sansansansan
Created with Snap
Pocket HatenaBlog facebook Twitter Close

Features Business 公開日:2018.08.21

スポーツ分野で培ったデータ活用ノウハウを健康分野にも

アスリート向けがすべてじゃない! コンディション管理のノウハウは多様な市場を生む。

お気に入り
 スポーツテクノロジーとして注目を集めるようになったアスリートモニタリング。アスリートの身体的・精神的な状態のデータを把握し、分析することで、トレーニングの質や量を適正化し、ケガをなくす。加えて、試合の当日に備えてコンディションを整える。

 前回(vol.2 「データに基づきアスリートのベスト状態をつくる、能力向上とケガの減少を両立」)は、その効果や、スポーツ界での広がり具合を紹介した。

 スポーツ分野は、これまでテクノロジー、特にデジタルテクノロジーからは比較的縁遠かっただけに、これからの市場の広がりは大きい。スポーツ業界がファンを拡大し、興行収入や広告収入を増やしていくと考えれば、スポーツテクノロジーの市場も成長していくと考えていいだろう。

 ただ、スポーツ産業ではなく、スポーツテクノロジー産業としてみると、実は市場はもっと広がりがある。スポーツ以外の分野に適用できるからだ。今回は、アスリートモニタリングによるデータ取得や分析の応用先、応用例を基に、未来の社会がどのように変わるかを見ていこう。

 最も影響が大きいのは軍事分野だ。「海外、特に米国や英国、オーストラリアにおいてスポーツテクノロジーが盛んな理由は、防衛予算によるところも大きい」と橋口氏はいう。スポーツのトレーニング方法は、兵士の管理手法とよく似ており、動体視力や、ハンド・アイ・コーディネーションと呼ばれる、見るとすぐに反応する能力、あるいは正しく回避する能力など共通する能力は多い。スポーツ選手のケガも、兵士の腰やひざの故障とも共通する。米国の国防総省(DoD)の配下にあるDARPA(高度研究計画局)が、スポーツ関連の研究開発を数多くサポートしていることもよく知られている。
スポーツ産業の市場規模(米国の調査会社Plunkett Research調べ)
 スポーツテクノロジービジネスの規模を見ると、海外と日本とではかなりのギャップがある。例えば米国の調査会社Plunkett Researchの調査によると、米国のスポーツ産業は2017年に約5200億ドル(約53兆円)に達している(同社のホームページ)。これに対して日本のスポーツ産業の市場規模は、その10分の1、5.5兆円程度にとどまる(2016年6月に閣議決定された政府の「日本再興戦略 2016」より)。GDPが3倍米国の方が大きいことから、日本でも15兆円にすべきと目標を掲げているが、それでもその差は大きい。この大きな原因の一つが、軍事市場の有無である。
 とはいえ、応用先は軍事だけではない。例えば一般のビジネスパーソン向けとして、いかに睡眠の質を上げてケガを防ぐか、どのようなときに仕事のパフォーマンスを上げられるか、ということに応用できる。長時間勤務の長距離ドライバー、長時間手術する外科医など、高い集中力を長時間維持しなければならない職場では、より深刻な問題である。どこまで効率を維持できるのか、どこに効率が低下するしきい値があるのかをデータで示せれば、業務効率の高め方を考えやすい。

 高温の作業所での作業従事者に向けては、熱中症対策などに適用できる。具体的には、HRV(Heart Rate Variability:心拍変動)分析を使う。HRVは、心臓の拍動リズムが時間と共に変化する様を示すデバイスで、例えばアメリカンフットボールリーグのNFLでは、HRVを使って選手の心拍変動データを記録している。心拍変動を分析することで、アスリートのトレーニングからの回復レベルやストレス耐性などを容易に把握できるからだ。これと同様の手法を、倉庫の作業者に適用することで、熱中症の予防に役立てられるかもしれない。熱中症対策は、学校でのイベントや工事現場、倉庫での作業などでも必要になり、需要は大きい。また、HRVのセンシングは、日々の眠気対策にもなるという。

 日本が直面している超高齢化社会で、社会負担の削減への切り札にもなり得る。「ケガを防ぐことは、高齢者にとっても大切です」。橋口氏は話す。「年齢を重ねると、たいていはひざや関節、骨が弱ってきます。そこで転倒して骨折すれば、そのまま寝たきりになってしまう危険性があります。寝たきり高齢者は医療費増加という問題を引き起こします。スポーツテクノロジーで得られた知見を活かし、骨量や筋量のアップを図れば、寝たきり生活を回避できるようになります」

データ分析スキルの強化が欠かせない

 とはいえ、現在のアスリートモニタリングはまだ専門システムの域を出ない。例えば高齢者向けの利用シーンで、「どのようなデータで、それがどのような状態を意味するから、どのように行動すればよい」ということを読み解き、利用者にわかりやすく説明するには、それなりのスキルを要求される。

 HRVは、交感神経と副交感神経の状態を把握でき、メンタルな情報を取るのにも適している。ただ、心拍リズムの変化を読み取れる人がいなければ、アドバイスできない。つまりアスリートモニタリングの広がりのためには、データ分析のスキルを備えた人材の育成が欠かせない。

 データ予測、リコメンデーションをアプリで実施する方法もあるが、現時点では、まだその精度は十分高まっているとは言えない。精度を高めるにはクレンジングされたデータの量を飛躍的に増やす必要がある。
 もちろん、センサーのコストが高いなどの課題も残されている。「例えばGPSデバイスは1個40万円ほど」(橋口氏)。10人のデータを取ろうと思えば、400万円以上のコストがかかることになる。橋口氏は、「センシングデバイスの民主化と、データ収集インフラの整備はこれからの課題。その意味で、インフラとしての5G(第5世代のモバイル)通信に期待しています」と話す。


津田 建二
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

関連記事

DIGITALIST会員が
できること

  • 会員限定記事が全て読める
  • 厳選情報をメルマガで確認
  • 同業他社のニュースを閲覧
    ※本機能は、一部ご利用いただけない会員様がいます。

公開終了のお知らせ

2024年1月24日以降に
ウェブサイトの公開を終了いたします