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Features Business 公開日:2019.01.07

【2019年はこうなる】世界的に加速する「自動運転✕スマートシティ」

公共交通と自動運転車を組み合わせた、よりスマートに移動できる街が世界に広がる。

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 自動運転を組み込んだスマートシティを構築する試みが、世界的に活発化している。モビリティ・スマートシティ構築の動きは必ずしも今に始まったことではないが、最近増えているのは、デジタル技術を活用した、いわゆるMaaS(Mobility as a Service)を核としたまちづくり。2019年は、その中のラストワンマイル部分に自動運転を取り込んだ例が、世界的に広がりを見せる。

 モビリティ・スマートシティづくりの背景にあるのは、交通渋滞や交通事故、モビリティに起因する二酸化炭素排出の深刻化といった社会課題だ。これに対し、多くの都市が志向するモビリティの考え方の基本は、徒歩、自転車、バス、鉄道などの公共交通機関を優先する道路や都市構造とすること。そのうえで、自宅から公共交通機関の駅までなどのライトワンマイルの交通手段に自動運転車を運行しようと計画している。複数の交通機関を効率的に組み合わせて利用できるようにする「マルチモーダル化」の一部という位置付けである。

<欧米> ラストワンマイルへの自動運転車の導入

 米国を代表するモビリティ中心のスマートシティ・プロジェクトであるコロンバス市の「Smart Columbus」では、ラストワンマイルの手段としてEV(電気自動車)の自動運転車を運行して、オハイオ州の交通当局であるCOTA(Central Ohio Transit Authority)が運営するBRT(Bus Rapid Transit)と連携させる構想を持っている。
米国コロンバス市で運行されているBRT(出所:COTA)
 Smart Columbusは、DOT(米国運輸省)が主導してアイデアを競うコンテスト「Smart City Challenge」に優勝し、5000万ドルの資金援助を受けて、最新のモビリティシステムの導入を開始した。2018年5月17日には、同システムの中核であるオペレーティングシステムの第1バージョンを完成させた。

 同オペレーティングシステムが管理・制御するテーマは8つあるが、特に新技術の導入に力を入れており、EVを使った自動運転車の導入を進める。同市のEaston地区の一般道路でEVの自動運転車を無人でフリート走行させ、BRTに連結させる計画である。

 ポートランド市も同市が進めるスマートシティ計画「Ubiquitous Mobility for Portland」の中で、ラストワンマイルの自動運転プロジェクトを本格化させる計画を策定し、実現に向けて動き出した。そのために、自動運転車を交通システムに組み込む戦略「SAVI(Smart Autonomous Vehicles Initiative)」を策定し、2018年6月に市議会によって採択された。

 ポートランド市の交通当局の担当者によると、自動運転車は二酸化炭素削減効果のほか、渋滞の緩和や同市が目標とする2025年までに交通死亡事故をゼロにする「Vison Zero」にも貢献できることが評価された。これにより自動運転車の走行について規制緩和が図られ、実証が本格化する。同市は、自動運転車の導入にあたり、米Waymo、米Uber Technologies、米Lyftと提携するという。

 欧州でも例えば、ドイツ・ベルリン市は、スマートシティ・プロジェクトの中で、公共交通機関とEV、自動運転車などの複数の交通機関を最適に活用するマルチモーダルシステムの検討を進めている。ベルリン市中心部にある実証サイト「EUREF-Campus」内でドイツ鉄道グループのIokiが仏Easymileの自動運転EV「EZ10」を採用して、サイト内を固定ルートで走行する実証を2017年12月にスタートさせた。今後はオンデマンドで配車するサービスも展開予定で、電車やバスと組み合わせて自動運転車を使った「ドア・ツー・ドア・モビリティ」を提供する計画としている。
ドイツ・ベルリンのスマートシティプロジェクトサイト「EUREF-Campus」内で始まったミニバスの自動運転走行の様子(出所:Ioki)

<シンガポール> 国を挙げて各種の自動運転車の導入を推進

 アジアでは、シンガポールが国を挙げて推進しているスマートシティ・プロジェクト「Smart Nation Singapore」の中で、自動運転車を市内交通システムに積極的に導入し始めている。同国の交通当局であるLTA(Land Transport Authority:陸上交通局)は、オンデマンド型のバスシャトル・サービスをスタートしているが、そうしたラストワンマイルの交通手段として自動運転車の導入を支援している。

 シンガポールでは、米国の自動運転車のベンチャー企業であるnuTonomyが自動運転車の公道走行テストをスタートさせたほか、LTAは2017年4月、シンガポールのエンジニアリング会社であるST Kineticsと共同で、電動バスの自動運転プロジェクトを推進していくと発表した。2020年までの3年間に、NTU(Nanyang Technological University:ナンヤン工科大学)やジュロン島などで走行試験を行い、将来的にはオンデマンド型のバスサービスを市民に提供していく考えだ。

