鳥取県教育委員会では2019年2月、東京のオリィ研究所が開発した分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を、2019年度から本格的に教育現場へ導入する方針を固めた。オリヒメを通じて、病気療養中の児童や生徒が、病室や自宅にいながら学校の授業や行事に参加できるようにする。鳥取県ではこれまで2年にわたって実証実験を継続。分身ロボットの活用で、学校に通えなかった児童や生徒が「学校に復帰しやすくなる」という効果が確認されたという。


 分身ロボットとは、いわば「もう一人の自分」。例えば、重い障がいや病気を患って学校へ行けない子どもが、病室や自宅などの遠隔地からパソコンやタブレット端末を使い、インターネットを介して教室にいるロボットを操作することで、授業を受けたり、友だちと話したりできるようにする。あたかも、本人がそこにいるかのように振る舞うことができる。


 オリヒメは、人の上半身の形をしており、手を挙げたり拍手したり、頷いたりと感情を表現できる。マイクやスピーカーも内蔵しているので、友達や先生と会話することも可能だ。


 また、分身ロボットは、「学校に行けない教師」の支援でも役立っている。広島県御調高校では、難病で卒業式に出席できない教頭先生が、オリヒメを通じて卒業生たちを見送り、話題となった。


 オリィ研究所代表取締役の吉藤健太朗氏によると、オリヒメは「心の車いす」だという。車いすで身体を運ぶ代わりに、心をロボットに載せて運ぶのだ。

「アバターワーク」が障がい者や難病患者の社会参加を促進

 分身ロボットは、学校以外にも様々なシーンで活用され始めている。その一つが、障がいや病気、育児、介護などの理由で働くことができない人の就業支援だ。2018年11月、「分身ロボットカフェ」が東京都赤坂にある日本財団ビルに期間限定でオープンした。店内で給仕をしているのは全てオリヒメ。注文した品をテーブルに運ぶだけでなく、お客様との会話などの接客もする。


 オリヒメを遠隔地から操作しているのは、障がいや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病で外出できない人たち。視線でロボットを操作できるシステムにより、身体を動かすことが難しいALSの患者でも、ロボットの操作はもちろん、視線でテキストを入力し、ロボットを介してお客様と会話できる。これにより、従来のテレワークでは不可能だった、「現場での作業」という仕事も可能になる。


 分身ロボットを使って働く「アバターワーク」が拡大すれば、障がい者の就業機会や社会参加の機会が増え、自立支援にもつながる。NTTクラルティでは実際に、障がいにより通勤が困難な社員が会議に参加したり、社内とのコミュニケーションを補助したりする目的でオリヒメを活用している。


 また、育児や介護で出社するのが難しいケースについても、オリヒメを活用したアバターワークに期待が集まる。育児で会社を1年、2年と休んでしまうと、復帰が難しくそのまま退職するケースは少なくない。こうした状況を避けるために、育児中には自分の代わりに分身ロボットに「出社」してもらうというアイデアだ。オフィス内においた分身ロボットからは、その人の声がして会話ができるほか、簡単なジェスチャーで現場に指示を出すこともできるので、通常のテレワークより「人」としての存在を感じることができるという。


 分身ロボットのユニークな活用では、結婚式場がオリヒメを活用し、事情により結婚式に来られない人が遠隔地からオリヒメを操作して結婚式に参加できるサービスを提供している。新郎新婦への祝辞のほか、他の出席者と会話を楽しむこともでき、利用者に喜ばれているという。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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