携させた新しい消費者向け製品のエコシステム構築がその狙いである。各社がバラバラに普及・推進を図っているAIアルゴリズムやハードウエアOS・プラットフォームのデファクト標準の獲得をめぐる激しい競争を繰り広げている。

 GAFAはApple CarPlayやGoogle Android Auto、Amazon Alexa/Echo Autoといった自然言語・音声認識アルゴリズムを、車載情報システム向けに展開している。各社の戦略は、OS・プラットフォームの自動車産業でのデファクト標準化とエコシステムの構築である。2018年の目立った発表としては、Googleとルノー・日産自動車・三菱自動車との間での2020年に向けた長期提携が挙げられる。スマホの接続を介さずに、Android AutoのOS・プラットフォームに基づく車載情報システムを開発するとしている。

 GAFAは自動運転に対してもR&D投資を継続している。2018年を通じて、Googleはグループ会のWymoによる自動運転のテスト運転を継続している。Appleは自動運転関連の事業方針については未発表であるものの、自動運転関連のR&Dを継続的に推進していることが第三者の調査会社から報告されている。AmazonはAmazon Alexa/Echo Autoに加えて、自動運転に関連するクラウドサービスの提供を図っている。

エンタープライズ顧客向けクラウド事業を拡大

 GAFAは企業、政府・公共セクターなどのエンタープライズ顧客向けに、Amazon AWSやGoogle Cloud、Facebook Chatbotといったオープンクラウドサービス事業を拡大している。 Amazon AWSは断トツのトップシェアを持ち、Google CloudはMicrosoftと共に、Amazonを追撃している。

 GAFAは、2015~2016年にかけて、消費者向けインターネットサービス用のAI(機械学習)のAPIや開発環境の整備に本格的に着手した。エタープライズ顧客向けについても、2018年に具体的なAI(機械学習)のAPI・開発環境製品の提供を展開している。

IoTデバイスとAI技術に基づく成長シナリオ

 2018年12月下旬の「Appleショック」(Appleの株価下落を引き金とするハイテク株全般の下落)に見られる通り、スマホン需要の飽和が業界で話題となっている。ただし、こうした傾向は過去2~3年の中期的トレンドであり、GAFAの成長戦略にとっては織り込み済みと考えるのが妥当である。この市場環境下で、GAFAは今後、IoTデバイスとAI技術ベースのインターネットサービスを組み合わせた成長シナリオがより鮮明となると予想される。

 GAFAの中核事業は従来、消費者向けインターネットサービスをベースとしていたが、今後、AI技術ベースのEnterprise顧客向けのビジネスモデルとエコシステム構築が、成長戦略の中核を占めると予想される。具体的には、自動車、家電、流通、物流、メディア・コンテンツ、デジタルヘルスケアといった業界で顕在化していくであろう。

中国BATはGAFA追随戦略を展開

 急成長している中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)は、GAFAが次世代の成長戦略の柱と位置付ける事業で追随戦略を展開している。事業開発においてもGAFAと同様に提携パートナーの囲い込みと、エコシステム構築戦略を踏襲する。

 例えば、AI技術開発への投資(AI技術者の採用、シリコンバレーでのAI研究センターの設立)や、BaiduやAlibabaなどが開発したOS・プラットフォームに基づく自動運転ソフトのオープンソース化が挙げられる。これらは、GoogleがAndroidで展開したエコシステム構築戦略を踏襲したものである。

 BATは2017年ころから、欧米の自動車メーカーやエレクトロニクスメーカー、自動運転のテクノロジープロバイダー関連企業との提携関係を急速に展開しており、欧米や日本の百数十社の企業がエコシステムの参画に手を挙げている。

 自動運転プロジェクトには中国資本の自動車メーカーが参画しており、スマートシティにおけるIoTにおいてはBATと中国地方政府によって推進されている状況もあり、欧米・日本企業のBATのエコシステム参画は、中国市場での同ビジネス機会を狙いとしていると見られる。

 一方、BATも、GAFAと同様に成長が期待される途上国市場でコア事業を展開しており、IoT関連事業に関しても今後、途上国市場でのGAFA対BAT間でデフクト標準化やエコシステム構築における競争が展開されることが予想される。

新興市場でBATと競合へ  

 BATは、中国中央・地方政府の支援の下、自動運転やスマートコミュニティなどの公共セクターでエコシステムを構築している。これらは中央政府や地方政府双方の規制・許認可を前提としているため、GAFAにとっては参入障壁の高い領域となっている。

 GAFAのグローバル展開は周知の実績であるが、一方、BATも過去数年で中国本土以外の市場地域でGAFAへの追随戦略に着手している。 今後、アジアやアフリカ、中東といったの新興市場で、IoTや MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のテーマで、GAFA対BATのデファクト標準の獲得やパートナー囲い込みの競争が顕在化してくると予想される。

高野 一郎=日経BP総研 客員研究員


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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