 NTUは、自動運転の開発拠点としての存在感を高めており、2018年4月に、同国の公共交通運営会社のSMRTおよびオランダの自動運転開発企業の2getthereとの3者共同で、自動運転システムを導入するプロジェクトを進めることで合意し、MOU(覚書)に署名した。NTUが導入を計画している自動運転システムは、2getthereが開発した「GRT(Group Rapid Transit)」である。座席数は8人分、24人乗りで、磁気ペレットからなる軌道上を自動走行するタイプで、最高時速は40㎞である。2017年11月にNTUキャンパス内の350mのルートで実証走行が行われており、MOUを受けて2018年から本格導入を進め、2019年までにNTUキャンパス全体に拡大する計画である。毎日200〜300人の乗客にサービスを提供する予定という。
シンガポールNTU(ナンヤン工科大学)キャンパス内に試験導入された2getthereが開発した自動走行システム「GRT(Group Rapid Transit)」(出所:NTU)
 こうした都市ニーズに応えて、ラストワンマイル向けの自動運転車を開発する企業も登場している。フランスの自動運転車の開発企業であるNavyaは、電動の自動運転シャトルバス「Autonom Shuttle」を開発し、自治体の交通当局と連携しながら実証走行を進めている。特に、公共交通機関の運用機関である仏Keolis、オーストラリアのモビリティ会社であるRAC(Royal Automobile Club)と提携し、フランス、オーストラリア、カナダ、シンガポールで「Autonom Shuttle」を使ったラストワンマイルの走行実証と商用化を検討している。

<中東UAE> 自動運転車を交通手段の中核にする構想が進展

 中東を代表するスマートシティである「Masdar City」でも、ラストワンマイルの手段として、「Autonom Shuttle」の採用が決まり、2019年から走行実証がスタートする。「MasdarCity」は、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ政府が建設を進めているスマートシティで、2030年ごろまでに人口約5万人、面積約6.5km2の人工都市を建設する計画だ。Masdar Cityでは2006年の建設開始当時から、二酸化炭素を発生しない自動運転モビリティを模索してきたが、ようやく候補が見つかったことで、UAEだけでなく中東各国でもモデルケースとして普及する可能性が出てきた。中東・地域で自動運転車が採用されるのは初めてである。
UAEのスマートシティ「MeadCity」で採用が発表された仏Navyaの自動運転シャトルバス「Autonom Shuttle」(出所:Masdar)
 UAEのドバイ政府は、ドバイ全体をスマートシティ化する「Smart Dubai 2021」の中で、2030年までにドバイにおける交通手段の25%を自動運転とする戦略「Dubai Autonomous Transportation Strategy」を策定した。そのために、交通当局であるRTA(Roads and Transport Authority)は、ラストワンマイルの交通手段として、米Next Future Transportation製の自動運転EVバス「pods」の導入を検討している。RTAは「pods」を実用化するための開発費として41万ドルを拠出し、2018年からドバイ市内でテスト走行を始めた。「pods」の特徴は、走行中に15〜15秒で連結、5秒で切り離しが可能で、各乗客の目的地に合わせて、複数の車両を切り替えながら最適に運航できる点だ。連結した車両間を乗客が移動することもできる。複数が連結すれば自動運転バスとなるが、1台ならばオンデマンドの配車タクシーとして機能し、乗客はスマートフォンから呼び出すことも可能だ。
ドバイ政府が導入を検討している自動運転EVバス「pods」(出所:RTA)
 ドバイ政府はさらに、地上交通だけでなく、自律飛行するマルチコプターを使った「空中タクシー」や、減圧したチューブ内を車両が空中浮上して時速1220kmで進む「Hyperloop」の導入も進めている。こうした先進交通手段を積極的に採用することで、モビリティのイノベーションハブになる意図を持っている。

 世界最大の産油国であるサウジアラビアは、エジプト・ヨルダンに隣接する紅海沿岸に大規模スマートシティを建設するプロジェクト「NEOM」を推進している。同国皇太子のMohammad bin Salman Al Saud氏が2017年10月に開催された投資フォーラムで明らかにしたもので、化石燃料に依存した同国のこれまでの経済構造から脱却し、先進技術分野への投資を拡大して、製造業、物流、観光など経済の多角化を目指す。

 NEOMに導入されるソリューションは、エネルギー・水、バイオテクノロジー、食品、デジタル技術、先進製造技術、メディア産業、エンターテインメント産業など広範におよぶが、モビリティも重要なテーマの一つとして挙げられている。消費電力は太陽光や風力などの再エネですべてまかなうとしており、EVが移動手段の中心になるとみられる。さらに、自動運転車やドローンを活用して自動化を徹底したモビリティシステムを導入する計画である。

自動運転、MaaSを取り入れたモビリティ・スマートシティの世界動向については、2018年12月に日経BP総研が発行した「世界モビリティ・スマートシティ総覧」に詳細を掲載しています。詳しくは、こちらをご参照ください。



本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc

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