商品やサービスを開発する過程で、高齢者、身体の一部が不自由な人、外国人といった人々を巻き込む(インクルードする)手法「インクルーシブデザイン」。健常者や日本人だけでは気づけなかった発見を取り込め、機能的で独創的なデザインを実現できるとして、近年注目を浴びている。


 この分野の第一人者であるインクルーシブデザイン・ソリューションズの井坂智博社長に、デジタル時代におけるインクルーシブデザインの要諦を聞いた。

見栄えだけの問題じゃない

活動に何らかの制限を持つ「リードユーザー」を考慮した設計は、結局、その他の大勢のユーザーにも使いやすくなる。インクルーシブデザインはこの考え方が特徴的です。


インクルーシブデザインのワークショップの様子。リードユーザーと共にフィールドに出て観察する(写真提供:インクルーシブデザイン・ソリューションズ)

井坂氏:多様な人々にとっての使いやすさを考慮するユニバーサルデザインに関して、企業では多くの場合、「配慮は大切だが、事業としては成り立ちにくい」と理解されがちです。しかし、例えば欧州では車椅子が通りやすいように配慮された駅は普通にあります。そういう駅構内は、例えばベビーカーを押すお母さんにとっても歩きやすいし、当然、健常者にも歩きやすい。そのようなデザインは社会に付加価値を生み出すわけです。


 私たちが関わったわけではありませんが、セブン銀行のATMがインクルーシブデザインの考え方を取り込んだ成功例として挙げられます。ATMのデザインにリードユーザーを巻き込んだことで使いやすいという評価を得るようになりました。それがセブン銀行の付加価値となっていて、このATMがあるとショッピングモールの集客力が上がるという声もあるそうです。


最近は各所にデジタルサービスが普及しつつあります。一方、高齢者にとっては、それらは使いづらい面もあります。ここにインクルーシブデザインはどのように応用できそうですか。


井坂:ある外資系企業のチームと一緒にインクルーシブデザインに取り組んだことがあります。その時、リードユーザーの一つである高齢者を対象に、「インターネットやスマートフォンなど、デジタル技術を使ったサービスはどうあるべきか」というテーマを掲げて取り組みました。すると、リードユーザー、つまり高齢者にとって、「Webサイトが使いにくくて高齢者がページからすぐに離脱する」ということが分かりました。


 ほとんどのリードユーザーは、Webの1ページめか2ページめを見ただけで閉じてしまう。ただしその理由を聞いてみると、画面の使い勝手というよりは「クレジットカードなどの情報を入れることについて怖い」というものでした。


インクルーシブデザイン・ソリューションズの井坂智博社長

 対策を議論するなかで、「本質的なところから考えると、高齢者向けのデジタルリテラシーのセミナーを自治体などと組んで催したほうが、サービスの利用促進につながるのではないか」という話になりました。


 もし彼らが単にWebの使い勝手を改善するという視点しか持っていなければ、このような結論には至らなかったでしょう。こうした幅広い視野でものやサービスの設計を考えられるようになるのが、インクルーシブデザインのメリットです。


 このプロジェクトと直接の関係はない話ですが、お金を持っている高齢者ほどよく勉強していて、デジタルに関する様々なリスクに敏感です。例えば、ポイントカードはめったに作らない。ポイントカードを作るメリットと、行動履歴を取得されることの不利益を勘案する感覚を持っているからです。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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