業界の中で移動する知識が、生き残る企業を生むという事実


 知識はいかにしてこの社会を移動するのだろうか?ヒダルゴ氏らの研究グループは、ブラジルの労働人口5000万人以上を対象に、どのように知識が移動するのかを詳細にトラッキングし、分析した。その中で非常に興味深い結果が、知識がどのようにして企業間を移動するのか、そして知識の移動の結果、どんな企業が生き残りに成功するのかだ。


 手法として、その地域で草分け的な企業「パイオニアファーム」に着目し、その企業におけるすべての人材の移動をデータ化し、分析した。


「10年間、パイオニアファームが人材の選択にどのような判断を下してきたのかを分析していきました。すると、人材の移動として特筆すべき点は、パイオニアファームにおいて「同業界の人材を採用した」ケースはかなり低いということでした。つまり、多くのパイオニアファームでは、まったく関係のない業界から人材を採用していたのです。


 次に、長期間生き残り、成功したパイオニアファームの特徴を見てみると、驚くべきことに、生き残ったパイオニアファームは共通して、大多数とは異なり、「同業界の人材を採用した」ことが分かりました。


 この結果から、企業を存続させたい場合には、同じ業界の中で経験のある人材を採用した方が良いということが分かりました。企業の存続には、営業などの職種においても同業界の知識の集約が必要であるということです。この事実により、特定企業の生存率も予測することが可能です」


 ヒダルゴ氏は、データによって国の発展や企業の生存率を予測するためには、「パイプライン」の作成が重要になると話す。バラバラの個別のデータを見ていても「通勤に肥満は関係しているのか」といった、複合的だが実用的な回答を得ることは難しい。複数のデータを融合させ、ストーリーのある全体像「パイプライン」の設計が重要になるという。今後はより充実したツールを開発し、それらを自動化してゆくことが課題だという。


コードを書くことなく、データをストーリーにすることができるツール。半自動の可視化と、統計解析の技術が統合されている。MITメディアラボのオープンソースリサーチプロジェクトとして、無償で公開されている。

「現在はAI戦略ばかりが話題にのぼりますが、大切なことはパイプラインの設計です。“美味しいケーキをつくる”というパイプラインを考えたとき、AIは玉子のような要素にすぎません。小麦や生クリームなど、様々な材料が適切に調理され、一体にならなければなりません。AI戦略よりも、そうしたパイプラインをいかにつくるかという議論がもっと行われるべきだと感じています。


 成長はすべからく知識の集約型に依存しています。もし、企業間で競争したり、国の発展を考えるのであれば、これからは知識のフローをどのように利用するかがますます重要になるでしょう」


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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